山本憲吾のバレーボール・ラボ(1)「攻守に光ったミドル陣の存在感」

バレーボールはスピーディーで華やかなプレーが目を引くが、その裏には緻密な戦術の応酬がある。国内最高峰・SVリーグで奮戦する男子のVC長野トライデンツも同様だ。ネットを挟んで対峙する相手と、どんな駆け引きをしながらプレーを選択しているのか。2017-21年に在籍した元リベロ・山本憲吾が、奥深いバレーボールの世界に案内する。第1回は、連勝スタートとなった日鉄堺BZ戦の勝因を解析する。
構成:大枝 史、大枝 令
KINGDOM パートナー
ミドル陣のブロックタッチが機能
新加入の44歳・松本が輝き放つ
2025-26シーズンの開幕節は日鉄堺BZに連勝。理想的なスタートを切った。
昨シーズンまではブロックが機能せずにレシーブを取れないことが多かったが、この2試合ではブロックとレシーブの関係性が非常に良好だった。

ワンタッチブロックを何回も取って、繋ぐバレー。全体的に高さがない分、ワンタッチを取るとリズムが作れる。そこからセッター(S)中島健斗のトスワークで攻める。「VC長野らしいバレー」が引き継がれているように感じた。
取ったセットはブロックタッチからコンビを組んでブレイクし、流れを自分たちのチームに持ってこられた。

その要因は、やはり新加入の44歳・ミドルブロッカー(MB)松本慶彦だ。ブロックの位置取りとタッチの本数を見ても、存在感がある。そして何よりも、大事な勝負の場面でタッチを取ってくれたのが大きかった。

挙げたい場面はいくらでもあるが、象徴的だったのはGAME1の第4セット、21-20の場面。ラリーになってから日鉄堺BZのオポジット(OP)ウルリック・ダールのスパイクをブロックタッチ。そこからの切り返しでサイドアウトを取った。

GAME1の第4セットに17-19の場面から逆転して勝利したのも、やはりブロックタッチ。昨季とは見違えるほどしつこくなった。「ここを抜けたら連続得点ができるだろう」という時の松本、山田航旗のブロックタッチが機能したのがこの2試合は大きかった。山田ら他のMB陣も、練習で松本からノウハウを伝授されているはずだ。

このほか今シーズンは、外国籍選手としっかりとコミュニケーションが取れているのが細かいプレーに表れている。アウトサイドヒッター(OH)オスカー・マドセンとオポジット(OP)マシュー・ニーブスも相手を見て動く。ムダに手を出すわけではなく、きちんとMBと連係してしているのが見えた。

タイムアウト時やコート内での振る舞いを見ても、2人のコミュニケーション能力の高さがうかがえる。
KINGDOM パートナー
MBを最大限活用したトスワーク
中島健斗の構成力で得点重ねる
ブロックタッチとセットで勝利の原動力となったのが、中島のトスワークだろう。MBを使うのが非常に巧みで、速いテンポでサイドに振ったり、トスを上げる時も何かしらタイミングを変えていると思う。

例えば山田は後ろから来る縦のBクイックを打つのは得意にしているし、手首で多彩なコースに打ち分けられる選手。こうした個々の良さを最大限に引き出しているのが中島だ。
圧巻だったのがGAME2の第2セット、11-10の場面だ。

マドセンからAパスが返った段階で、中島の選択肢は4つ。山田のAクイックか左右の外国籍選手2人、そしてOH工藤有史のパイプ攻撃だった。日鉄堺BZのブロックがAクイックを警戒していると見るや、ライトのニーブスにバックトス。ブロックを完全に翻弄した。
日鉄堺BZも途中までは対応してきた。しかしそこで工藤のバックアタックを入れたり、終盤にクイックを入れたり。第1セット、第2セットも最後は松本が決めた。そうしたバリエーションも昨季とは違って増えている。

セッターの組み立てとしては、リードしていてもOPやOHに上げている可能性はある。セットの最後にクイックを入れれば、日鉄堺BZ側も必ず頭に残る。「終盤にMBが来るんじゃないか」と思わせて逆を突く。見ていて飽きない、楽しませてくれるセットだと思う。

「最後はOP」という考えが中島にあったとしても、それは従来のVC長野のOPの使い方とは違い、一人一人の選手を生かしている。散らした本数を見てもわかるような結果を出しているのはさすがだ。
もちろん全員のパフォーマンスが良かったのは大前提だが、その中でも司令塔であるSの技術が上回った勝利だと思う。
サーブに強みを持つWD名古屋
期待したいリベロ陣2人の奮起
そして最後に、僕が現役時代に務めていたリベロ(L)についても言及したい。開幕節は古藤宏規もGAME1で途中出場したL難波宏治も、初めての舞台で緊張もあったはず。それでもセットを重ねるごとに、いてほしい場所にきちんと残ってくれていた。

ブロックが機能しているからこそ、レシーバーも絶対に落とせない。せっかくブロックシステムがしっかりしているのにその場所にいない――というのは戦術的には絶対ダメ。その意味では、2人ともLとしての存在感は出していた。昨季まで君臨した備一真と比較されることは避けられないだろうが、最後まで粘りを見せていた。

Lである以上、OH陣の工藤やマドセンの方がサーブレシーブ成功率が高かったら、チームメイトであっても悔しいもの。そこのポジションにいるわけだから、どの選手よりも成功率は上げないといけないと思う。
ブロックとレシーブの関係で戦術やデータはあっても、どんなボールでももっと拾いにいってほしい。構えたところに来て上げるシーンは何回かあったが、「これは絶対に決める」という相手の勝負球を上げてみせたらもっと盛り上がる。そうして流れを作る仕事ができれば理想的だ。

実際、開幕節は相手のサーブミスが多くて助かった面もある。WD名古屋はサーブで狙ってくるチームで、OH水町泰杜や新加入のOP宮浦健人のサーブは強烈。何とか耐えながら日鉄堺BZ戦のサーブレシーブ成功率(42.9%、45.9%)を上回れれば、強敵からも金星を挙げられる可能性が出てくるだろう。

PROFILE
山本 憲吾(やまもと・けんご) 1992年6月22日生まれ、大阪府出身。小学校4年生の時にバレーボールを始めた。中学校には部活動がなかったため、校長に直談判してバレーボール部を設立。JOC大阪北選抜で全国3位を経験した。大塚高(大阪)からリベロに転向し、2年時にインターハイ初優勝に貢献。中京大では東海リーグで2〜4年時に3年連続でリベロ賞を獲得した。卒業後は岡崎建設owlsでプレーし、2017年にVC長野トライデンツに入団。19年にはリベロ部門のファン投票1位でオールスターゲームに出場した。20-21年シーズンまで在籍し、現役引退。現在はVC長野トライデンツU15女子の監督。趣味は愛娘の写真を撮ること。
SVリーグ男子第2節 ウルフドッグス名古屋戦 試合情報
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div2-1
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div2-2
クラブ公式サイト
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