“オレンジの新人広報”宮下翼さん アカデミー出身者初のフロントスタッフに

頼もしい“新戦力”が加わった。AC長野パルセイロのアカデミーで育った宮下翼さんが、今年4月からトップチームの広報担当として入社。アカデミー出身者がフロントスタッフに入るのは初めての事例だ。古巣復帰に至った経緯とともに、今週末の2025年5月11日から始まる信州ダービー2連戦に向けて思いを聞く。
文:田中 紘夢
「パルセイロってどこ?」
大学時代に味わった悔しさ
「長野にいたときは、『自分よりうまい選手はそういないだろうな』と…。プロになれるというふうに、軽い気持ちで思っていた」
千曲市出身で、中学からAC長野のアカデミーに加入。ジュニアユースでは田中聡(現サンフレッチェ広島)とともにプレーし、ユースではキャプテンかつエースとして活躍した。

1学年上の小西陽向いわく、「ボールを収めて、自分でシュートを打ちにいって…。ザ・ストライカーみたいな感じだった」。2学年下の鈴木悠太は「試合中はよくイライラしていた」と笑ったが、それもストライカーたる勝ち気の表れだろう。

高校卒業後は中央学院大に進学。同校は2023年に新設された関東大学リーグ3部に参入し、2学年上のGK阿部諒弥が清水エスパルスに加入するなど、プロを目指せる環境にあった。
全国の猛者たちが集う関東に足を踏み入れ、飛躍を夢見る日々。しかし、待ち受けていたのはトップレベルの“洗礼”だった。
「関東に行くと上には上がいて、出はなを折られた感じだった。3年生が終わる頃には『もう無理だろうな』と思った」

地元では通用しても、全国では通用しない。周囲に自身の経歴を伝えても、「長野県って強い高校あったっけ?」「パルセイロってどこ?」と理解すらされない。
「とにかくレベルの差を痛感して、ショックだったし悔しかった」
アカデミー時代の同僚と再会
現場で学びを得ながら奔走
「長野県のサッカーをもっと知ってもらいたい。そのためにもパルセイロに戻って、J2昇格に関わりたかった」
そう思い立った宮下さんは、当時から在籍しているスタッフに連絡を取った。大学4年時にインターンとして参画し、その後に正式入社が決定。トップチームの広報担当として、4年ぶりの古巣復帰となった。

新入社員とはいえ、クラブの歴史を知っているアドバンテージはある。トップチームにはアカデミー時代に共闘した小西と鈴木が所属しており、選手との信頼関係も築きやすい。
「最初に来たときは連絡がなかったからびっくりした。不思議な感覚だけど、また一緒になれてうれしい」と後輩の鈴木。先輩の小西も「昔の話ができる人が来てくれて、ピッチ外でも楽しく過ごせる」。

宮下さん本人からしても、「大学で離れていたときの話も聞けるし、再会できてうれしい」。彼らに限らず、選手たちから慕われている様子はうかがえる。
アカデミーヘッドオブコーチング兼U-18コーチの宇野沢祐次氏も、ユース時代にコーチとして指導を受けた間柄。スタッフ陣も含めて円滑にコミュニケーションを取りながら、日々研鑽している。

ちなみに2023年にトップチーム2種登録となった宮下隼(岐阜聖徳学園大)は、自身の弟にあたる。
「広報として選手と近い距離にいる分、勝ったらもちろんうれしいし、負けたら本当に悔しい。勝利のためにできる限りのサポートをしたいし、クラブを知ってもらえるように頑張りたい」
フロントスタッフは人数が限られているため、運営や集客に携わることもしばしば。認知を広げるための仕事は多岐にわたる。
広報としても選手の動画を撮影・編集したり、テレビの生中継で試合を告知したり――。「自分の発信でサポーターの方々に喜んでもらえると、うれしい気持ちになる」。現場で学びを得ながら奔走する日々だ。
信州ダービー2連戦への思い
「山雅に負けるイメージはない」
入社が決まった際は周囲から激励の声を受けつつ、ネガティブな反応もあったという。
「弱いチームだよね」
「お金がないよね」
チームは昨季のJ3で18位に沈み、クラブとしても3期連続の赤字。宮下さんが在籍していた当時から比べても、苦しい状況であることには違いない。

ただ、それを変えるのもモチベーションの一つだ。
「自分はまだ入社1年目なので、まずは一人前になれるように努力したい。このクラブにより大きくなってほしいし、『良い会社に入ったね』と言われるようになりたい」
チームは今週末から松本山雅FCとの信州ダービー2連戦を迎える。県選手権決勝、リーグ戦と中2日で続くビッグマッチだが、宮下さんもOBとして懸ける思いは大きい。

「ジュニアユースのときは山雅に対して負け知らずだった。ダービーなので負けてはいけなかったし、『何がなんでも勝つぞ』という思いがあった」
松本に所属する稲福卓と松村厳は、ユース時代に対戦した同級生でもある。かつての戦友たちと再会することになるが、「自分の中では山雅に負けるイメージはない」。

「チームとして大変な時期だと思うけど、ダービー2連戦で勝って良い流れに乗ってほしい。いちファンとしても応援したい」
アカデミー出身者として初のフロントスタッフ。クラブに対して人一倍の思いを抱き、今日も魅力を届ける。

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