“Dynamic Football”体現 見え始めた藤本主税監督のカラーとは

巻き返しのシーズンが幕を開けた。昨季はJ3参入後最低の順位となる18位。クラブワースト記録の14試合未勝利のまま、暗いトンネルを抜け出せなかった。それを踏まえて今季は、藤本主税新監督を招へいしてリスタート。クラブとしては「土台づくりの1年」と捉えているが、J2昇格を目指すことに変わりはない。

文:田中 紘夢

前体制で築いたベースを継承
攻守のアグレッシブさは不変

「皆さんも関西に5年住めば関西弁になると思う。5年もいれば好みのサッカーも似てくるし、僕の土台になっているのは間違いない」

藤本監督は昨季までの5年間、大木武監督率いるロアッソ熊本でコーチとヘッドコーチを務めた。師匠から受けた影響は大きく、いわゆる“大木イズム”を指導に織り交ぜている。

それは髙木理己前監督も同様。2011年から3年間、大木監督が率いる京都サンガF.C.でコーチとして指導していた。

つまりは2人の“大木チルドレン”が、長野の監督としてバトンを繋いだわけだ。

「大木本店に対して、髙木チェーン店と藤本チェーン店の違い」

独特な表現で説明するのは、京都時代に大木監督のもとでプレーした加藤弘堅だ。

取材する側からしても、髙木前監督と藤本現監督の言い回しはどこか似ているように思える。それは両者が似通っているというよりも、大木監督の影響を多分に受けてきたからなのだろう。

そんな間柄もあってか、戦術的なベースは大きく変わらない。

システムは表記上で言えば同じ3-4-3。昨季は中盤がボックス型で、今季はダイヤモンド型とやや異なるものの、選手たちからすれば大きな違和感はないだろう。守備でも引き続きハイプレスを前提とし、形は違えど人を果敢に押し出していく。攻守にアグレッシブなスタイルは不変だ。

大きな変化があるとすれば、より主体的にボールを保持すること。昨季の平均ボール保持率は46.1%で、リーグ2番目に少ない数字だった。ビルドアップに固執せず、縦方向への意識が高かったことが表れている。

それが今季は変わった。

可能な限り敵陣で試合を進めたいのは同じだが、ショートパスの割合が昨季よりも増えている。パスのテンポやスピードも一段階上がった印象だ。

守備においても「ボールを持てば点は取られない」という考えがあり、自ずとボール支配率も上がってくるだろう。

選手たちの中には「ガラッと変わった」と話す者もいる。もちろん捉え方次第だが、自分からすれば根本的な部分は変わらないようにも思える。

攻守においてアグレッシブで、プレーの連続性が大原則。人とボールが常に動き、新任の西山哲平スポーツダイレクターの言葉を借りれば“Dynamic Football”を標榜する。

今季も勇猛果敢な獅子たちの姿が見られるはずだ。

ムードメーカー不在も問題なし
全員で勝者のメンタリティを

雰囲気の変化も感じ取れる。

昨季は杉井颯という分かりやすいムードメーカーがいた。彼が鹿児島ユナイテッドFCに完全移籍したいま、そういったタイプの選手が明確にいるわけではない。

ただ、それがネガティブに作用しているわけではない。「戦術的な要素のコミュニケーションというところは、去年よりも質が上がっている感覚がある」とチーム最年長の加藤。砂森和也らも含めたベテランの発信力は高く、中堅と若手も呼応している。

「誰が」ではなく、「全員」で言い合えるのが今季のカラーだ。

前体制の反省も生かされている。

昨季はリーグ4番目に多い57失点。自陣でのミスから軽率な失点も多く、立ち直るのも容易ではなかった。その原因もチームとして追求しきれず、言ってしまえば“うやむや”になっていた。

それも踏まえて今季は、選手たちから指揮官に向けて「明確にしてほしい」というリクエストもあったようだ。

スタッフの力を借りつつも、自ら率先して行動するのがプロフェッショナルだ。1次キャンプ中に行われたトレーニングマッチの藤枝MYFC戦。J2の格上相手に先制を許すも、直後にキックオフの流れから同点に追いついた。

軽率な失点をしないこともそうだが、このように失点後に立ち直るメンタルも必要とされる。

藤本監督の言葉を借りれば、「勝者のメンタリティ」とも言い換えられる。岳南Fモスペリオ戦では、東海社会人リーグ1部を相手にまさかの5失点。2本目までに1-5と引き離されたが、3本目に意地を見せた。

若手から中堅が主体となる中、高卒2年目のイ・スンウォンがハットトリックを決めるなどして6-0と大勝。最終スコアでも7-5と逆転勝ちを収めた。5失点は不甲斐なかったものの、それをチームとして取り返せたのはポジティブだろう。

“産みの苦しみ”を味わいながらも、着々と前に進んでいる感覚はある。「三歩進んで二歩下がるではないけど、そういうふうにやっていければ」と加藤。開幕後も苦しい時期は来るだろうが、歩みを止めてはならない。

チームは県内でトレーニングを積み、2月11日から宮崎県綾町での2次キャンプを迎える。トライ&エラーを重ねながら土台を築き、J2昇格に向けて巻き返しを図る。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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