“長野Uスタジアム開催”となる10.26松本-讃岐 「歴史的一戦」実現への舞台裏

長野Uスタジアムで松本山雅FCがホームゲームを行う――。松本のホームスタジアム・アルウィンの鉄骨部材落下に伴う使用停止を受け、2025年10月26日のJ3リーグ第33節カマタマーレ讃岐戦はUスタが会場となる。AC長野パルセイロから全面的な協力を受けての実現。ある意味で「歴史的」な一戦は、どのような経緯をたどって実現に至ろうとしているのか。両クラブの運営担当者らに取材した。

取材:大枝 令、田中 紘夢

長野が差し伸べた「救いの手」
受け入れる態勢を先んじて整備

2025年10月4日。
株式会社松本山雅の広報担当・岩崎悟さんに1本の電話が入った。相手はAC長野パルセイロの運営統括・中村清さんだった。中村さんはJリーグから出向しており、岩崎さんとは旧知の仲だった。

「何か困ったら遠慮なく相談してほしい」

前日の3日、アルウィンの鉄骨部材落下に伴う使用停止が報道されたばかり。中村さんは当時を振り返りながら話す。

「鉄骨が倒れるということは使えなくなるかもしれないと思った。リーグ戦は11月末に終わりなので、必ずそこまでに消化しないといけない。もし使えなかったらどこでやるのかは必ず考えないといけない。それが私の中で勝手に浮かんだ」

松本山雅サイドとしても、県内外のスタジアムの空き状況を照会するなど、さまざまな選択肢の模索を始めていたタイミング。Jリーグ開催基準を満たしていないスタジアムも含め、調査を進めていた。

松本山雅の運営担当・笹川佑介さんが明かす。

「『長野県内』という考えがまずあって、Jリーグの企画を満たしているのは(アルウィン以外だと)長野Uスタジアムだけではあった。一応そのタイミングで土日の佐久や飯田も聞いたけれど空いてはおらず、そもそも有料試合を開催するのがなかなか厳しかった」

その後、10月12日に開催予定だったテゲバジャーロ宮崎戦が中止となる。アルウィンの使用再開に見通しが立っておらず、次のホームゲームである10月26日のカマタマーレ讃岐戦を固める必要性に迫られた。

その間、長野側では水面下で「地ならし」が進んでいた。中村さんが振り返る。

「宮崎戦は飛ばすと。次は讃岐戦がある。どんどん時間だけが過ぎていく中で、スタジアムが使えない。そこでたぶん『来るな』と思っていたので、今後のカレンダーを全部見た」

長野はトップチームとレディースがUスタを使用する。そこでパフォーマンスを発揮することにプライオリティを置きながら、週末と水曜日の候補日を抽出。同時に、長野市から出向している一之瀬貴・社長室長やグラウンドキーパー・青木茂さんらともすり合わせを進めた。

「(山雅から依頼が)来てから日程を探すと遅い。『来る』という予想を立てた中で、『ここならいい』というのを複数用意しておいた。裏では運営同士でも情報をやり取りして動いていた」

澁谷泰宏社長以下クラブ内でのコンセンサスを形成すると同時に、クラブ外とも水面下で調整。AC長野も加わっているUスタの指定管理者「南長野スポーツマネジメント共同事業体」の代表企業・シンコースポーツ株式会社などに協力を求めた。

「関係者全員が『いいよね』となることがとても大切で、そこはみんなで確認した。長野市、指定管理者、長野Uスタジアム、パルセイロ、サポーター。当然選手の気持ちもあるかもしれないけど、まずはみんなが『いいよね』という土壌を作らないといけなかった」

中村さんはそう明かす。

長野のクラブ理念に即した決断
ノウハウ共有や各所への橋渡しも

複雑なサポーター感情も織り込んだ。「多くの立場があるので多くの意見があるだろう」と中村さん。その中で、クラブの活動理念に立ち返った。

「クラブの理念を一番大切にして、それに則って何が正しいかを判断する。クラブとしてみんなが自信を持って言えるくらい、理念というのは大切なもの。そこに立ち返った」

「クラブとしてこれが正しい行動だと。パルセイロの理念に基づくという意味で、しっかり理解を得られると思う」

そして「Uスタ開催」が有力な選択肢になると、水面下で急ピッチの準備が始まる。

まず10月10日。松本山雅の運営担当・笹川さんが長野市役所をはじめ警察、消防、保健所など関係各所にあいさつ回り。これはAC長野の運営担当・荒木亮輔さんが全てアテンドした。

「どこも温かく迎えてもらった。長野市は(1998年に)オリンピックも開いた土地だからなのか、スポーツに対する理解があると感じた。励まされて逆に元気をもらったし、この人たちに出会えてよかったと思った」

笹川さんはそう振り返る。

10月12日には長野のホームゲーム・J3第31節カマタマーレ讃岐戦の前日準備を視察。営業2人とチケット担当者も随行した。13日の試合当日には広報担当ら4人で訪れ、ホームゲームを視察。導線など運営に関する確認を行った。

長野側にとっては、25日にトップチームの公式戦・アスルクラロ沼津戦があり、27日にはレディースのマイナビ仙台レディース戦が行われる。本来であれば間の26日を使って設営などの準備を行うが、そこに山雅の試合が割って入ることになる。

AC長野の運営統括・中村さんが話す。

「本来であれば1日かけて準備できるところに山雅の試合が入ってくるので、大変ではある。だけど不思議と『決まったからにはやるぞ』というところで、みんな文句も言わず、どうしたら効率的に3日間を回せるかに集中してくれている」

山雅はイレギュラーな準備に奔走
「感謝を持って使わせてもらう」

一方の山雅側は、短い期間の中で準備に奔走する。

基本的な考え方は「シンプルな運営」(運営担当・笹川さん)だが、その中でも「可能な限りアルウィンに近い環境で観戦を楽しんでもらいたい」。とりわけシーズンパスの指定席に関しては、リソースを割きながら再割り当てを敢行した。

スポンサーボードの掲出も、パートナー企業の理解と協力を得ながら再割り当て。アルウィンで北側ゴール裏に設置されているLED看板は松本から搬送して設置するという。

諸室や導線の設定など、運営のノウハウに関してはAC長野のスタイルを可能な限り活用。それ以外のスタジアムグルメ14店舗(予定)、運営ボランティア団体「チームバモス」などは松本からUスタに出張する。演出面もアルウィンと大きくは変わらない見通しだ。

この日は今季初めてオフィシャルパートナーとなった株式会社ニッスイのスペシャルマッチ。当初はイベント類も含めて中止の可能性をはらんでいたというが、同社の厚意で一部内容を変更しながらも実施が決まった。来場者4,000人に「おさかなのソーセージ」を配布するほか、スタジアムグルメ店舗とのコラボメニューも販売する。

「突貫でもできるだけ皆さんに喜んでもらえるようにしたい。皆さんにご協力いただいて、感謝を持って使わせてもらいたい。『また来てほしい』と思える運営ができれば」。笹川さんは力を込める。

応急処置後に部分的に供用再開も
時期や見通しは「未定」のまま

その一方で注目が集まるのは、アルウィンの状況だ。

10月23日に松本平広域公園で「総合球技場(アルウィン)部材落下に関する対策等検討会」が行われ、中込忠男・信州大名誉教授を座長として復旧への動きが本格化した。

「『金属疲労によって壊れた』というのが破面によってほぼ明らかになっている」と中込名誉教授。風の影響で繰り返し外力が加わり、破断に繋がったとされる。

バックスタンド側には同様の機能を果たす部材が残り3本存在する。それらに関しては探傷試験やカラーチェックなど詳細な検査を行い、「疲労クラックの発生がないことは検証した」という。

「通常建物(の設計)は風の外力を計算に入れなくていいように法律上なっているので、こういう特殊な破壊が行われるのはごくまれ」

「ほぼ同じような風が吹いている中で、どうして1本だけ疲労破断したか――ということはまだ理屈上解明されていない部分がたくさんある」

原因究明と同時に、応急処置の方針も了承された。バックスタンドの照明を下からジャッキアップする仮設の構造物・支保工をスタンド内に建造し、支柱への荷重を軽減した状態でタイバーを再設置する。

長野県はこの応急処置作業が完了してスタジアムの安全が確認された段階で、バックスタンド側を除く3面(フィールドを含む)を利用可能とする方針。ただ、その時期やめどなど詳細については未定だという。

利用者である株式会社松本山雅には10月24日に県からの説明があるといい、それを受けてホームゲーム開催などに関する今後の方針が大枠で固まる見込み。同日午後にクラブが取材に応じ、詳細を対外的に発信する予定。


J3リーグ第33節 カマタマーレ讃岐戦 試合情報
https://www.yamaga-fc.com/archives/512388
2025明治安田J3リーグ第33節 松本山雅FC vs カマタマーレ讃岐 開催会場変更のお知らせ
https://www.yamaga-fc.com/archives/511822%EF%BD%9A
サンプロ アルウィン使用停止による長野Uスタジアムでの松本山雅FCホームゲーム開催について
https://parceiro.co.jp/info/detail/8h4I_ZOvXhFj34-ISWlUhTJaMzJxX0liUHNCalduck5zdFVQUXlNZHg0RF94LU9MOVUtU0NucFNIMWc

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