“中立地帯”の利点活用 緑と橙のレガシーが可視化された「レジェンドマッチ」

中立だからこそ、できることがある――。フットサルのボアルース長野が2025年8月、サッカー松本山雅FCとAC長野パルセイロのOB戦信州ダービー「レジェンドマッチ」を開催した。北信越リーグやJFL(日本フットボールリーグ)時代も含め、往年の名選手らが集結。企画の狙いや背後の思いなどを、両クラブのOBである土橋宏由樹GMに聞いた。

取材:大枝 令、田中 紘夢

ボアルース長野だからこその企画
土橋GMが奔走してダービー実現

緑とオレンジを混ぜると、赤になる。
こと信州長野県のフットボール界においてのみ、その図式は成り立つ。

「僕らは中立のところにいる。だからこそできることがすごくたくさんあるのもわかっていた」

土橋宏由樹GMはそう切り出す。

自身は2006〜07年に当時北信越リーグの松本山雅FCでプレーした。08〜11年はAC長野パルセイロに在籍して現役を引退。交友関係が広く、両クラブの元選手たちとは今でも親交がある。

「松本山雅に対しても長野パルセイロに対しても一緒にイベントを開いたりとか、いろいろ協力してもらったり逆に協力したりする関係性があった」

できるならボアルース長野だけ――。
条件は整っていた。

そして当のOBたちも、信州長野のフットボール熱に飢えていた。土橋GMが明かす。

「山雅やパルセイロのOBたちは少なからず長野県に思いがあって選手の時代を過ごしている。その気持ちはやっぱりなくならない」

「そういうOBたちにとってまた何か魂が震えるじゃないけれど、そういう場所を作ってあげたいと思っていた」

実際に2019年にも第1回が行われており、当時も好評を博したという。コロナ禍を経て今回が6年ぶり2回目の開催。土橋GMが中心となってメンバーを集めに奔走した。

「一人一人に電話して交渉して…あとはウェアのサイズも確認したり。でも本当に、みんな協力的だった」。土橋GMは笑顔で振り返る。

両クラブとも、クラブのフロントスタッフやアカデミー指導者などとして残っている選手は多い。それだけでなく、県外からも足を運んだ選手もいる。

土橋GMによると、元AC長野のGK金永基さんは関西、DF鈴木祐輔さんは東京から。このイベントのために馳せ参じたという。

かくして、熾烈な生存競争を繰り広げた当時の面々がホワイトリングに集結した。

KINGDOM パートナー

気がつけば試合は「バチバチ」に
山雅からはリベンジマッチ要望も

中には2012年以降の所属で当時の信州ダービーを知らないOBもいたが、試合になれば自然と燃え上がる。

試合は松本山雅が順調に加点して6-2とリード。しかしその後はAC長野が猛反撃に打って出る。

往年のエース・宇野沢祐次さん(AC長野アカデミー・ヘッドオブコーチング兼U-18コーチ)が大量4ゴールを挙げるなど、8-7で逆転勝ちした。

「最初はエキシビションマッチの雰囲気だったけど、互いに負けず嫌いでもあるしだんだんバチバチで信州ダービーらしくなってきた」

AC長野U-18監督を務める勝又慶典さんはそう振り返る。AC長野がこれで、前回対戦時と併せて2連勝。「まだ動ける間に、毎年あってもいい」と笑みを浮かべた。

一方の松本山雅サイドは悔しさが募った。

松本山雅ホームタウン担当の片山真人さんは「いろんな人に『やるからには勝たなアカンで』と言われていて、そんな中で1点差で負けてしまって、悔しいし申し訳ない」と振り返る。

小松憲太さん(都市大塩尻高監督)は「本気で勝利を目指してお互い戦っていたパルセイロの選手とまたできるのは楽しい」と振り返りつつ、「負けるとめちゃくちゃ悔しい」と明かした。

松本山雅アカデミーGKコーチの石川扶さんからは、「悔しいから、すぐ(リベンジマッチを)やってください」というリクエストが土橋GMに寄せられたという。

引退後も長野県に残る元選手たち
信州サッカーの「財産」そのもの

今回集まった両チーム16人のうち、両クラブ内や周辺でセカンドキャリアを送る元選手は12人。この中でAC長野の野澤健一さん(市立長野高コーチ)と小松さんを除けば県外出身者だ。

地元にサッカークラブがあったからこそ、縁を繋いでこの地に根を張る。そうした面々が、愛着を持って今もさまざまな立場でサッカーに携わる。

それは信州サッカー界にとっての財産にほかならない。

勝又さんは「僕たちも信州サッカーを盛り上げたい気持ちは同じ。場を設けてくれるのは本当にありがたいし、信州サッカーにとっても大きいことだと思う」と力を込める。

土橋GMもそれを理解しているからこそ、こうした場を大切にする。

「残っている僕らとすると、彼らが帰ってきて輝ける場所はずっと作っていきたいと思っている。どこかのタイミングでまた開いて、どちらが何勝したかを蓄積し続けていきたい」

もちろん、ダービーの側面があるため火花が散ることも。その熱気も含め、信州サッカー界のレガシーが「見える化」される企画でもあった。


クラブ公式サイト
https://boaluz-nagano.com/
Fリーグ チーム紹介ページ
https://www.fleague.jp/club/nagano/

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