“鉄人サイドバック”岡本祐花が海外挑戦 感謝示すWEリーグ最終節へ

AC長野パルセイロ・レディースに在籍して5シーズン目を過ごしたDF岡本祐花。2025年5月17日のWEリーグ最終節を前に、海外移籍のため退団すると発表した。2021-22シーズン途中から63試合連続フル出場を遂げた“鉄人”は、なぜ海を渡ることを決意したのか――。その背景には、日本代表選手と対峙した日々から得た、何物にも代えがたい刺激があった。
文:田中 紘夢
リーグ2位の63試合連続フル出場
副キャプテンとしてチームを牽引
「たくさん寝ることですかね…」
2022-23シーズンの最終節前。リーグ戦全試合フル出場が懸かった岡本は、鉄人ぶりの秘訣を冗談交じりに話していた。
日体大FIELDS横浜から2020年に加わり、即戦力として活躍。2021-22シーズンのWEリーグ第16節・ちふれASエルフェン埼玉戦を機に、63試合連続フル出場を遂げる。元日本代表の大賀理紗子(ノジマステラ神奈川相模原)に次ぐリーグ2位の数字だ。

PROFILE
岡本 祐花(おかもと・ゆうか)1997年9月20日生まれ、東京都出身。修徳中高を経て、日体大FIELDS横浜からAC長野パルセイロ・レディースに加わる。両サイドでプレー可能なユーティリティープレーヤーで、主に左サイドバックとして活躍。在籍5シーズンで4人の指揮官に重宝された。2021-22シーズンから続いた63試合連続フル出場は、WEリーグ2位の数字だ。168cm、54kg。
加入から5シーズン。当初はMF瀧澤千聖(サンフレッチェ広島レジーナ)、FW中村恵実(ハリファックス・タイズFC)ら能力的に長けた選手がいる中で、「周りについていけばなんとかしてくれると思っていた」という。
そこから年齢を重ねながら、フル出場を継続。今季は副キャプテンにも着任した。自身の立場が変わるにつれて、「もっとチームが良くなるために、自分以外のことにも目を向けるようになった」と話す。
左右両足を器用に使いこなし、右サイドでも左サイドでもプレー可能。主に左サイドバックとして重宝された。

今季は第2節のジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦でWEリーグ初得点。左サイドをアンダーラップで駆け上がり、左足での切り返しから右足でシュートを放つ。これが相手の足に当たってゴールに吸い込まれた。
ダイナミックな攻撃参加に両足の技術が相まって、なんとも彼女らしいゴールだった。
代表選手と対峙して得た刺激
自信と課題を持ち帰って成長
国内最高峰のWEリーグで試合を重ねる日々。とりわけ昨季までの2シーズンは、日本代表選手と同サイドで対峙する機会も多かった。
思い返されるのは、2022-23シーズンの終盤戦。三菱重工浦和レッズレディース、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、INAC神戸レオネッサと、“3強”との対戦が続いた。

清家貴子、守屋都弥、藤野あおば――。
代表選手と3試合連続でマッチアップした岡本は、「すごく楽しい」と笑みをこぼしていた。
その過程で辛酸もなめた。2試合目の東京NB戦では、チームとして3-3と食らいついた一方、岡本は全3失点に関与。藤野のスピードに乗ったドリブルを止められず、試合後には一人悔し涙を流した。
168cmと身長はあるが、もともとアジリティに長けた選手ではない。それでもフィジカルトレーニングを取り入れ、弱点を補ってきた。藤野のように敵わなかった相手もいるものの、キーマン対策に一役を買うこともあった。
「守れるようになってきた自信もあったし、まだまだ追いつかない部分もあった。そういう選手と比べられるのも良い刺激になった」
「挑戦するなら今しかない」
愛する長野から海外へ旅立つ
しかし、今季は代表選手と張り合う機会も少なくなった。先述した清家、守屋、藤野の3人は海外に移籍。なでしこジャパンの顔ぶれを見ても、大半は海外でプレーする選手たちだ。
自身としても葛藤のシーズンだった。前半戦はWEリーグ初得点などで勝利に貢献したが、後半戦はチームの不調とともに出番が減少。連続フル出場記録も「63」で途絶えた。
「自分が得意ではないプレーを求められる中で、得意としてきたプレーも出さないといけない。『どうプレーしたらいいのか』と悩むシーズンだったけど、そのおかげで選択肢も広がったりした。良い経験にはなった」

チーム戦術に戸惑いを覚えながらも、成長の糧として吸収する日々。
その中で浮かび上がったのは、「もっと挑戦したい」という思いだった。
昨年末に海外移籍の話が持ち上がったが、それ以前は「自分が海外に行けるとも思っていなかった」。ましてや長野には大卒から5シーズン在籍し、相応の愛着もある。「他のチームに移籍することはあまり考えていなかった」という。
ただ、年齢を考えれば今年で28歳。代表選手に追いつき、追い越すためには、成長速度を加速させなければならない。「海外っぽくないかな…」と笑いつつも、「挑戦するなら今しかないと思った」。

AC長野では4人の指揮官のもとでプレーし、いずれも信頼を勝ち取ってきた。持ち前のユーティリティー性に加え、攻守両面でスケールアップ。副キャプテンとしてチームを支える役割も担った。
WEリーグに参入して以降、チーム内最多出場記録を誇る“鉄人”。そのプレーが見られるのも、残り1試合だ。5月17日、アウェイで迎えるマイナビ仙台レディースとの最終節。公式戦118試合目に向かう岡本は、こう力を込める。
「このメンバーでできる最後の試合。絶対に勝ちたいし、全員で勢いをもってパルセイロらしいサッカーを見せたい。自分も長野を離れるので、5シーズンの感謝の気持ちを見せられるように頑張りたい」
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