若き女獅子の合言葉は「打倒3強」 プロ最年長“名伯楽”のもとで走り出す

5年目のWEリーグ開幕に向けて走り出した。廣瀬龍監督のもとで3年目を迎えたAC長野パルセイロ・レディース。元キャプテンの伊藤めぐみをはじめ11人が退団し、10人の新戦力を加えた。大幅にメンバーが入れ替わった中で、掲げた目標は“打倒3強”だ。2025年8月9日の開幕戦に向けて、チームの現状をひも解く。

文:田中 紘夢

シーズン中に古希を迎える“老将”
過去未勝利の3強打破に意欲示す

「順位にはこだわっていない。レッズ(三菱重工浦和レッズレディース)、INAC(神戸レオネッサ)、(日テレ・東京ヴェルディ)ベレーザに一泡吹かせるようなゲームをしたい」

6月17日のトレーニング始動日。廣瀬龍監督は報道陣に向けて、目標を明言した。

就任3年目を迎えた指揮官だが、3強に対するリーグ戦での成績は1分5敗。これまで一度も勝利を挙げられていない。

「今は10回戦って1回勝てたらいいようなものだけど、何が起こるかは分からない。その分からないことを成し遂げたい」

WEリーグが創設されて5年目。これまでの最高順位は12チーム中7位で、上位に進出した経験はない。

チーム最年長かつ最古参のMF三谷沙也加は「半分より上の順位を目指しながら、3強相手に『パルセイロは嫌だよね』と思わせられれば、必然的に順位も上がってくると思う」。

廣瀬監督にとっては、70歳の節目を迎えるシーズンでもある。

JリーグとWEリーグを合わせて男女72のプロクラブが存在する中で、ヴァンラーレ八戸の67歳・石崎信弘監督を超える最年長監督。修羅場をくぐり抜けてきた“老将”だ。

「老人の意地じゃないけど…そういうものを見せたい」

穏やかに微笑む瞳の奥には、情熱が静かにたぎっていた。

元キャプテンら精神的支柱が退団
若きリーダーたちがチームを牽引

昨季に引き続き、帝京高時代の教え子である諸町光彦コーチとタッグを形成。“弟子”がトレーニングを主導し、“師”が細部に目を光らせる――そんな間柄だ。

女子サッカー界で指導歴豊富な諸町コーチの知識を借りながら、新戦力を獲得。同コーチの古巣である愛媛FCレディース、マイナビ仙台レディースなどから、総勢10人が加わった。

10人中4人はアマチュアリーグのなでしこリーグから。残りの6人はWEリーグから加入したが、出場機会に恵まれていたわけではない。未知数な面々が多く、蓋を開けて見なければ分からない側面もある。

退団選手の穴も小さくない。元キャプテンのMF伊藤めぐみ、元日本代表のDF坂井優紀と、精神的支柱を担っていた2人がチームを去った。

「引っ張ってくれた2人がいなくなったのは大きい。始動して1週間くらいは不安もあった」

昨季は副キャプテンを担い、今季は選手会長としてチームを束ねるDF橋谷優里。日本体育大学時代から共闘した岡本祐花も海外移籍となり、雰囲気の変化を感じている様子だ。

とはいえ、それはポジティブな変化にもなり得る。

キャプテンは宮田村出身のMF稲村雪乃。副キャプテンは長野市出身のFW川船暁海、MF菊池まりあ、DF岩下胡桃。4人の平均年齢は22.8歳と若い。

彼女たちは伊藤や坂井のようなリーダータイプではないが、プレーで周囲を先導できる。その上で橋谷は「自覚を持って声を出し始めたり、雰囲気を作ろうという意思が見えて心強い」と印象を口にする。

チーム全体を見ても、平均年齢は23.9歳(始動日時点)と若い。それこそ3強撃破といったきっかけをつかめれば、波に乗れる可能性はあるだろう。

“全盛期”を知る最古参の三谷沙也加
「愛されるチームを取り戻したい」

「パルセイロの歴史を知っているぶん、このチームの良さを残しながらしぶとく勝てるようにしたい」

そう決意を改めたのは、在籍8年目の三谷。チーム最年長の30歳で、なおかつ最古参でもある。

浦和レッズレディースから加わったのが2018年。AC長野は当時最高峰のなでしこ1部リーグに所属し、観客数が3,000人を超えることもあった。

なでしこリーグ時代を知る岡本と伊藤有里彩がチームを去った今、“全盛期”を知るのは彼女しかいない。

WEリーグ4年目の昨季のホーム平均入場者数は1,143人。人気が下火となる現状を踏まえ、三谷は思いを巡らせる。

「私たちが『見てよかった』と思ってもらえるような試合をしたら、必然的に見てくれる人が増えると思う。自分たちはスポーツ選手なので、結果がすべて。それを追求するために、しんどい中でもやるしかない」

「そうやって結果を出せば、自分たちも『見てください』と堂々と言える。勝って見てくれる人が増えるサイクルができれば、自信にもなる。地域に愛されるパルセイロ・レディースをもう一回取り戻したい」

チームは6月17日に始動し、7月2日に28人全員が合流。4日から2泊3日の県外キャンプを張り、連日の2部練習で追い込んだ。

スタイルの大枠は変わらない。守備では前線から果敢なプレスを仕掛け、攻撃となれば縦に速くゴールを目指す。攻守ともにアグレッシブで、運動量も豊富。いわば走り勝つサッカーだ。

ボランチとして攻守の繋ぎ目となる三谷には、そのスタイルを浸透させる役割もある。

「代表選手とかに1対1で負けるなら、自分たちは2対1、3対1を作って、グループで勝たないといけない。新しい選手はサッカーへの理解が高いので、距離感よくいつも2〜3人がボールに関わることができれば、面白いサッカーができると思う」

開幕戦は1カ月後の8月9日。ホーム・長野Uスタジアムにアルビレックス新潟レディースを迎える。昨季4位と躍進した強豪との隣県対決は、“打倒3強”に向けた試金石となりそうだ。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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