勇猛果敢にコートを制圧 ウルリック・ダールが振り下ろす“テュールの左腕”

若きデンマーク人オポジット(OP)が今季、SVリーグ男子で自らの旗を打ち立てた。VC長野トライデンツのウルリック・ダール。得点を決めれば雄々しく咆哮し、その剛腕で何度となく窮地を救ってもきた。チームを牽引する勇猛果敢な姿は、北欧神話の軍神テュールを想起させる。エア・ウォーターアリーナ松本で改修後初開催となる5-6日のSTINGS愛知戦を含め、残り4試合は全てホーム。どんなラストシーンに導きたいか、デンマーク代表候補にも選ばれた24歳に胸中を聞いた。
文:大枝 令
豪快に、勇壮に、時には荒々しく
エネルギッシュなプレーで牽引する
201cmの身体で高空に舞う。
ライトから、アタックラインの後方から、理不尽な一撃を振り下ろす。
強烈なサーブを繰り出せば、会場が息をのむ。
時にはキルブロックも冴えわたる。

自らの左腕で得点を決めれば、表情豊かに喜びを表現する。
その咆哮はあたかも、バルト海に君臨するヴァイキングのそれを彷彿とさせる。
そうしてアリーナの熱源となり、チームを牽引してきた。SVリーグ元年の荒海に出て、五里霧中の航路を率先して切り開いてきた。

「総じてどこのチームもレベルが高い。 その中でも自分は『やれている』という印象がある」
4月3日の時点で、各種スタッツもリーグのトップ10にランクインしている。総得点は7位の733(アタック656、ブロック40、サーブ37)。50.4%のアタック決定率も9位となっている。

PROFILE
ウルリック・ダール(Ulrik Bo Dahl) 2000年11月18日生まれ、デンマーク出身。14歳の時、3歳上の兄の影響でバレーボールを始めた。年代別のデンマーク代表に選ばれ、19歳からイタリア、ベルギー、スペインでプレー。2023-24シーズンはサン・ロケ(スペイン)でサーブ賞を受賞した。今シーズンからVC長野に加入。強打のオポジットとして中軸を担う。201cm、97kg。最高到達点363cm。
もちろん、それらの数字はチームトップ。挙げた10勝のうち負傷離脱していた広島TH戦以外の9勝は、その左腕が大きな役割を果たしてきた。
例えば前節、3月30日の東レ静岡戦GAME2。ブロックの応酬となった試合で、両チーム最多の5回をマーク。アタック27点もサーブ効果率11.2も、両チーム最多の数値だった。

「1〜2セット目はスパイクが良くて、ブロックに関してはゲームを通してすごく良かった。サーブはゲームの途中で修正できて、終盤には良いサーブを打てた。トータルで見ればすごく良いゲームだった」
「SVリーグはすごくレベルが高くて、うちより予算があって良いプレーヤーを集められるチームもある。そういう中で10勝できたのはよかった」

節目の10勝目を挙げた静岡・このはなアリーナ。取材に応じたエースは、納得の口ぶりで振り返った。流暢な英語で快活に話す表情は、鬼気迫るコート内のそれとは対照的でもある。
10勝目を挙げた直後に明かす本音
“常に100%”の攻め気にこだわる
ただし、自身で見据えた水準に達したわけではなかった。
「前半戦で5勝を挙げたので、自分のゴールとして後半はもう少し勝ちたいと思っていた。14〜15勝を目指していたので、満足いく結果ではない」
「自分自身(のパフォーマンス)としても、もっと自分のレベルを上げていけるように戦えたらいい」

さらなる高みへ――。
そのためのアプローチも自覚している。「オポジットの役割は得点を取ること。やっぱりアタックはこれからも改善していきたい」といい、セッター陣とのすり合わせに余念がない。
同時に、シーズンを過ごしながら日本人選手のマインドにも気付いた。それを理解した上で、自身が果たすべき役割を見据える。

「なるべくミスをしないように…という考えが、特に日本人選手は持っているような印象がある。だけどOPオポジットという立場で、このリーグの高いレベルを考えると、常に本気で行かないと通用しない」
「そもそも100%で思い切りプレーするのは自分のプレースタイルでもある。ミスを恐れて『返すだけ』とかじゃなくて、ミスになるかもしれないけれど、思い切り打ち込むことを意識している」

強気のプレーが奏功すれば、一気に臙脂色の気運は高まる。豪快に正面突破するウルリックのプレーは、アリーナの雰囲気を一変させるだけのインパクトも持つ。
だからと言って、ミスに対して開き直っているわけではない。例えば実際、サーブ失点も155とリーグ4位の多さ。世界水準のストロングサーバーがひしめくリーグの中で、攻めの姿勢を貫くがゆえにネットにかかることもある。

「もちろんミスは減らさないといけない。悪い体勢から無理に打ってブロックに引っかけられるのではなく、例えばブロックアウトで相手を利用して出したり。そういう戦術的な部分が改善できればいい」
北欧神話の軍神さながらに
勇猛果敢なマインドで正面突破
初来日から約8カ月。生まれ育ったデンマーク・コペンハーゲンから直線距離で約8,600km離れた伊那谷に単身やって来て、チームメイトと呼吸を合わせながら、40試合を駆け抜けてきた。

サントリーと初顔合わせした第17節は、相手のクオリティにインパクトを受けた。218cmのロシア人ドミトリー・ムセルスキーとは16歳の時以来の2ショットを撮ってもらい、9年前の写真と並べるInstagramのストーリーを上げた。
ただそれは決して、「憧れ」を意味するものではない。

「同じレベルで戦っているのだから、自分がいちファンであってはいけないと思っている。普段はめったにそういうことをしない」
2016年当時は欧州チャンピオンズリーグの予選がデンマークで開かれたといい、写真はロシア時代のムセルスキーとボールパーソンのウルリックが撮った一枚だった。

「どちらかと言ったら、『自分が今ここのレベルに来たんだ』という思いで撮らせてもらった」
あくまでも同じ地平で戦う選手同士だ。こうした芯の強さも、格上ひしめくリーグで伍していくには欠かせない要素だろう。
そして今シーズンのVC長野に残されたリーグ戦は、泣いても笑ってもあと4試合。全てホームゲームで問答無用の格上を迎えるものの、これまでの歩みを踏まえれば臆する理由は何もない。

「サントリーやジェイテクト(STINGS愛知)相手にも全然戦えることは証明できているし、チーム一つになって戦えれば勝てるチャンスはある」
「 相手はプレーオフにも照準を合わせていかないとダメだけど、うちはもうラスト4ゲームだと決まっている。その中で力を発揮できれば勝てる」

北欧神話の軍神テュール(古ノルド語:Týr)。正々堂々と戦う勇猛果敢さで知られ、中世以降に描かれた図像や絵画では左腕一本に剣を携える。
ひるがえって、21世紀の極東。
忽然と現れたデンマーク人OPも同じように、剛毅の左腕で勝利をもたらす。

SVリーグ第22節 STINGS愛知戦 試合情報
https://vcnagano.jp/information/17654
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461