フィナーレはホームで白星を エース浮田健誠は“仲間”のために戦う
AC長野パルセイロのエースを担うFW浮田健誠。昨季はFC岐阜で無得点に終わったが、今季は最終節を残してJ3得点ランキング4位タイの13得点を叩き出している。ルーキーイヤーにJ2レノファ山口FCで記録した7ゴールを大きく上回るキャリアハイの数字だ。苦境でも自らに矢印を向け、サポーターに思いを寄せ、愚直に日々を送って進化を遂げた27歳。11月24日の最終節・ホームのカマタマーレ讃岐戦を前に、その足跡をたどる。
文:田中 紘夢
気付かされた新たな武器
味方を生かすプレーも増える
185cmの長身からなるポストプレー、ダイナミックな裏への抜け出し、左足の強烈なシュート。なんともロマンあふれるストライカーだ。
2年前、FC今治を率いていた髙木理己監督(現長野)から獲得の打診を受けたが、最終的には岐阜に移籍。今季は再びラブコールを受け、それに応える形となった。岐阜では主にサイドハーフを担っていたが、本職のFWへ。第2節の奈良クラブ戦で約1年半ぶりのゴールを決めると、勢いは止まらなかった。
第5節の福島ユナイテッドFC戦から4試合連続ゴール。自身初のハットトリックを遂げれば、得点ランク首位にも立った。まさに“ケチャドバ”の状態を迎えたわけだが、その要因は何だったのか。本人はこう振り返る。
「一番のポイントは裏抜け。自分ではそこまで得意とは思っていなくて、どちらかと言えばポストプレーだったり狭い局面が得意だと思っていた。ここに来て(髙木)理己さんが武器だと伝えてくれて、試してみたらそのまま武器になった」
出し手との関係も良好だ。例えば第16節・Y.S.C.C.横浜戦の1点目。DF杉井颯のロングフィードから抜け出し、GKとの1対1を仕留めた。杉井は柏レイソルU-18の後輩で、「ギリギリまで動きを見てくれる選手だし、そこからのパスは何十本ももらっている」。まさに阿吽の呼吸を見せ、それが長野の攻撃パターンと化した。
しかし、当然ながら相手も対策を講じてくる。「裏に抜けると逆のセンターバックまでカバーしてきたり、GKがめちゃくちゃ前に出てきたり…」。敵将の言葉に耳を傾けても、背後への抜け出しは明らかに警戒されていた。
PROFILE
浮田 健誠(うきた・けんせい)1997年6月12日生まれ、千葉県出身。高校時代は柏レイソルU-18でプレーし、順天堂大へ進む。同級生の日本代表MF旗手怜央(セルティック)らとともにプレーした。卒業後はレノファ山口FCに2年間在籍し、J2通算52試合9得点。22年にSC相模原、23年にはFC岐阜に所属。今季からAC長野パルセイロでプレーしている。最終節を残してJ3得点ランキング4位の13ゴールとブレイク。裏への抜け出しと強烈な左足シュートを武器とする。185cm、78kg。
第16節のYS横浜戦以降は、7試合連続無得点と失速。その間に目を向けたのは、「周りの選手に点を取らせること」だ。
第18節のカターレ富山戦では、味方のロングフィードから頭で競り勝ち、山中麗央のゴールをアシストする。185cmの長身を生かしたポストプレーで、いかに味方へボールを届けられるか。それは浮田の長所でもあり、課題でもあった。
「相手に触れないポストプレーはもともと得意だったけど、1トップだとどうしても相手の接触を避けられないところも出てくる。そこは少し避けてきたところでもあったけど、ガッツリと向き合ってきた」
新旧日本代表FWの大迫勇也(ヴィッセル神戸)や大橋祐紀(ブラックバーン・ローヴァーズFC)も参考にしながら、ポストプレーの改善に着手。結果に繋がる回数こそ少なかったものの、ストライカーとして成長を遂げた。
サポーターの声援が何よりの原動力
仲間のために走り、戦い、決める
前半戦で11得点と荒稼ぎした一方、後半戦は2得点。浮田の失速と歩調を合わせるようにチームも後退し、気付けば残留争いにまで巻き込まれていた。彼がネットを揺らした9試合は、5勝3分1敗と“ほぼ”負け知らず。エースの活躍ぶりが勝敗を左右しているのは間違いない。
「今までにないペースで点を取って自信もついたし、後半戦でなかなか取れなくて今までの気持ちも思い出した。結果が出るか出ないかは紙一重だし、当たり損ねのシュートが入ったりもした。入らなくても打ち続ける姿勢が大事だと思う」
ゴールとともに自信を植え付けたのは、サポーターの存在だ。ウォーミングアップ前には決まってピッチを一周し、スタジアムの雰囲気を噛み締める。サッカー専用スタジアムをホームにするのは自身初。その臨場感を楽しんできた。
「『この舞台で試合ができるのは幸せだな』と思いながら歩いている。みんなが拍手をしてくれたり、声をかけてくれたりするので、『やっぱりいいな』と。そうやってモチベーションを上げてきた」
ここまで37試合中36試合に出場してきたが、コンディションを維持するのも容易ではなかった。ふくらはぎや足首のケガを負い、離脱寸前の時期も。それでも痛み止めを飲むなどしてピッチに立ち、ゴールを量産してきた。トレーナーの治療はもちろんだが、サポーターの声援がなければ、ここまで走り続けることもできなかっただろう。
現在は得点ランク4位の13ゴール。クラブとしては、現U-18監督の宇野沢祐次が挙げた2014年の16ゴールに次ぐ数字だ。最終節で13試合ぶりのゴールを決め、ホームで有終の美を飾りたいところだが、ケガの影響で出場は不透明。それでも、「大好きなスタジアムでみんなと喜び合いたい」という気持ちに変わりはない。
チームとしても前節で残留を決めたものの、最終節を消化試合などとは捉えていない。11月19日、シュナイダー潤之介GKコーチが前立腺がん(ステージ4)と診断されたことを発表。闘病中の“仲間”にせめてものパワーを送るためにも、勝利が必要だ。
「試合前のロッカールームもそうだし、シュート練習もそうだし、強気でポジティブな声をかけてくれて心強かった。そんなシュナさんが大変な時なので、みんなで力になりたい」
14試合ぶりの白星を、今季のフィナーレに。
チームのために、仲間のために、クラブのために――。
浮田健誠は最後まで走り続ける。
J3第38節 カマタマーレ讃岐戦 試合情報
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