須坂から羽ばたいた“思いやりのリベロ” 山岸あかねがラスト・ダンスのCSへ

須坂から羽ばたいたヒロインが、ラスト・ダンスの舞台に臨む。SVリーグ女子・埼玉上尾メディックスのリベロ(L)山岸あかねだ。5歳の頃から姉の影響でバレーボールを始め、30年近い年月をバレーとともに歩んできた。今季はリーグ開幕前に引退を表明。レギュラーシーズン最終節で300試合出場の節目に至った。その歩みと、最終決戦のチャンピオンシップ(CS)に向けた思いを取材した。

文:大枝 史/編集:大枝 令

長野で練り上げたバレーの土台
学んだのは“当たり前”の大切さ

2025年3月下旬、埼玉県桶川市。
トレーニング会場に訪れると、山岸は終始笑顔を見せながらメニューを消化していた。

「楽しんでやり始めたのが始まりだし、監督も『どれだけ楽しめるか』をよく伝えてくれたりする。社会人になったからこそ自分で考えてやるのがより一層大事。自分に厳しくやるのも大事だけど、楽しみながらやれている」

初めてバレーボールに触れたのは幼少期。姉の影響で始め、全国的な強豪・裾花中へ進学した。その後東レなどで活躍する同学年の峯村沙紀が来ることも、背中を後押しした。

「当時は全国大会に出たいというか、ただ『ちょっと行ってみたい』という気持ちだった」

とはいえ、2年生と3年生の時に全国優勝を果たす。

「厳しいながらもみんなで楽しんでバレーができていた」と当時を振り返る山岸。中学時代の経験が、その後のキャリアの基盤となっていく。

そして高校進学時、山岸は大きな決断をする。

「高校になってからはリベロをやりたい」と伝え、東海大三(現東海大諏訪)高でポジション転向。高校からはネットが高くなるため、自らの判断でリベロを希望した。

結果的にはこれが、長いキャリアにつながる転機だった。

「長野はバレーが盛んで強くて、本当にたくさんの素晴らしい指導者の方に技術の基礎を学ばせてもらった」

「小学校の頃から当たり前のことを当たり前にやる。細かい基礎を小中高で学んだことで今のプレーに繋がって、長く続けられたと思う」

PROFILE
山岸 あかね(やまぎし・あかね) 1991年1月8日生まれ、長野県須坂市出身。5歳から姉の影響でバレーボールを始めた。裾花中時代は2年時と3年時に全国制覇。東海大三高(現東海大諏訪)では春高バレーでベスト16。東海大学へ進学し、3年時にはインカレ優勝を経験。卒業後は上尾メディックス(現埼玉上尾メディックス)に入団。以降12年間活躍し、24-25シーズン限りで引退を表明した。165cm。ポジションはリベロ(L)。

「次の人のために」を徹底する
リベロが見つめる6人のつながり

リベロとして大切にしてきたのは「思いやり」だという。

「繋ぐスポーツなので、どれだけ丁寧に触って、次の人がプレーしやすいか。常に周りの人のプレーのしやすさを意識してやってきた」

その献身性は代表活動にも繋がる。
2024年のパリオリンピックでは、“13人目の選手”として選ばれて日本代表に帯同した。

「もちろん自分も一生懸命やるけど、それでかなわないのならサポートを自然とする。やるべきことはそこしかない」

それは、いつも通りの「思いやり」。自身にとって、特別なことは何もなかった。

守備範囲の広さも「オフェンスの人がどれだけやりやすくできるかが大事」と心掛けているからこそ。

「人を動かして自分がボールを取ることが生きる道だった」

「1人ではやっぱりできない。コートに入っている6人の力でチームが勝つと思う」

読みや相手のクセを見抜き、ブロッカーとの信頼関係を築く。後方から指示を出して、攻守をコントロールする。そうやって、チーム全体のプレーを常に考えながらキャリアを過ごしてきた。

一つ一つのプレーも、コート内外での行動もそう。全ては「思いやり」から生まれている。

「楽しむこと」が続ける秘訣
チャンピオンシップも平常心で

東海大を卒業後、上尾メディックスに入団。1年目から昇格を経験し、長いキャリアの中では歓喜も悲哀も経験してきた。「なかなか1つのチームでできない経験」と振り返るように、さまざまな局面を乗り越えてきた。

そして2024年10月、24-25シーズン限りでの現役引退を表明。ラストシーズンもコンスタントにコートに立ち、その姿を示し続けてきた。

「本当に引退するのかな――と思うぐらいバレーに没頭できている」

「今は実感もしていないので、いつもの1シーズンだと思ってできている。それもいいことなのかな」

最後だからこその差し迫った感情は去来せず、これまで通り平常心で臨む。最終節では300試合を達成。チャンピオンシップが、本当に最後のひのき舞台となる。

過去2回のチャンピオンシップは、ともに準決勝敗退。有終の美を飾れれば理想だが、自身はまず周囲を「思いやる」。

「『最後だから頑張っているんだな』と、周りに私の気持ちも押し付けたくない。本当に最後だけど、普段の1シーズンと思って、チームとしてはいつも通りチャンピオンを狙いにいくことが大事」

これまで通り。平常心で、仲間を思いやる。
その先に、SVリーグ初代女王の栄冠がある。


SVリーグ女子 チャンピオンシップ概要
https://www.svleague.jp/ja/sv_women/topics/detail/23390
クラブ公式サイト
https://amg.or.jp/medics/

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