小国が大国を倒す知恵 フラベルHCが信州に持ち込むバスケ哲学

バスケットボールの信州ブレイブウォリアーズを率いる新指揮官に、ニュージーランド出身のジャッド・フラベル・ヘッドコーチ(HC)が就任した。同国代表HCを兼任する52歳のフラベルHCは、2026年7月からチーム練習に合流。9月開幕のBプレミアに向けてチームづくりに着手した。これまで数々の実績を残してきた指揮官が信州で最初に築こうとするのは、目先の結果よりも「素晴らしい基礎」。単独インタビューに応じたフラベルHCに、信州での指揮を選んだ経緯やバスケ哲学を聞いた。

文:芋川 史貴

フラベルHCのバスケ哲学
「殻を破った考えが必要」

ニュージーランド出身のジャッド・フラベル・ヘッドコーチ(HC)は、9歳から父親の影響でバスケットボールを始め、1999年から2002年にかけてトール・ブラックス(ニュージーランド男子代表)の選手に名を連ねた実力の持ち主だ。

現役引退後は指導者に転じた。ニュージーランド・ブレイカーズ(オーストラリアNBL)で13シーズンにわたってアシスタントコーチを務め、4度の優勝に貢献。その後も、さまざまなチームを指導して好成績を収め、24年にはNZNBL(ニュージーランド・ナショナル・バスケットボール・リーグ)の最優秀コーチ賞を受賞した。

同国代表では、アシスタントコーチを経て24年にHC就任。ジュニア代表のプログラムにも関わり、アンダーカテゴリーでの指導経験も豊富だ。

そんな指揮官が掲げるバスケ哲学とは何か――。

「哲学は成功しているチームから学んだ。そのチームの共通点は、自分たちの強みを選手が知っていること。そして、自分たちの役割が何かを知っていること。役割や強みを鮮明に伝えていくことが私自身の役割」

合流した信州の練習では、選手に対して端的に指示を伝える姿勢が印象的だ。在籍4季目を迎えるエリエット・ドンリーも「シンプルに伝えてくれる」と耳を傾ける。

ベースとなる哲学に加え、フラベルHCは「個性的でなければならない」「殻を破った考えをしていくことが必要」とも強調する。そこには、ニュージーランド出身の選手や指導者として、隣の強豪国オーストラリアと対峙してきた歴史が関係している。

小国がいかにして大国を倒すのか――。その命題に長年向き合ってきたからこその経験と知恵が備わっている。

フラベルHCの境遇は、信州が置かれた状況ともリンクする。

昨季までB2で戦ってきた信州の資金力や練習環境などは、B1のトップクラブに劣る。新シーズンでは国内最高峰のBプレミアの一員としてトップクラブと肩を並べて競わなければならないが、当面はチャレンジャーとしての立ち位置が続くことになる。

Bプレミアに向けてクラブが打ち出したスローガンは「勇敢に、大胆に、恐れずに」。大国に挑み続けてきたフラベルHCは「チャレンジすることを恐れていない。どんどんチャレンジしていきたい」と力を込める。

青野GMのビジョンに共感
日本にも好印象を抱く

日本での指導経験がないフラベルHCに白羽の矢を立てた理由について、青野和人ゼネラルマネージャー(GM)は6月の記者会見で、「若手の育成力」「短期間でのアジャストメント力」「選手たちの実力を100パーセント引き出す器」を挙げていた。

「青野さんにアプローチをいただいてお話を聞くうちに、彼の持っているビジョンの深さや彼のフィロソフィー(哲学)にすごく感銘を受けた。自分も『ぜひ一緒にやってみたい』という気持ちにさせられた」

信州が求める指導者像と自身の哲学に重なる部分が多い――と感じたフラベルHC。「全員で一体感を持ってやりたい」と練習に臨んでいる。

共通点という意味では、こんなエピソードも明かしてくれた。

フラベルHCが18歳で最初に所属したチーム名は「ワイカト・ウォリアーズ」。選手キャリアの出発点と日本で最初に指揮を取るチーム名が「ウォリアーズ」で共通しており、「何かの出会いだなと思った」と笑顔で話す。

フラベルHCに先行して日本で活動するニュージーランドやオーストラリア出身の選手や指導者は多い。

茨城ロボッツ(Bプレミア)のポール・ヘナレHCは、同じ時期に代表メンバーだったチームメイトであり、ニュージーランドブレイカーズ(NZNBL)でも同時期にコーチを務めた「親友」。他にも、昨季まで宇都宮ブレックス(Bプレミア)でHCを務めたジーコ・コロネル氏(ニュージーランド出身)や、東京サンロッカーズ(Bプレミア)のショーン・デニスHC(オーストラリア出身)、アルティーリ千葉(Bプレミア)のアンドレ・レマニスHC(オーストラリア出身)ら旧知の指導者から日本について話を聞く機会も多かった。

「聞く話は全てポジティブな話だった。まだ、日本に来てわずかしか経っていないが、本当に良いところだと思っている」

長野県全体で「ワンチーム」
NZ流のフィジカル強調

フラベルHCは、チームづくりのキーワードに「ワンチーム」を挙げる。それは、それはチーム内にとどまらず、長野県全体でワンチームだと熱を込める。

「1人の選手に頼るのではなく、何事もチームとしてやっていきたい。組織が一体感を持って新しいバスケットを表現していきたいと思っている」

プレー面では、ニュージーランドならではの力強さと連係の大切さを強調する。

「ディフェンスでは、しっかりとみんなで話して5人全員が一つとなって動くことを目指している。オフェンスでは『ボールを動かして相手を崩したい』とどのチームも言うが、それがバスケットの美しさだったり、楽しさだと思っている。それぞれ役割はあるが、コネクト(連係)された状況で相手を崩していきたい」

選手に求める強いフィジカルは、ニュージーランドの国技とも言えるラグビー文化が根底にある。

「ニュージーランドはフィジカルなスタイル。それを教えることはすごく自然なことで、少しでも相手に圧を感じさせたいし、力で勝ちたい。ファーストヒットで勝つチームだという怖さを持ってもらいたい」

それを実現するためのロスターも確定した。決してエリート集団ではないが、エネルギーとバスケットボールに対する向上心も持っているメンバーばかりだ。

最後にこの1年間ではベース作りに力を入れたいと話す。

「一番大切なことはベースづくりだと思う。この1年目はしっかりと素晴らしい基礎をつくって、そこから次の高みを目指したい」

Bプレミア開幕まで1カ月半。フラベルHCの下、チームはどのような道をたどって開幕の時を迎えるのだろうか。

勇敢に、大胆に、恐れずに。

フラベル“ウォリアーズ”の新章が始まる。


信州ブレイブウォリアーズ 公式サイト
https://www.b-warriors.net/

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