松本山雅が中学部活動地域移行に本格参入 まずはボートなどで下諏訪町から

株式会社松本山雅が中学校の部活動地域移行の受け皿となる事業を本格スタートすることが2025年5月7日、わかった。すでに下諏訪町からは4月末に事業受託の内定を得ており、ホームタウンを中心に近隣自治体にも売り込みをかけている最中。クラブとして蓄積した「指導者の確保・養成」などサッカー内外の分野で行いながら、オフィシャルパートナー・セイコーエプソン(本社・諏訪市)など3〜4社の協力も得ながら一元的なソリューションを提供する(サムネイル写真は下諏訪町HPより)。
文:大枝 令
松本山雅が事業主体となって運営
エプソンのハードとソフトも活用
クラブを運営する株式会社松本山雅が発案し、事業主体となる。「活動スケジュール調整」「指導計画作成」「指導者間の情報共有」などクラブでの指導を管理。このほか用具の保守管理や緊急時対応も手がける。
コンプライアンスを含めた指導者の育成に関しては、株式会社クレステック(本社・静岡県浜松市)に依頼。Jリーグなどで実績のあるカリキュラムと自前のe-ラーニングシステムを準備しており、指導技術/安全管理/コンプライアンス/ハラスメント――の4分野に関する研修を行う。
そして最大のポイントは、各種アプリ/デバイスの活用による効率化だ。
まず一元管理可能なアプリケーションの開発をセイコーエプソンに依頼し、生徒情報の管理や活動予定の共有、出欠連絡、月謝納入、試合結果共有などを行う。指導者に向けても、指導情報と指導履歴などの管理やスケジュールの共有、経費申請、謝金支払いなどをアプリ内で完結させる。
さらに、運動系部活動の受け皿となる場合は、同社から提供を受けたGPSデバイス「M-Tracer」の活用をセットとする。松本山雅のトップチームでも毎年、スプリント/ジャンプ/サイドステップなどの数値を計測しているデバイス。計測した結果は蓄積されて成長ログが確認できるほか、レポート閲覧機能も持たせる。
本格的な競技志向のクラブでなくても、運動機能の維持/向上に寄与していきたい考え。クラブ幹部は「外で体を動かす機会が少ない風潮になっているだけに、アスリートでない子でも運動機能をトレースすることにも意義がある」と話す。
第1弾は下諏訪町からスタート
ボートなど3団体の運営を実施へ
こうした全体像を描き、松本山雅が事業主体のハブとなって自治体の案件を獲得しにいく。第1弾となる下諏訪町でもプロポーザル形式で募集し、松本山雅が受託。諏訪湖に面した赤砂崎付近で活動する漕艇(ボート)部など3団体を運営することとなる。
拠点となる下諏訪町ローイングパーク(AQUA未来)は、長野県内唯一の漕艇場。1000mコースを6レーン有し、1978年やまびこ国体でも2028年国民スポーツ大会でもボートの会場となる。
湖周の中高には漕艇部・端艇部などがあり、コンスタントにインターハイなどで成績を収め、過去にはアテネ-ロンドンの五輪4大会出場の岩本亜希子さん(アイリスオーヤマ、岡谷南高-早大-日体大院出)らを輩出した実績を持つ。
松本山雅にとっては異競技となるが、サッカークラブの運営を通じて得た各種のノウハウを抽象化して横展開。約1,000人のスクール事業で蓄積されたノウハウを管理運営に活用する。それだけなく、「松本山雅」の名称を活用したさらなる広がりも模索できそうだ。
広域連携が可能となるメリット
受託金+企業協賛+月謝で利益を
松本山雅が手を広げるメリットはこのほか、市町村を問わずに情報共有などが可能となること。ある自治体で特定のスポーツの指導者が見つからなくても、松本山雅がハブになれば他市町村から紹介できる。
「下のレイヤーで山雅がハブになって連携することによって、隣の市や隣の町の指導者も共有できるし、地域や子どもたちもどちら行ってもらってもいい。そういう広域の世界観を作って運営するのも自治体にはメリットとなる」
このプロジェクトを進めるクラブ幹部はそう強調する。実際にこうした弾力的な運用が可能となり、生徒の側からもメリットが見込める。
さらにこのプロジェクトではJFA(日本サッカー協会)の指導者ライセンス制度を援用し、独自の指導者認証制度の創設も視野に入れる。ピラミッド方式の明確なライセンス制度を参考にしながら、地域の実情に合わせて最適化して横展開。ここでもノウハウを生かす。
自治体からの受託金、企業からの協賛金、受益者からの月謝を3本柱として運営していく。このほか地域が中信地方である場合は、株式会社TOYBOXが施設の運営管理を行う。この仕組みを応用して、各種自治体に広げていきたい考え。