獅子の気概は「Sky」に乗せて天に通ず チーム発信で実現した“長野一心”の新儀式

新たな“儀式”が生まれた。2025年6月14日、AC長野パルセイロのJ3リーグ第16節・FC岐阜戦。選手がウォーミングアップに向けてピッチに登場すると、ゴール裏のサポーターは肩を組んでチャント「Sky」を歌った。選手とスタッフも目の前でスクラムを組み、声援を噛み締める。藤本主税監督の古巣・ロアッソ熊本から着想を得た新たな取り組みだ。その背景には、一体感を高めたい――というチームの思いがあった。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
サポーターとともに一体感を
指揮官がチームの意見を集約
「ウォーミングアップ前にみんなで肩を組んで歌いたい」
ホームFC岐阜戦の2日前の夜。
チームから荒木亮輔運営担当を通じ、徳永就大コールリーダーにメッセージが届いた。
文言とともに添えられていたのは、藤本主税監督が自ら編集した動画。選手入場時にサポーターが歌う「Sky」が映し出されていた。
「『HIKARI』とも似ている。『オーオオオー』という感じで始まって、最後にテンポが上がる。選手もみんな好きだと言っていた」
HIKARIとは、藤本監督が13年間在籍した古巣・ロアッソ熊本のチャントだ。

ウォーミングアップ前に選手とスタッフがゴール裏に赴き、サポーターとともに肩を組んで声援を噛み締める。ピッチとスタンドの間に境界線はあれど、一体となって戦うための儀式だ。
「あれを聴いているときはめちゃくちゃ昂った」。藤本監督がそう言えば、ジュニアユース時代から熊本でプレーしていた樋口叶も異口同音に「ああいうのはめちゃくちゃ気持ちが上がる」と話す。

サポーターとともに戦う――。
チーム内から「一体感を高めたい」という声があった中で、指揮官もそれに同調。実現に至った。
選曲にはSkyがうってつけだった。
選手入場時に歌うチャントで、北信越リーグ時代の2010年より定番化。当時のサポーターズグループ「HINCHADA NAGANO」から継承されて今に至る。

「オオオーオオオオー」という歌い出しから、終盤にかけてテンポが上がる。シンプルな旋律で、耳に快く響いてくる。
「選手はSkyだけじゃなくて、『千尋の谷』も好きだと言っていた。『どっちがいいかな?』というふうに話したけど、Skyのほうがセレモニーには向いているのかなと」
チームとして意見を集約し、Skyを選曲。荒木運営担当を通じ、コールリーダーのもとにメッセージを届けた。
KINGDOM パートナー
当日朝にクラブOBから要望
背水の陣で“強行開催”に至る
「素直にうれしかった。サポーターがチームを支えていかないといけない一方で、チームの意見も聞きながら一緒に作っていきたいと思っていた」
チームからメッセージを受け取った徳永コールリーダーは、「前向きに検討させてほしい」と応えたという。

サポーターズグループ「Frente de Nagano」の中でも、以前からSkyをウォーミングアップ前に歌うアイデアはあった。その案がチームと合致したわけだ。
ただ、障壁がなかったわけではない。
話が生まれたのは、ホーム岐阜戦の2日前の夜。サポーター間で企画や周知を進めるには時間が足りず、当初は岐阜戦後のホームゲームから実施することを検討していた。
それでもチームからすれば、早々にサポーターの力を借りたい思いもあった。

直近10試合でわずか1勝と苦しい状況。アウェイで不甲斐ない敗戦に終わり、背水の陣でホームに帰ってくるタイミングだった。
進展があったのは当日の朝。
チームを代表して、クラブOBの旗手真也強化担当から徳永コールリーダーに再度依頼した。
「『ここが踏ん張りどころ』という中で、ぜひ今日からやっていただきたい」
その思いを汲み取り、サポーターは急ピッチで準備を進める。SNS上で周知されたのは、キックオフ約4時間前。情報が十分には行き渡らなかったものの、なんとか形にはなった。
「サポーターのために」
獅子の心を震わせたアンセム
“オオオー オオオオー オオオー オオオオー
走れ闘え 力の限り
オオオー オオオオー オオオー オオオオー
勝利を掴み取ろう 長野パルセイロ”
ウォーミングアップ前。
チーム全員で肩を組み、Skyを歌う。
長野Uスタジアムの空に鳴り響いたアンセムは、獅子の心を震わせた。
「長野に来て長いけど、あの曲を目の前でしっかり聴くのは初めてだった。いろんな思いが生まれたし、『サポーターのために』という気持ちにもなった」

地元・木曽町出身のゲームキャプテン、チーム最古参6年目の三田尚希は言う。選手の後ろでスタッフとともに肩を組んだ藤本監督も、感銘を受けたようだ。

「Uスタ(長野Uスタジアム)は声が響くし、長野のサポーターは人数も多くてすごく迫力があった。ここは俺らが頑張って、ただみんなが応援するという場じゃない。それを繋ぐ儀式としてすごくよかった」
試合は1-2と敗れたが、今季最多となる16本のシュートを放った。勇猛果敢にゴールへ向かう獅子の群れ。その背中を後押ししたのは、紛れもなくサポーターだった。

ウォーミングアップ前のSkyは、今後も毎ホームゲームで実施する予定。今回はショートバージョンでのお披露目となったが、これが完成形ではない。歌詞の変更なども検討しながら、クラブとともに練り上げていくつもりだ。
クラブ公式サイト
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