港町に響いた“紅きカンピオーネ” 17戦無敗VでF1復帰を決める

2024年11月30日、グリーンアリーナ神戸。したたかに勝ち切って、「その瞬間」を迎えた。15勝2分。フットサル・F2リーグのボアルース長野は、圧倒的な成績を収めて優勝と昇格を決めた。開幕から12連勝と無類の強さを誇り、3年ぶりのF1復帰を決めたチーム。強さの根源はどこにあったのか。今季これまでの軌跡を振り返りながらひも解いていく。

文:田中 紘夢/編集:大枝 令

固い守備から攻撃へ
対策が進むも、対策で上回る

「自分たちはディフェンスのチーム。そこができないと試合にならない」

山蔦一弘監督がヘッドコーチから昇格して2シーズン目。柄沢健・前監督が培ってきた「群れになって泥くさく戦う」スタイルを継承し、強固な守備を練り上げてきた。

昨季からメンバーが大きく変わらず、ベースも構築済み。「チームの一体感は昨季よりも高いし、だからこそ最後に踏ん張れている」とチーム最年長39歳の田中智基は話す。最終節を残して失点数は23(1試合平均1.35)と、リーグで最も少ない。昨季の32失点と比較しても大幅に上回るペースだ。

堅守から速攻で点を奪えば、セットプレーのチャンスも確実に仕留める。定位置攻撃(整った守備に対する攻撃)での得点こそ少ないものの、粘り強く勝ち点を積み上げてきた。

そしてシーズン終盤戦は、重圧との戦いでもあった。

11月3日のリガーレヴィア葛飾戦で3-3と引き分け、開幕からの連勝が12でストップ。続くエスポラーダ北海道戦も3-3と、2試合連続のドローに終わった。

「優勝が現実味を帯びてくる中でプレッシャーはみんな感じていたと思うし、長野と対戦する時は『一泡吹かせてやろう』と、すごく割り切った戦い方をしてくる」。昨季キャプテンを担っていた米村尚也は明かす。

それは優勝を決めた前節・デウソン神戸戦も同様。結果的には3-2で逆転勝ちを収めたものの、相手が定位置攻撃を捨ててロングボールに徹してくる。山蔦監督からすれば「なかなかリズムが作りにくかった」。

ならば個人で打開を図りたいところだが、一筋縄ではいかない。得点源である米村のドリブルにマークが集中。「自分が思っていた以上に対策された」と本人も吐露する。とりわけ後半戦は1対1での仕掛けに固執せず、味方を使う意識も高めていった。

その意識が大一番で実った。

1-2で迎えた24分11秒。右サイドで米村がボールを持つと、神戸は3人がかりで止めにかかる。それによってフリーとなった岡本生成が右足一閃。ボールは相手に当たってコースが変わり、ゴールに吸い込まれた。

相手の対策が進む中で、それを逆手に取った格好だ。このほかファーストセットとセカンドセットの順番を入れ替えたり、ケガを抱えていたキャプテンの三笠貴史、副キャプテンの松永翔が復調したり――。二の矢、三の矢を放つことで勝負強さを保ってきた。

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39歳田中智基と前主将の米村尚也
縁の下を支えて勝負強さもたらす

「18年もFリーグでプレーしているけど、優勝したのは初めてだった」

Fリーグ初年度からプレーしてきた田中は、そう感慨に浸る。

優勝が懸かる大一番の相手・神戸は、Fリーグのキャリアをスタートさせた古巣。かつてのホーム・グリーンアリーナ神戸に凱旋し、39歳にして初の栄冠をつかんだ。試合後には同じく神戸でプレーしていた山蔦監督とともに会場を回り、懐かしさを噛み締めた。

「監督と(山元優典)コーチとは、選手としても一緒にプレーしていた。ベテランとしての振る舞いはここに来るタイミングから言われていたし、そういうことを意識しながら3年間やってきた。こうやって優勝で終われたのはよかった」

2-2で迎えた31分には、米村尚也からの浮き球のパスを絶妙な胸トラップで収める。後方の上林快人へ正確に落とし、決勝点をお膳立て。古巣相手に衰えない技術を披露すれば、ベンチに退いても声を切らさず、役割を全うしていた。

田中だけに限らず、選手たちの自覚と責任がチームを強くした。

昨季は米村がキャプテンを務めていたが、今季は選手間投票を導入して三笠貴史が選出された。「彼はそういうところに長けている選手だと思っていたし、信頼して任せることができた」と米村は話す。

キャプテンの立場から離れたとしても、米村の存在感は大きかった。

「副キャプテンの翔さんだったり(橋野)司も含めて、見えないところで選手たちを支えられればと思っていた」。昨季に比べて得点数やチャンスメイクの数は減ったものの、勝負どころをモノにする“仕事人”。前節は得意のドリブルから決勝点をアシストし、今節も2得点に絡む活躍でチームを勝利に導いた。

F1復帰は通過点、目指すは定着
まずは無敗優勝でフィナーレを

ただ、これは通過点にすぎない。

15勝2分と無敗のまま優勝を遂げた一方、キャプテンの三笠は「全部勝ちたかった」と本音を口にする。「もっと厳しくやれていれば2引き分けもなかっただろうし、自分の甘さも感じた」。優勝後の記者会見でも喜びは控えめで、「成長しないといけない部分を挙げればキリがない」と課題にも目を向けていた。

それもそのはずだ。目標はあくまでF1定着。2019-20シーズンからF1で戦った4年間は、入替戦で勝ったり他クラブのライセンス問題に救われたりと、かろうじて生き残ってきた経緯があった。その際には“落ちない長野”と称されていたが、そんな二つ名はないほうがいいに決まっている。

各人各様の思いもある。「自分は立川(アスレティックFC)で結果を出せなかった。あの舞台で活躍することにフォーカスしてやってきた」とエースの上林。2022-23シーズンに長野から立川にステップアップしたものの、結果を残せず長野に戻った。悔しさをバネにチームトップの12ゴールを挙げ、再挑戦の権利を得た。

今季残すミッションはあと一つ。ここまで“無敗で優勝”は決めたものの、まだ“無敗優勝”は決まっていない。「あと1個残っている。1週間でもう一回気を引き締めて、そこに向かって自分たちが集中できるかどうか」。三笠の表情は引き締まったままだ。

12月8日、ことぶきアリーナ千曲での最終節でフィナーレを迎える。「ことぶき(アリーナ千曲)をいっぱいにして、長野の全員でホーム最終戦に勝って、この優勝を祝いたい」と三笠。赤に染まったアリーナで有終の美を飾り、満を持してF1に返り咲く。


F2リーグ 広島エフ・ドゥ戦(12月8日)ホームゲーム情報
https://teket.jp/10237/43177
チーム公式サイト
https://boaluz-nagano.com/
Fリーグ チーム紹介ページ
https://www.fleague.jp/club/nagano/

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