山本憲吾のバレーボール・ラボ(2)「勝敗を左右する『流れ』の正体」

バレーボールはスピーディーで華やかなプレーが目を引くが、その裏には緻密な戦術の応酬がある。国内最高峰・SVリーグで奮戦する男子のVC長野トライデンツも同様だ。ネットを挟んで対峙する相手と、どんな駆け引きをしながらプレーを選択しているのか。2017-21年に在籍した元リベロ・山本憲吾が、奥深いバレーボールの世界に案内する。第2回は、勝敗を左右する「流れ」を考察する。

構成:大枝 史、大枝 令

VC長野が立った次なるフェーズ
1点の重みで決まる「勝ち負け」

感じるもどかしさも、次のフェーズにステップアップしたからだろう。

第3節の東京GB戦、とりわけGAME1は2セットを先行しながら逆転負けを喫する悔しい結果だった。内容は誰が見ても勝っても不思議ではない試合。従来と違って「あの1点を取り切りたい」とか「あの場面の組み立て」など、水準の高い議論の地平に立った。

過去VC長野が負けていた時は、ミスで負けることが多かった。「サーブが入らず流れが来なかった」「ブロックシャットされた」など明確な力量差で負けた印象が強かったが、今は違う。1点の重みで勝敗が決まるレベルまで来ている。「こうやられて負けた」というのがなかったのは、逆にうれしくもある。

こちらも対応するし、相手も対応する。上位のチームと同じようなレベルで戦えており、純粋に感動すら覚える。確実にステップアップして、「勝ちか負けか」という紙一重の領域にまで突入していると言えるだろう。

第2節のWD名古屋戦は惜敗だった内容もさることながら、日本人選手だけで戦えたことが印象的だった。これは確実に底上げができている証明だろう。

通常だと外国籍選手や新しい選手が来れば「自分の居場所がなくなる」と感じてくさってしまう選手は多いが、WD名古屋戦に出た若手選手たちはしっかりと下積みをしていた。だからこそ、出番が回ってきた際にコートで躍動できた。

これは川村慎二監督や古田博幸コーチなどのスタッフ陣が、試合に出ていない選手に対してもしっかりケアして役割を与えてきた結果に他ならないと感じる。トップリーグでは特にそういった配慮が大切になる。

「流れをつかむ」のが次の段階
取り切りたい「あと1本」のために

そうした段階に入った中で、次にクローズアップされるのはなんだろうか。もちろん多くの要素が存在するが、ここで取り上げたいのは「流れ」。今回は第4節東レ静岡戦GAME2を例に挙げ、その正体を解きほぐしていく。

第5セット。最初にOH工藤有史のサーブから5連続ブレイクで5-0になった。しかしその後は風向きが変わっていく。今までセットを取れていた展開と違って、いつもなら決まっていたボールが決まらなくなった。

その象徴的なシーンが、13-12の場面。OPマシュー・ニーブスにトスが上がった時に、普段なら決まっていたのがタッチを取られて切り返しを許した。ストレートに打ってアウトになったシーンも。これは第4セットも同様の展開だった。

第4節東レ静岡戦GAME2第5セット、13-12からサイドアウトを取れず同点とされる

第2〜3セットを取ったときは確実にサーブも入っていたし、スパイクも普通に決まっていた。しかし、いつもなら「これで決める」という場面で決まらない。それが1〜2本続くと、選手たちも焦りが出てくる。

そして「流れ」が悪くなるのをコート上で察知する。第4〜5セットは、ニーブスがうまく上がってこなかったり、ミスをしても取り返せていたのが取れなくなったり。バレーボールではそういう流れの変化が出ることを改めて実感させられた。

では、主体的にそれをつかむにはどうすればいいのか――。いくつか手段がある。

例えば東レ静岡戦で印象的だったのは、途中で入った選手が流れを変えてくれる場面がいくつかあったことだ。第4セットは落としたものの、S赤星伸城とOP飯田孝雅が出て点を決め、第5セットに繋がる雰囲気を残してくれた。

2枚替えで出てくる選手は明確に、流れを変える役割を帯びる。「このセットは取れないかも…」と思っても、次のセットに繋がるようなプレーをしないといけない。それが2枚替えの任務。そういうシーンで2人がどう活躍するかも楽しみだ。

OHオスカー・マドセンの振る舞いにも注目したい。ファンに手拍子を煽った場面。周囲の力も借りながら「流れ」を作ろうとしているのが印象的だった。自分の選手時代は「自分たちで何とかしないといけない」と思っていたが、そういうやり方もあるのだと感心させられた。

VC長野のファンは、本当に見守ってくれているような雰囲気がある。自分が引退して解説でホームゲームに行っても、「頑張ってね」と言われる口ぶりや熱から「本当に応援している」という雰囲気が伝わってくる。

そういう環境だからこそVC長野のホームは、重要な1点を取るための雰囲気を作れるポテンシャルがある。自分の現役時代を振り返ると、コロナ禍でパナソニックパンサーズ(現大阪B)に勝った時も、声は聞こえなくても大音量のハリセンクラップに一体感を感じ、奮い立った。

「流れ」を引き寄せる力は確実に、ファンの方々も持っていると思う。そう言えるほど、ホームゲームでの一体感は本当に特別なものがある。

次節はホーム・STINGS愛知戦
カギとなるのはやはりサーブ

そうした中で次節もホームゲーム。STINGS愛知は外国籍選手がハイレベルだし、MB高橋健太郎選手、OH藤中謙也選手など経験豊富な選手がそろう。Sは元VC長野の河東祐大選手でもあり、熱い試合になるだろう。

VC長野が良い時は、コンビネーションを組み立てた時にブロックをなくしたり、1枚半にしたりする場面が多く出ている。MBに全日本選手がいるSTINGS愛知に対して、S中島健斗がどこまでブロックを散らして攻撃できるかが重要になる。

中島はズレたところからBクイックをMB山田航旗に上げたりもする。試合を重ねるごとに相手の分析材料が増え、「この点数でこういう組み立て」「第2セットはこういう入り方」といったデータが蓄積される。そこをどう上回るかが重要だ。

そのカギはニーブスにある。ニーブスがどういう状態でも決まってくれば、相手は「次もニーブスかな…」と引っ張られる。OPとしての仕事を今後の長いシーズンで、どこまで対応してくれるか。次節の奮起に期待している。

そして、全体のサーブ効果率も重要。例えば東レ静岡戦で李博選手にBクイックを決められた場面があったが、こちらがサーブを効かせているシチュエーションだとそこまで脅威ではなかった。今年のVC長野はサーブが本当に素晴らしいので、それがSTINGS愛知戦でも出れば良いと思う。

WD名古屋戦、東京GB戦、東レ静岡戦と経験してきた「あの1点」をどう取るかという課題。STINGS愛知戦でもそうしたシチュエーション来た場合、どう対応するのか――。シビアな状況からでも「流れ」を引き寄せ、勝利に至る姿を期待したい。

PROFILE
山本 憲吾(やまもと・けんご) 1992年6月22日生まれ、大阪府出身。小学校4年生の時にバレーボールを始めた。中学校には部活動がなかったため、校長に直談判してバレーボール部を設立。JOC大阪北選抜で全国3位を経験した。大塚高(大阪)からリベロに転向し、2年時にインターハイ初優勝に貢献。中京大では東海リーグで2〜4年時に3年連続でリベロ賞を獲得した。卒業後は岡崎建設owlsでプレーし、2017年にVC長野トライデンツに入団。19年にはリベロ部門のファン投票1位でオールスターゲームに出場した。20-21年シーズンまで在籍し、現役引退。現在はVC長野トライデンツU15女子の監督。趣味は愛娘の写真を撮ること。


SVリーグ男子第5節 ジェイテクトSTINGS愛知戦 試合情報
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div5-1
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div5-2
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461

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