スポーツの力を伝えたい 信州から熊本へ選手たちのメッセージ

2026年7月28日。熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、同県宇城市と氷川町では最大震度7を観測した。10年前の16年4月にも最大震度7の地震に見舞われた熊本県では、当時の傷跡が癒えない被災地で再び多くの命が奪われ、そこで暮らす人たちが大きな苦しみに直面している。遠く離れた信州の地にも、熊本県で生まれ育ったり、熊本県のクラブに所属して活動した経験がある選手たちがいる。「熊本をスポーツの力で元気にしたい」。その思いを胸に、具体的な行動を起こし始めた選手たちのメッセージを伝える。

文:田中紘夢、芋川史貴、大枝史、板倉就五

AC長野・樋口叶
「少しでも勇気を」

J3のAC長野パルセイロでプレーする樋口叶は熊本県南部にある山江村出身。現在の実家は熊本市に近い御船町にあり、今回の地震で被害を受けたという。御船町に隣接する嘉島町にあり、爆発事故で多くの犠牲者が出たイオンモール熊本では妹がアルバイトをしており、「本当に間一髪で助かった」と胸をなで下ろす。

熊本地震から5日後の長野県選手権大会決勝では試合を決定付ける2点目を決めた。

「タイプ的に『俺のプレーで勇気付けよう』という気持ちはあまりないけれど…」と照れくさそうな表情を見せつつも、「自分が活躍して、家族やサポーターの皆さんに少しでも勇気を与えられればと思っていた。ゴールという結果で表現できてよかった」

8月22日にはロアッソ熊本とのアウェイゲームを控えている。ロアッソは、中学生の時にアカデミーチームに入り、プロ2年目までを過ごした古巣。胸の内に思いを秘め、成長した姿を見せるつもりだ。

AC長野L・吉野真央
「熊本のエネルギーに」

WEリーグのAC長野パルセイロ・レディースで2季目を迎える吉野真央は熊本市出身。イオンモール熊本の近くに祖母の実家があり、10年前の熊本地震でも被害を受けた。今も続く余震に不安が尽きない。

高校進学と同時に熊本を離れたが、地元への思いは揺るがない。

「熊本出身の選手として活躍すれば、地元の人たちは自分を知っていようがいまいが喜んでくれると思う。そうやって大好きな熊本のエネルギーになれたら」

樋口叶は、ロアッソ熊本ジュニアユースの一つ上の先輩。「熊本出身の選手が頑張っているだけで自分もうれしいし、みんなも応援してくれる。団結力はめちゃくちゃ強い」と力を込める。

WEリーグは8月22日に開幕する。「5点取れなかったら引退」と強気な目標を立て、故郷を照らす光となる。

トライデンツ・赤星伸城
「1人でも元気に」

SVリーグ男子の信州松本トライデンツに所属する赤星伸城は熊本市出身。実家は大きな被害を受け、ライフラインは完全復旧していないという。

現地の家族や友人からは「水が足りない」という声が届き、即座に水を送る支援に乗り出した。

熊本は10年前にも最大震度7の地震に見舞われた。「10年に1度も(大地震が)きていたら誰も住まなくなってしまう」と本音を吐露しつつ、必死に前を向く。

「スポーツは見ていて楽しいし、元気にもなると思う。自分が出た映像で『この人、熊本県出身なんだ』と思ってくれることで、少しでも、1人でも元気になってくれたらうれしい」

見てくれる人を勇気付けるため、強い気持ちで新シーズンに向かっていく。

信州BW・河田チリジ
「熊本は特別な場所」

バスケットボールBプレミアに参入する信州ブレイブウォリアーズに新加入した河田チリジは、2015-16シーズンに熊本ヴォルターズに所属。10年前の熊本地震は“当事者”として経験した。

地震発生時はアウェイ遠征中だったため直接的な被害は受けずに済んだが、シーズン終了後も現地で支援活動を継続。現在も自宅は熊本県に構えており、「日本でのホームタウン」と強調する。

「熊本は自分にとって特別な場所。そこでまた地震が起こったことは本当に悲しいし、残念」

10年前は、被災地でのボランティア活動や子どもたちを対象にしたクリニックなど、さまざまな取り組みをしたという。

「スポーツは特別な力を持っていると思う。大変な時でも人の気持ちを一つにすることもできる。日常の苦しいことを忘れて楽しんでもらうこともできる」

直接的な支援はもちろん、信州でのプレーを通じて、特別な場所へのサポートを模索している。

ボアルース・米村尚也
「できることを」

F1リーグのボアルース長野でプレーする米村尚也は、最大震度7を記録した宇城市で生まれ育った。

実家は家具が倒れて食器が散乱。変わり果てた姿に絶句した。

「家族は無事だったけれど、今もニュースで地元を見るたびに悲しい気持ちになる。元の姿に戻るにはまだ時間もかかると思うので、不安にもなる」

シーズン中のチーム活動があるため長野に残る道を選んだ米村は、遠く離れた場所から「できること」を模索した。

地震から5日後のアウェイゲームで募金活動を実施。対戦相手の名古屋オーシャンズに熊本県出身の松川網汰と本石猛裕がいる縁もあり、同クラブの提案を受けて一緒に募金を呼びかけた。8月9日には長野市でチャリティーフットサルを開催。直前の告知にも関わらず、50人もの参加者が集まった。

「遠い長野県から熊本県のことを思って、行動に移してくれる人たちがいるのはすごくうれしい」

ピッチ上でパスをつなぐように、フットサルファミリーの心をつないで復興への力に――。米村は「できること」を模索していく。

松本山雅・松岡瑠夢
「返していかなければ」

J3松本山雅FCの松岡瑠夢は、2025シーズンまで3年間にわたって当時J2のロアッソ熊本でプレーした。

前所属チームで出場機会を減らし、選手として苦しんでいたタイミングでオファーを出してくれたのが熊本。新天地では主力選手の1人としてピッチで活躍した。

「熊本はプロ選手としての土台を作ってくれたクラブ。みんな温かくて、たくさんの人にお世話になった。大好きな土地だし、思い入れのある場所」

地震の直後には、自身のSNSで「何かできることがあれば連絡ください」とのメッセージを発信。松本山雅で選手会長を務める樋口大輝からの提案もあり、8月16日にサンプロ アルウィンで開催するホーム開幕戦ではチームが募金活動を実施する予定だ。

「僕たちプロ選手は地域から応援してもらっているけれど、与えられているだけではプロとしての役割を何も果たせない。応援してもらっている分、何かを返していかなければいけないし、皆さんに見てもらえる職業だからこそ、何かを感じてもらえるようにプレーしなければいけない」

必死にプレーする姿が見てくれる人の心に届くはず――。そう信じて、ピッチを駆ける。


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