ルヴァンカップで放った“エメラルド”の輝き アカデミー出身選手の躍動

時間をかけて生成された緑の宝石が、地表に姿を現してきた。今季の松本山雅FCにはユースアカデミー出身の選手が過去最多の6人在籍。J2のサガン鳥栖を迎えた2025年3月26日のYBCルヴァンカップ1stステージ1回戦では、このうち4人がピッチに立った。それぞれが役割を果たしたほか、MF稲福卓とFW田中想来は貴重な決勝点に絡む活躍。選手たちの思いと、アカデミーが繋いできた営みを振り返る。
文:大枝 令
アカデミー出身者が過去最多6人
樋口大輝は昨季33試合6ゴール
「今年ってユース出身が今までで一番多いですよね。チームの中でも一大勢力になってきた感もありますか?」
1月24日、和歌山県串本町での第1次キャンプ。DF樋口大輝を取材しながら、最後にそんな話題を振った。今季の松本山雅FCには、過去最多6人のアカデミー出身者が在籍する。

大卒2年目の樋口を最年長に、MF稲福卓とGK神田渉馬(ともに2021年高卒)、FW田中想来(2023年高卒)、そして今季は大卒ルーキーDF松村厳と高卒ルーキーMF萩原正太郎が加わった。
樋口が受け止めを話す。
「自分が高校の時とかは考えられなかったこと。(アカデミー出身者が)活躍することで影響力もあるし、サポーターの皆さんにも喜んでもらえることは去年も感じた」

自身は大卒1年目の昨季は33試合に出場しただけでなく、サイドバックながら跳躍力を生かしてチーム3位タイの6点を決めた。ブラウブリッツ秋田で今季J2得点ランキング首位を走るFW小松蓮に続き、アカデミー出身者としてはピッチで存在感を放つ。
ただし樋口は、即座に付け加えることを忘れない。
「アカデミー出身の選手が活躍しているとか、J2で戦っているとか…そうなるのが理想。そうすればアカデミー自体のレベルももっと上がっていくと思う」
試合に出場し、存在感を示す。
そこで結果を出す――。

アカデミー出身者であろうとなかろうと、プロである以上はそれが大前提。結果として活躍した選手がアカデミー出身者であれば、喜びはさらに大きくなる。
「じゃあ、みんなが活躍したら書きましょう」
そんな話をして、取材は一区切りとなった。
「活躍できるか」が重要ポイント
カップ戦で若き2人が得点に絡む
それから2カ月、早くもしかるべきタイミングが訪れた。
3月26日、YBCルヴァンカップ1stステージ1回戦。J2サガン鳥栖をサンプロ アルウィンに迎えた一戦で、6人のうち4人が同時にピッチに立った。
樋口は左ウイングバック、松村は左センターバックで先発出場。2人はU-18の1学年差だっただけでなく、専修大でもともにプレーした間柄だ。左サイドの呼吸はスムーズで、水漏れを起こさない。

「(ボールを)持たれる時間も長かったけれど、チームで一つになって、耐える時は耐えて攻める時は攻められていた。組織として戦えていて、負ける気はしなかった」
松村はそう振り返る。不慣れな3バック左ながらも、利き足とは逆の左を使いながらタスクを遂行していた。さらに田中が72分に途中出場し、0-0で突入した延長戦のスタートからは稲福が投入された。

この2人が、目に見える「結果」を出した。
延長前半が始まってすぐの93分。稲福が高い位置でインターセプトすると、そのままドリブルで持ち運ぶ。ペナルティーエリア内で倒されてPKを獲得。相手を読んでボールを奪った始点も含め、クレバーに仕事をした。
「中に味方がいなかったけれど、自分でシュートまで行ける選択肢はあまりなかったので、相手の前に身体を入れた」と稲福。キャンプ中に自身初の故障離脱を経験しながらも、復帰初戦でインパクトを残した。

そしてキッカーを務めたのは田中。松本山雅の選手として公式戦に出場するのは、2023年5月7日の天皇杯県予選兼長野県サッカー選手権決勝――つまり、AC長野パルセイロとの“信州ダービー”以来だった。
しかもその試合、自身の失敗でPK戦4-5と一敗地に塗れた。

「雨が降っていてもサポーターがたくさん来てくれた中で、自分の1つのPKが決め手となって負けた。屈辱的な光景を目の当たりにして、本当に悔しかった。申し訳なかった」
2023年当時にそう話していた田中。エンドは逆だが、同じホームスタジアムでPKの機会だった。「今度は緊張しなかったし、外す気もしなかった」。力強く右足を振り抜いた一撃は、結果的にJ2の相手から勝利をもぎ取る決勝点となった。

かつてダービーで痛恨のPK失敗
2年越しに歌われた幻のチャント
「田中想来 田中想来 ゴール目指して走れ」
サンプロ アルウィンに、その名を称えるチャント(応援歌)が響く。それは支える者とプレーする者の思いが、2年越しに通じ合う瞬間でもあった。

というのも、サポーター団体「ウルトラスマツモト」がこのチャントを公開したのは2023年5月11日。4日前の県選手権でPKを外して失意の底にいた田中に向け、激励の意味も込めたタイミングで急きょ作成していた。
しかもその年、直後の5月13日にはリーグ戦でAC長野と当たる日程。「決起集会で、サポーターのみんなが僕のチャントをすごく歌ってくれていた映像が流れてきていた」と、自身もそれを後日に知ることとなった。

しかし当の本人はそれ以降、出場機会がぱたりと途絶えた。
翌2024年は松本山雅が提携しているシンガポールのゲイラン・インターナショナルFCに期限付き移籍した。7月に双方合意のもと解除して帰国。しかし心身のコンディションを実戦レベルに引き上げるのは難しく、公式戦で姿を見ることはなかった。

約2年ぶりのホームスタジアム。ピッチに立っただけでなく、かつて失敗したPKを決めた。喜びに浸りながら、2年越しに初めて流れた自身のチャントを耳にした。視界がにじみかけた。
「せっかく作ってもらってからメンバーに入っていなかったので、2年越しでようやく聞けた。『歌ってくれるかな?』と思っていたけどしっかり歌ってくれて、めちゃくちゃ涙が出そうになった」
「帰ってきたな――と思えた」

ピッチ内外を密接に繋ぐ緑の結晶
アカデミー統括者が描く未来図は
アカデミー出身であろうとなかろうと、公平なチーム内競争を勝ち抜いてピッチに立つのが健全な姿。ただ彼らはこのように、ピッチ内とピッチ周辺を色濃く結び付ける存在でもある。
エスコートキッズとして、あるいはボールパーソンとして。スタジアムに降り注ぐ熱狂をピッチの脇で浴び、プレーに目を輝かせながら自らもその場を目指す。

その中の一人に話を聞いた。松本山雅FC U-18のキャプテンを務める柴田陸。U-12時代から山雅に在籍し、高校3年生になった今年で9年目を迎える。
「小学校から山雅で育ってきた。チームに恩返しじゃないけど感謝の気持ちを込めて、絶対に(高円宮杯U-18リーグ北信越1部の)プリンスで優勝したい」
「樋口くんや(松村)厳くんの姿を見ていると、トップで活躍したいと思う。サポーターの皆さんがとても熱いし、外から見ていてもプレーしている選手たちの楽しさを感じる。自分も絶対にそこでプレーしたい」
クラブに対する愛着を口にしつつ、トップチーム昇格に思いを寄せる。高卒1年目の萩原とは1学年違い。練習中から何度となくデュエルしてきた間柄だといい、「昇格までの距離感」も間近で体験しきた。

そして今季は、長年松本山雅に在籍してきた柿本倫明氏がアカデミーダイレクターに就任した。J参入以前の絶対的エース。引退後の2012年から断続的にさまざまな役職でアカデミーに関わっており、U-18監督と兼任しながらアカデミー全体を統括する。
「環境がすごく良くなって実力ある選手が増えたし、ちゃんと教えられる指導者も現場にいる。そういう意味では山雅のアカデミーもすごくレベルが上がってきたと思う」
「一方で、プロに上げるだけが全てではない。アカデミー出身者がスタートの半分近くを占めてもらいたいし、かつ出場率も30〜40%ぐらいを占められるようになればすごくいい」

そう夢を描く柿本アカデミーダイレクター。
ただ、トップチームの選手一人を輩出するまでには膨大な時間と労力を要する。
直接サッカーを教える指導者だけでなく、保護者や学校の教員など多くの人々が関わる。そしてアカデミーの活動は背後でスポンサーや育成サポート会員組織「RAZUSO」に支えられてもいる。
つまり彼らの存在は、緑色の情熱が凝縮された結晶。ピッチでさらなる輝きを示す時、そのエメラルドはプライスレスとなるだろう。
育成サポート会員組織「RAZUSO」サイト
https://www.yamaga-fc.com/razuso
クラブ公式サイト
https://www.yamaga-fc.com/