“信州ダービーの徒花”にあらず リーダーに変貌を遂げる大野佑哉

2025年1月30日、AC長野パルセイロのゲームキャプテンとチームキャプテンが発表された。ゲームキャプテンには、昨季もキャプテンを務めた木曽町出身のMF三田尚希。そしてチームキャプテンには、阪南大時代以来となるDF大野佑哉が任命された。加入3年目の28歳。安定感を欠きがちだったかつての姿から脱却し、誇り高き獅子のリーダーとなれるか――。胸に秘めた思いに耳を傾ける。

文:田中 紘夢

メンタルを克服してキャプテンに
布啓一郎氏の支えも成長に繋がる

「何かやらかしたかな…」

第1次御殿場キャンプを終えた後の1月下旬。大野は練習前、藤本主税監督から呼び出しを受けた。

FW浮田健誠、MF忽那喬司とともに、クラブハウス内の個室へ。そこでゲームキャプテンに任命された。当初は何を言われるか不安もあったといい、副キャプテンの浮田も同じ気持ちだった。

ただし、予兆がなかったわけではない。

その数日前にも、藤本監督から「今までにキャプテンをやったことはあるか?」と聞かれていた。阪南大時代にキャプテンを経験したものの、本人いわく「やる人がいなくてやったみたいな感じだった」。

「あのときはメンタルがブレやすかったし、チームに悪影響を与えるような振る舞いもあった。プロの世界でキャプテンとなったら、自分の姿勢だったり熱量が、チームの姿勢だったり熱量にもなる。どんなときも先頭に立ってポジティブに振る舞いたい」

プロ入り後もメンタル面は課題だった。スピードを生かした守備能力はピカイチだが、プレーがなかなか安定しない。練習での振る舞いを見ても、模範的とは言い難かった。

毎年のように「今年こそは」と意気込んできたが、「人間が変わるのはなかなか難しいな…」と自覚していた。

とはいえ、変わろうとする姿勢は見受けられる。

過去の記事でも触れたように、昨季はメンタルの波を抑えることに着目。それによってプレーにも落ち着きが出始め、「苦手」と言われ続けてきたビルドアップも遜色はない。

恩師の存在も大きかった。

昨季までヘッドコーチを務めていた布啓一郎氏。大野にとっては松本山雅FC時代の監督で、大卒2年目でプロデビューに導かれた存在でもある。昨季は4年ぶりにともに戦うこととなり、コミュニケーションを図る機会も多かった。

PROFILE
大野 佑哉(おおの ゆうや)1996年8月17日生まれ、東京都出身。山梨学院大附高でセンターバックに転向し、渡辺剛(ベルギー・KAAヘント)と最終ラインを組んだ。高校時代の1年先輩に山口一真(松本山雅FC)、1年後輩に前田大然(スコットランド・セルティックFC)。阪南大ではキャプテンを務め、卒業後の2019-22年は松本山雅でプレーした。23年に長野へ。スピードを生かしたカバーリングなどを得意とする。179cm、70kg。

「山雅の時はまだ試合に出始めたばかりで、厳しいことを言われることも多くて、『なんだよ…』と思うことも多かった。そこから去年は毎試合後に15分くらい話したり、練習でも思っていることを聞いてくれた。布さんが意見を言ってくれたのも成長に繋がった」

チームキャプテン三田を指標に
“中堅世代”の3人が核となる

そんな恩師は昨季限りでクラブを去ったが、大野には頼もしい仲間がいる。

チームキャプテンとして三田尚希、副キャプテンにDF砂森和也とMF加藤弘堅。30代の経験豊富なベテランが名を連ねており、ゲームキャプテンの大野にとっても頼れる存在だ。

ゲームの副キャプテンには、大野と同じく中堅世代の浮田と忽那。チームキャプテンたちがピッチ内外で集団をまとめ、いざ試合となればゲームキャプテンたちが中核を担う――そんな構図だ。

各社の報道では三田の名が前面に押し出されているが、藤本監督からすれば「それでいい」。2年連続で大役を担う三田は、チームにとって“指標”となる存在だ。「いつも平均値以上のプレーを出していて、人としてもプレーヤーとしても一番安定感がある。そこが信頼に足る」と指揮官は言う。

ゲームキャプテンに求めるのも、三田のような振る舞いだ。

藤本監督は「試合に出ようが出まいが、良いプレーをしようがしまいが、いつも平均値以上を出してほしい」と期待。昨季は主力として活躍した3人だが、「プレーを見ると一喜一憂するところはある」。何事にも動じない姿勢を示しつつ、時には喜怒哀楽を見せてチームに発信していきたい。

脂の乗った時期を長野で過ごす
さまざまな責任をその背に乗せて

試合中にその役割を果たすのは、やはりキャプテンマークを巻く大野だろう。3バックの中央というポジションを踏まえても、彼の言動がチームを左右するのは間違いない。決して声を張り上げるタイプではないが、コーチングも意識的に取り組んでいるという。

大卒から4年間を松本山雅で過ごし、AC長野で3年目。J3では4年目を迎える。今年で29歳となり、選手として脂の乗っている時期だ。プロ1年目の2019年に立てなかったJ1の舞台へ戻るためにも、立ち止まっている余裕はない。

「今年は始動から意識を変えようと思っていたし、キャプテンになってよりチームを引っ張る気持ちが強くなった。プレーヤーとして先が見え始めている中で、まだラストチャンスではないけど、上への道もだんだん狭くなっている。もう一回サッカーに真剣に取り組む年にしたい」

2023年8月には入籍を発表。第1子の誕生も控えており、父親となる責任も芽生えている。ピッチ内外で背負うべきものが増えており、「自分のことだけじゃなくて、周りも引っ張っていけるように努力したい」と力を込める。

単なるビッグマウスでもなければ、信州ダービーの客寄せパンダでもない。長野の誇り高きキャプテンとして、その背中はたくましさを増す。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

LINE友だち登録で
新着記事をいち早くチェック!

会員登録して
お気に入りチームをもっと見やすく

人気記事

RANKING

週間アクセス数

月間アクセス数