“自分だけの地獄”と向き合った日々を超え ホーム最終戦で示したい存在価値

練習を積み重ねた日々が、一瞬でもコートで輝く瞬間がある。出場機会に恵まれなくても、いつか来る出番のために準備を続ける。自身の武器を磨くために、あるいは自身の弱点を補うために――。2026年4月11-12日にサントリーサンバーズ大阪とのホーム最終戦を迎えるSVリーグ男子のVC長野トライデンツ。日々の積み重ねを結果で表現し始めている星名勇佑、佐藤隆哉、安原大の3選手にフォーカスする。
文:大枝 史
KINGDOM パートナー
上げ続けたトスが実を結ぶ
大切な1本を上げた星名勇佑
何気ない1本の2段トスに、万感の思いが込められていた。
セッター(S)星名勇佑。今季、Vリーグの千葉ZELBA(現千葉ドット)から加入したものの、SVリーグの水準に戸惑いを隠せなかった。

「こっちに来た時にイップスみたいになって、トスを上げるのが怖くなった」
思いを巡らせながら、おもむろに打ち明けた。
「自分もやらなければヤバい」と焦りが募った。同じセッターの赤星伸城がけがで離脱し、中島健斗も日本代表として世界ユニバーシティーゲームズに臨むためチームを離脱。迷いながら1人でトスを上げ続けることになった星名は、「正解」を見失った。

「Aパス(セッターへの正確なレシーブ)の上げ方も分からなくなって、普通に相手コートに返ることもあった」。それをイップスだと捉えることにためらった。焦りと怖さを抱える日々は、リーグ戦開幕後も続いた。

フランス代表Sで21年東京五輪と24年パリ五輪を連覇したアントワーヌ・ブリザール(大阪ブルテオン)の動画を、目を皿のようにして見た。チームメイトがゲーム形式の練習に取り組むコートと反対側で、古田博幸監督代行から球出しをしてもらいながら黙々とトスを上げ続けた。

迷いを振り払い、自分自身の持ち味を再確認するための地道な取り組み。蚊帳の外で汗を流す日々を重ねたことで、「怖くなくなってきた」と道がひらけた。
その日々が、結実した。4月5日の第20節、東レアローズ静岡とのGAME2第3セット。20-18で迎えた場面で“その時”は訪れた。
リリーフサーバーとしてコートに立った星名は、鋭いサーブで相手を大きく崩す。返ってきたボールは、アウトサイドヒッター(OH)工藤有史がレシーブで頭上に高く上げた。そのボールを、どうするか――。

「最初は(サーブが)決まったと思っていて、気付いたらレシーブが上がっていた」と星名。無意識にボールの下に潜ると、バックコートの深い位置から美しい放物線を描いたトスをライトへ上げた。このボールを、十分な助走をつけたオポジット(OP)岸川蓮樹が相手コートに叩きつけた。
決まった。
自らのプレーが、確実に意味を帯びた。
「古田さんのおかげで少しずつ自信を持って上げられるようになってきている」

自分自身を見つめ直した期間がなければ「上げられていなかった」と振り返る。「本当にやらせてもらっていて良かったと、終わってから思った」と実感を込める。
周りから見れば、ただのハイセット。何気ない1本だったかもしれないが、星名にとっては絶大な意味を帯びる1本。ゲーム形式の練習に臨むチームメイトを横目に、トスを上げ続けてきた成果だった。

KINGDOM パートナー
武器を増やして生まれた余裕
試合の中で自信を付ける佐藤隆哉
“Hit Line”
OH佐藤隆哉がシーズン開幕前、必勝祈願で絵馬に書いた言葉だ。チームメイトだったデンマーク代表のOHオスカー・マドセンから促されて書いた言葉だ。
「何を書こうか迷っていたらオスキーに言われて、そういえばライン打ちしてないな、と…」。その日から、サイドラインぎりぎりを狙うスパイク練習が始まった。

自らの武器にしようと試合でも狙い続けた。しかし、シーズン終盤になって壁にぶち当たる。3月の第19節、広島サンダーズ戦。相対したOPフェリペ・モレイラ・ロケにことごとくブロックされた。
「ラインに抜くのを決めてから調子が上がっていくパターンが多かったけれど、全部決められなかった。それを(4月の)東レ静岡戦にも引きずって、怖くてラインを打てなくなった」

途中出場した東レ静岡戦のGAME1は、アタック6本で成功ゼロ。チームも敗れ、自信を失いかけた。しかし、佐藤の両脇を仲間たちが支えた。
試合後、古田監督代行が佐藤にゲキを入れる。
「お前がやる気のある顔をして臨むことがチームにとって大事になる。明日はしっかりしろ」

翌日のGAME2。アタックが決まらない展開が続く中、工藤有史が手を叩く。
「そういう時もある。1点目を取るまで頑張ろう」
仲間の声に勇気をもらい、冷静さを取り戻した佐藤。「いつもだったら決まらなくても思い切り打つのが自分だけれど、そこでリバウンドを取ったり、サーブやレセプション、ブロックの方を頑張ったりしようと思えた」

迎えた第2セット、21-16のシーン。3枚ブロックがついたハイセットをストレートに打ち、ワンタッチを取ってアタックでの初得点を挙げた。そこで吹っ切れた第3セット以降は得点を重ね、終わってみれば52.63%のアタック成功率をマーク。勝利に貢献した。

「調子が上がるのが遅すぎる」と苦笑いする佐藤。それでも、「試合に出させてもらって少しずつ自信がついてきているし、緊張しないで臨めるようになってきた」と手応えを口にする。
ラインぎりぎりを狙って打ち切る意識。チームへの貢献を考える中でプレーの幅も広がってきた。壁を乗り越えた成功体験が、佐藤を成長させていく。

「ブロックは得意じゃなかった」
コミットブロックで輝く安原大
ミドルブロッカー(MB)安原大は、「捨てる」ことで輝いた。
ブロックの際の割り切りだ。
「今までだったら『1枚にするわけにはいかない』と思ってリードでついていって、1.5枚にもならないしょぼいブロックだった」

かつての自分を自虐的に語る。武器にしてきたのは攻撃面。パスが返れば決め切る自信を持ってやってきた。そのなかで、チームメイトのコンディション不良などで巡ってきた出場機会。古田博幸監督代行が求める大胆なブロックを愚直に体現したことが、出場機会の増加につながった。

「ブロックが得意じゃなかったから、逆に古田さんが求めるような大胆なコミットやスイッチができるようになった。それが評価されているのかな」
3月の第18節大阪B戦。指揮官は試合後の会見で、相手セッターのアントワーヌ・ブリザールの特徴を入念に伝えていたと明かした。その言葉を深く理解し、指揮官の意図を感じ取ったのが、他ならぬ安原だった。

「コミットで違うところに上げられて決められても、その仕掛けが失敗しただけだからすぐに切り替えられる」
「やりたいようにハマったのに止められなかった時だけがブロックの反省点」
「上がったところに頑張って跳ぶのではなく、どうやって相手の攻撃を絞って、どう止めるかまで考えられるようになった」
それは、確かな成長の実感。ブロックを1枚にしてはいけない――という固定概念を取り払うと、新たな景色が見えてきた。

「試合に出られない時期も、心の片隅で『もしかしたら』という気持ちは持ち続けていた」と安原。腐らずに練習を続け、自分の殻を破るチャレンジをしたからこそ、今の立ち位置を勝ち得ている。
今シーズンも残すは4試合。次節はホーム最終戦の4月11-12日、ホームのエア・ウォーターアリーナ松本で首位サントリーサンバース大阪を迎える。

これまでに積み上げてきたものを発揮して、来シーズンに繋げる経験を得る戦いにしたい。不調を乗り越えた星名、新しい武器を手にした佐藤、ブロックで輝き始めた安原――。苦難を乗り越えた3人の成長は、チームを支える力となる。
SVリーグ第21節 サントリーサンバーズ大阪戦 試合情報
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div21-1
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div21-2
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