上田西に“オール長野”のバックアップ 7年ぶり全国ベスト8を後押し

第103回全国高校サッカー選手権大会でベスト8の成績を残した上田西。7年前のベスト4にはあと一歩及ばなかったが、全国の強豪に伍して快進撃を遂げた。選手、スタッフ、学校、保護者をはじめとする関係者の努力はもちろん、その背景には有形無形の支えが数多く存在する。今回は「オール長野」態勢で臨んだ躍進の裏側にフォーカスしたい。

文:田中 紘夢/編集:大枝 令

“イナイレ”監督から色紙の寄贈
人気YouTuberも激励に駆けつける

「長野県全体で戦おうと思っていた」

就任9年目の白尾秀人監督は、初戦を終えた後にそう話していた。

ベンチに飾られた一枚の色紙がある。人気サッカーアニメ「イナズマイレブン」の監督を務めた宮尾佳和氏から贈られたものだ。

同氏は長野市出身。過去にはAC長野パルセイロのマスコットであるライオーもデザインした。今回は長野県代表を応援すべく、白尾監督と4選手のイラストを制作。キャプテンのMF鈴木悠杏、副キャプテンのGK牧野長太朗、DF和泉亮哉、MF徳間陽向が描かれた。

2007年の松本山雅FC選手集合写真。前列左端が白尾秀人監督(©︎松本山雅FC)

上田市に位置する同校は、“長野県フットボールマップ”の上では全県に応援されやすい環境と言える。AC長野パルセイロと松本山雅FCのホームタウンに含まれておらず、いわば中立に近いポジション。白尾監督は現役時代に松本山雅でプレーしていたものの、引退したいまはAC長野のスタッフとも親交が深い。

大会前にはAC長野のホームゲームで壮行セレモニーを実施。上田西高出身のMF藤森亮志からも激励の言葉が寄せられたという。さらに同じ長野市内のプロフットサルチーム・ボアルース長野のホームゲームでもセレモニーを行った。

実現こそしなかったが、松本山雅とも練習試合を検討していた。しかしチームがJ2昇格プレーオフ決勝まで勝ち進んだため、日程の調整がつかず。それでも選手からサインと動画が贈られ、県内の3クラブからパワーをもらった。

人気YouTuberからも後押しを受けた。松本市出身で、インフルエンサーサッカーチーム「WINNER’S」に所属していた高野歩夢さんだ。2022年に練習参加した縁もあり、大会前に学校を訪問。元WINNER’Sマネージャーの山崎愛さんも差し入れを持って同行し、選手たちは感激していたという。

高野歩夢さん、山崎愛さんと撮影した記念写真(チーム提供)

「選手権という夢の舞台ならではのところ。いろんな方に支援をしていただいて、こういうチームができたと思う」

親しみやすいキャラクターで交友関係も広い白尾監督。その人柄も相まって支援の輪が広がり、“オール長野県”でベスト8まで駒を進めた。

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恩師と教え子からもサポート
ベスト8という結果で恩返し

ピッチ上ではプロのサポートも受けた。

ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)やヴィッセル神戸で監督を務めた松永英機氏。白尾監督にとっては国士舘大時代、当時J2のヴァンフォーレ甲府にスカウトされた間柄だ。

そんな恩師にたびたびアドバイスを乞い、「本当に助かった」と振り返る。とりわけ今季はロングボールだけでなくビルドアップにも力を入れて作り込んだため、変革期特有の難しさを最小限に食い止める意味でもその知見は大きかった。

偉大な教え子も手を差し伸べた。7年前、ベスト4に進出した際のエースだった根本凌。現在はJ1湘南ベルマーレに所属している現役のプロ選手だ。新シーズンに向けたコンディション調整も兼ねて、初戦の2日前に母校の練習へ参加。後輩の意気込みを肌で感じたという。

「初戦への緊張感というのは、一緒にやっていてすごく感じた。引き締まった雰囲気があった中で、初戦は良い形で勝てたと思う。その試合も見に行って、一人一人が自覚を持って頑張っていた」

選手たちは何も聞かされておらず、いわゆる“サプライズ訪問”だった。ミーティングで当時の経験を伝えた上で、ともにトレーニング。FW陣には動き出しのアドバイスもしたという。

プロ6年目を迎える根本からしても、後輩に刺激を受けた様子。昨季は待望のJ1初ゴールを決め、今季はさらなる飛躍が期待される。

「自分たちが全国で勝っていったときの景色を、同じような形で思い出させてくれた。後輩たちには感謝しているし、ベスト4との差を埋められるように日々の練習から頑張ってほしい。自分も後輩たちに良い報告ができるように、開幕まで良い準備をしていきたい」

根本は7年前、チーム唯一となる大会優秀選手に選ばれた。そして今大会では、自身の10番を受け継いだキャプテン鈴木が唯一の優秀選手に選出。その結果を受けて、白尾監督は「うれしくて涙が出た」と明かす。

一方で大会後、甲府と松本でチームメイトだった土橋宏由樹氏からは、「もう一個だな」と愛ある言葉をかけられたという。ベスト4進出がかかった準々決勝では、のちに準優勝した流通経済大柏に0-8と完敗。国立競技場への壁は高く、険しかった。

「やり方次第でここまで来られたけど、それをどう今後に繋げるか。ベスト8の壁は本当に感じているし、そこは見ている人たちもみんな言っていた。どう詰めていくかを考えていかないといけない」

有形無形のさまざまな後押しを受け、ベスト8という結果で恩返しした上田西。長野県に希望の光を届け、胸を張って大会を後にした。


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