世界で飛び跳ね、故郷の力に 松本深志に息づくダブルダッチ

2本のロープを使う縄跳び・ダブルダッチ。音楽に合わせたそのパフォーマンスは、見る者を直感的に惹きつける魅力がある。長野県内で活動する「reropo redo」は、松本深志高校のOBが2018年に結成したダブルダッチの社会人チーム。ロープの絆が、一度は離れた故郷へと若者たちを引き戻した。県内屈指の公立進学校に息づく、ダブルダッチの系譜を取材した。

文:大枝 令

自由なスタイルが校風に合い
校内でも最大規模の部活動に

体育館の2階ギャラリースペースに、アップテンポな音楽が鳴り響く。2本の縄をリズミカルに回し、軽快にステップを踏んだり、アクロバティックな技を繰り出したり。壁には「世界大会 優勝」と書かれた紙が貼り出されている。

長野県内屈指の公立進学校・松本深志高校。2本のロープを使ったアーバンスポーツ「ダブルダッチ」が県内で唯一、部活動として存在している高校だ。部員は総勢32人と大所帯。校内でも最大規模となっており、「JOKER」の名称で活動している。

「ダブルダッチはアクロバットとかダンスとか、単純に速く跳ぶとか、いろんなスタイルがある。そのスタイルを自分で深めながら、掛け算のやり方によって自分なりの個性が出てくる。それを追求する自由度がすごく高い」

松永泰誠部長は魅力をそう口にする。同じクラスの友人に誘われてダブルダッチ部へ。曲の選定なども含め、パフォーマンスの構成に頭を使うのが楽しいという。

たとえ体を動かすのが得意でなかったとしても、輝けるフィールドはある。副部長の一人・内川和香さんは、吹奏楽などに取り組んだ経験を生かす。「曲を探したり構成を考えたり、いろんな部分で強みを生かせる。チームスポーツだから、成功した時の喜びを分かち合えるのも魅力だと思う」とうなずく。

そもそも、松本深志になぜダブルダッチ部が存在するのか。発祥は2000年代初頭にさかのぼり、前身のニュースポーツ同好会から通算すると現在の2年生が第20代目。他にもユニークな同好会活動や部活動が多く、その一つとして芽吹いたとされる。

自分たちで考え、表現する。仲間とともにパフォーマンスを創り上げる。こうした3年間の営みを通じて得たものを、次のステージに繋げるかどうか。

もう一人の副部長・赤羽姫遥さんは、大学で続けるかどうかは不透明――と前置きしつも、「ここで培った人脈やスキルを生かしたいし、ダブルダッチを追求していきたい気持ちはある」。進学先で続けられる環境があるかどうかも大きなファクターとなる。

発表の場は学校内のガイダンスや文化祭、そして各種大会。現在は9月29日に行われる「ダブルダッチ甲子園2024 ITADAKI」に照準を当てており、頂点を目指す。

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海外で脚光を浴びたOBを輩出
大卒後にUターンする要因にも

この環境から育ち、世界に大きく羽ばたいた者もいる。

東京都を拠点に活動するチーム「HARIBOW」。20代前半の若手14人によるグループで、代表の海野鷹幸さんは松本深志OB。松本第一高校出身の加藤周平さんとともに、世界的に有名なイギリスの「Britain’s Got Talent」に出演した。スーザン・ボイルが世に出たほか、2023年にはとにかく明るい安村が脚光を浴びたオーディション番組だ。

世界中から、ありとあらゆるパフォーマンスが集まる。番組側から打診を受けて動画でエントリーし、約10,000組の応募の中から審査を通過した。2月の予選に出場すると、「オーディエンスゴールデンブザー」を獲得して準決勝へ。最終的に優勝こそ逃したものの、決勝まで進んで話題を集めた。

このHARIBOWのメンバー・黒岩基さんは大学卒業後、1年間の広告代理店勤務を経て松本にUターン。ダブルダッチの教室「Step UP」を立ち上げるなど、普及活動に力を入れ始めた。

そこには、故郷に対する思いがある。

ダブルダッチに限らず、限られたスペースでも成立しやすいのがアーバンスポーツの特徴。ブレイキン、スケートボード、パルクール、フリースタイルフットボールなどが代表例として挙げられる。その特性を生かし、黒岩さんは「空き施設を活用した居場所づくりなどを通じ、空洞化したところに人を流入させるような活動に注力できたら」と思い描く。

第12代の黒岩さん以外にも、県外の有名大学を卒業してからUターンしてきたOBは複数。いずれも「ダブルダッチがアイデンティティの核となっている」と口をそろえる面々だ。

このうち第10代の遠山聖弥さんは“エンターテイメント公務員”を自称しており、普段は長野県職員。同僚などに時おり私服姿を目撃されると、驚かれるという。高校時代の2015年には「DOUBLE DUTCH CONTEST JAPAN」スピード部門で3位。現在はアーバンスポーツ信州の一員として、ダブルダッチの普及などに力を入れている。

「ダブルダッチを離れたとしても、『地元に戻ってまたやりたい』と思うJOKERの子たちが出てくればいい」と話す遠山さん。県内唯一のチーム「rerope redo」が、その受け皿として機能する。

第8代の永原智輝さんなどOB3人で2018年に結成。“もう一度”という願いを、チーム名に込めた。永原さんが県外の名門国立大に進学した際、ダブルダッチを続ける環境がないことに衝撃を受けたのが原点だったという。

「すごく気軽なスポーツのはずなのに、まず人がいないとそもそもできない。根本的な事実を突きつけられた」。だからこそ、チームを作れば活動の起点となり得る。現在は長野市で大手外資系生命保険会社に勤務しながら、合間を縫ってダブルダッチに親しむ。

「どんなレベル感でもいいからダブルダッチをやりたい人が集まって活動が続けられる団体があったら素敵だなと思ったし、それが要因になって帰ってきてくれたらものすごくうれしい」

その意図どおりに故郷へと戻ってきたのが、最も若い第13代の高野稜央さん。「智輝さんとか聖弥さんとか、僕の先輩が長野県でダブルダッチを頑張ってやっていてくれた。帰る『決め手』までではないにせよ、要素の一つ。そういう人たちと一緒に頑張っていこう――という気持ちもあった」と明かす。

必要なのは2本のロープと、多少のスペース。
無限大のパッションなら標準装備だ。

主な活動場所はPARCOの近く、花時計公園。

2025年2月にPARCOは閉店予定で、3月には創業139年の井上百貨店も幕を下ろす。青春時代を過ごした街並みは大きな変革期を迎えようとしているが、唯一無二の故郷であることは変わらない。ロープの絆で強く結ばれた仲間たちとともに、未来に向かって飛び跳ねる。

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