“残り3分”を埋めるため 早川知伸監督が笛を吹く328日のマーチ
あと3分強、リードを守り切れず絶望の底に沈んだ。2024年12月7日、J2昇格プレーオフ決勝で敗れた松本山雅FC。チームは11人の新加入選手を加え、早川知伸新監督のもとで1カ月後に始動した。同じ思いをせず、笑って終わるためには何が必要なのか――。松本市内などでのトレーニング期間を経て、“早川流”のチーム作りの輪郭が見え始めてきた。
文:大枝 令
“2024.12.7”の失意からリスタート
突き詰めるべきファクターは何か
「なぜクリアが短くなったのか」
「なぜボールに行かなかったのか」
92分45秒に食らった同点弾。プレーに関与した選手たちはそれぞれ、松本山雅の未来がかき消えた失点を引きずっていた。周囲が想像している以上に、長く。
ただし、その瞬間「だけ」に問題があったわけでは決してない。そこに至るまでのリーグ戦38試合+プレーオフ準決勝の積み重ね。さらに分解すれば、日々のトレーニングの積み重ねがある。
昨季まで2年間コーチを務めた早川知伸監督もそうした思考を基に、ショッキングな敗戦を頭の片隅で冷静に受け入れていたようだ。就任会見で発したコメントからも、それはうかがえる。
「本当に残念という言葉しかない。ただ、本当によく見れば、まだまだ詰めが甘かったのではないかと思っているところもある。そこには自分も多くの責任を感じている」
「純粋にもっと戦えないといけないし、もっと走らないといけない。もっとベースの部分で躍動して、最終的には自分たちが守り切るだけのところで、メンタル的にも肉体的にも足りなかったと感じている」
正念場で力を出せる強靭な組織へ
「規律」と「基準」の運用を徹底
詰めの甘さを排除する。
そのために、心技体を鍛え抜く。
具体的なアプローチとして、早川監督が明確に掲げるものがある。
「規律」と「基準」だ。
まず規律とは、ピッチ内での攻守における決まりごとだけにとどまらない。「自己管理」をテーマとしてルールを設け、厳密に運用していく。それを、強靭な組織への土台とする。
1月20日。松本でのトレーニング最終日に取材に応じ、組織構築についての考え方を明かした。
「オフザピッチとオンザピッチの繋がりは絶対にあると思っている。そこは徹底し、最終的にはそれをこちらがジャッジしていく。そこだけは譲れない部分なのでやっていきたい」
松本でトレーニングをしている間はいわば“猶予期間”とした。「基準ができていない選手もいるのはもちろん想定内。逆に、松本ではある程度出てきていい」。22日から始まるキャンプから“本格施行”にフェーズを移すことになりそうだ。
そうした規律と照らし合わせながら、起用の基準を明確にする。
それによってチーム内競争を促す。
「良いものと悪いものを伝え、そこで評価される選手が試合に出ている――という状況にするのが自分の理想。そこ(の基準)はまず持っていなければいけない」
守備の再構築はすでに着手済み
フィジカルはキャンプで本格化
ピッチ内で託されたテーマの一つ「守備の再構築」に関しては、すでにアプローチが進んでいる。ボールロストからの切り替え、戻るべきエリア、マークを受け渡すタイミングなど、主に個人戦術。テーマは多岐にわたり、DF出身の指揮官らしい細やかさで落とし込む。
「最初の導入としては良かったと思う。この時期にしっかり押さえておきたい部分はやれた」と、一定の納得感を示す指揮官。「1回ですぐ『わかった』とはならないので継続していく。ここからグループとしてチーム全体としてどうするのか、(キャンプ地の)和歌山と鹿児島で持っていければ」と見通す。
あとは土台となるフィジカル面。基本的に人工芝グラウンドでのトレーニングが続いたため、ケガのリスクを考慮した強度設定とした。早川監督が本来求めたいインテンシティには至っておらず、22日から始まる第1次キャンプで巻き取ることになるだろう。
22-29日の和歌山(串本町)キャンプではJ3のFC大阪、関西1部のアルテリーヴォ和歌山と中3日のスパンでトレーニングマッチが予定されている。
ただし、8日間はあくまで“鍛える期間”との位置付け。戦術を落とし込みつつ「和歌山で一気にギアを上げられれば」「オールアウト(全て出し切ること)まで上げていく」と見据える。
全ては2024年12月7日に流した悔し涙を、喜びの涙で上書きするための取り組みだ。あの日スタメンだった11人全員が残って滑り出したシーズン。「臥薪嘗胆」の念を持ちながら、11月29日の最終節まで駆け抜けていく。