スポーツ支援から生まれた“予想以上の波及” 塚田理研工業の試行と挑戦

地域のスポーツクラブを、地元企業が支える――。 近年は「パートナー」という呼称が出始めたものの、従来、その関係性は「スポンサー」や「協賛」といった言葉で語られてきた。 それは、単に「支援する側」と「支援を受ける側」という一方通行の関係性なのだろうか。 なぜ、地域の企業がスポーツクラブを支えるのか。 長野県内の複数のスポーツクラブと手を携える塚田理研工業株式会社の下島聡・代表取締役社長の言葉から、その答えを探った。 

文:武居 惠美

変化の先にあった挑戦の場
スポーツクラブ支援の先に

「最初は存在を知らなかった」

下島聡社長が振り返る“存在”とは、2023年からオートバイの鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)に出場している信州Re:N with TOTECのことだ。

長野県を拠点に活動する信州Re:Nは、県内企業が製造した部品をオートバイに使用。レースへの参戦を通じて信州のものづくりの力をアピールしている。

プラスチックへのめっき技術を強みに、1963年に長野県駒ヶ根市で創業した塚田理研工業株式会社。創業当初に手がけていたのは婦人用ボタンだったが、着物から洋服へと暮らしが変わっていく時代の流れに合わせ、金色や銀色に輝くボタンを起点にオーディオやカメラ、自動車の内装部品へと事業領域を広げた。

需要が変化する自動車部品に対して、自社の技術をどこに生かせるのか――。新たな市場を探る中でイタリアのオートバイメーカー「ドゥカティ」との接点が生まれ、そのことを同社のブログで発信。すると、知人から「長野県に鈴鹿8耐に出ているチームがある」と教えられた。それが信州Re:Nとの出合いだった。 

「長野県の市民チームが、手弁当で世界耐久選手権の一戦でもある鈴鹿8耐に出ている。それは、僕らが何かをさせてもらうには十分な理由だった」 

下島社長は協力を即決した。

同社は技術力でチームに協賛。めっき加工したカーボンパーツを付けたバイクが、鈴鹿8耐の舞台でサーキットを走る光景は特別なものだった。 

「実際に(パーツを)付けたバイクが走っている姿を見ると、やっぱり感動した。自分たちの技術が、こういう形で使ってもらえるんだなと」

この取り組みは、単なる技術提供で終わらなかった。 

モータースポーツの現場は、極限の環境で技術が試される場所でもある。スピード、熱、振動、空気抵抗…。日常の使用環境とは異なる条件の中でめっき加工されたパーツがどんな効果をもたらすのか――。測定によって手にした数値は、ビジネスの可能性を広げることにつながった。

「カーボンにめっきすることで、空気抵抗にも影響するとされる静電気の帯電量を減らせることが分かった。実績があるということは将来の大きなビジネスの機会になると思う」 

これは、同社にとって信州Re:Nへの協力が単なる協賛関係で終わらないことを示している。 

スポーツの現場は、企業にとっても新しい挑戦の場になり得るのだ。 

一時は廃れかけた創業の志
新たな視点で生まれた誇り

「婦人用ボタンをずっとやっていたら、今の会社はなかったと思う」と下島社長は実感を込める。

時代が変われば市場も変わり、求められるものも変化する。そのたびに顧客も変わり、必要とされる品質や技術も変わっていく。変化に対応するのは簡単なことではない。 

それでも塚田理研工業は、プラスチックへのめっきという技術を軸にしながら、時代ごとに“自分たちの技術が役に立つ場所”を探してきた。 

自動車部品の分野で、めっき技術は内外装部品に多く使われてきた。しかし、近年は若いデザイナーから「古い」「かっこ悪い」と見られることがあったといい、同社も一時は「めっき」という言葉を前面に出すことを避けた時期もある。 

そんな中で、自分たちの技術の価値を改めて見つめ直すきっかけになったのが、美容ブランド「LOVE CHROME」につながるコームの誕生だった。 

始まりは、ひょんなことから制作しためっき加工のコームだったという。プラスチックの表面にめっきを施すことで表面が滑らかになり、髪への摩擦を抑える。さらに金属めっきの特性が静電気にも作用し、髪を美しく整える道具として美容の分野で価値を持つことが見えてきた。 

自動車の世界では古いと言われることもあった技術が、視点を変えれば、美容の世界では「見たことがないもの」として受け入れられる。 

その経験は大きかった。 

「めっきって、めちゃくちゃいいじゃん。めちゃくちゃかっこいいじゃん。もっと胸を張った方がいいって思えた」 

“めっき屋”として胸を張り、自分たちの技術が役に立つ場所を探しに行く姿勢が強くなった。

その結果、同社は信州Re:Nに加えて松本山雅FCや信州松本トライデンツなど地域のスポーツクラブとの接点を広げている。 

社内に迎えたスポーツ選手
一体感を生み出す潤滑油に 

上伊那郡南箕輪村に本拠地を構える信州松本トライデンツとの出合いは、関連企業からの紹介だった。 

「トライデンツのこともよく知らなかった。スポンサーが少ないと聞いて『一度話を聞いてみよう』というところから始まった」 

クラブへの協力を決めた同社は、飯田孝雅(2025-26シーズン限りで退団)を社員として受け入れた。 「半日しか出社しない契約社員を雇うことに最初は不安もあった。社内のみんながどう思うだろうかと」

しかし、下島社長の不安は杞憂に終わる。

「(選手を)受け入れたことで、会社の中に共通の話題が増えた」 

選手が現場に顔を出し、社員と接する。 試合前には、出場機会があるかを社員が気にする。 コートに立てば社員は全力で応援し、活躍すればみんなで喜ぶ。 

気が付けば「今日は活躍したね」といった会話が自然に生まれるようになり、いつしかVC長野は社内の部署や世代を超えた共通の話題になっていった。 

「親戚のお兄ちゃんを見守るような感じ。試合に出て活躍すると、みんな本当に喜ぶ。会社の一体感には、すごく貢献してくれた」 

スポーツクラブに協賛する狙いは、社外へのPRがメインだと捉えられがちだ。もちろん、広告宣伝も大切な効果の一つだが、同社がトライデンツとの関わりを持ったことで生み出した効果は“社内での共通の話題”だ。言葉にしてしまえば簡単に聞こえるかもしれないが、実際は苦労する企業が多い。

選手の受け入れは、直接的に会社の売上につながるものでもないのかもしれない。一方で、所属選手が生み出した社内の一体感はプライスレス。 下島社長は「受け入れてよかった」と相好を崩した。 

一方通行ではない関係性
想像以上の相乗効果に納得感

2025年10月。松本山雅FCのホームスタジアムでサンプロ アルウィンに「塚田理研工業」のバナーが掲示された。 経営企画室に在籍する北原大樹さんが松本山雅にコンタクトを取ったことをきっかけに、同社と松本山雅との関わりがスタートした。 

北原さんは「せっかく地元にチームがあるなら、いずれスポンサーになりたいとずっと思っていた。スポーツクラブの力を借りて会社の知名度を上げたり、採用に生かしたりするイメージ。スタジアムに掲示されたバナーが、すごく誇らしい」と力を込める。

松本山雅は高い集客力を持ち、地域への浸透度も高い。そんなクラブのホームスタジアムに掲げられた企業名は、来場者だけでなく試合映像の中継や配信などを通じて多くの人の目に触れる。そこから「塚田理研工業とはどんな会社なのか」という関心が生まれる。 

知らない企業より、どこかで名前を見た企業の方が安心感を持ってもらいやすい。 

それは採用や企業認知にもつながっていくはずだ。知られないことには求人への応募もされない、商品や技術にも関心を持ってもらえない。スポーツを通じて会社名を知ってもらうことは、地域企業にとって大きな意味を持つ。 

また、松本山雅との関わりは社外の企業同士の接点にもなっている。松本山雅がきっかけで、近隣企業の経営者と自然に話題が生まれることもある。クラブの存在が、企業同士の距離を近づけているのだ。 

「他の企業の社長と共通の話題になることもある。いつか、そこからビジネスにつながっていくこともあるかもしれない」と下島社長。松本山雅との関わりを生かし、地域の子どもたちがスポーツに触れる機会を作っていくことも模索している。

信州Re:Nに技術提供したことで、企業側にも新しい機会が生まれた。 
トライデンツの選手を受け入れたことで、社内に部署や年齢を超えた共通の話題が生まれた。 
松本山雅を応援することで、会社の知名度が上がり、社員やその家族も会社に誇りを持つようになった。

企業がスポーツクラブを支援することは、決して一方通行の関係ではない。 そこには想像もできなかった相乗効果が生まれる――。 

下島社長は、そう考えている。


塚田理研工業株式会社
https://www.tukada-riken.co.jp/

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