8位フィニッシュのWEリーグ4季目 苦難の中でも繋いだ“オレンジの命脈”

女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」で4シーズン目を戦い、12チーム中8位で終えたAC長野パルセイロ・レディース。昨季の11位と比べれば前進できたものの、まだまだ上位との差は小さくない。節目の5シーズン目に向けて、上位進出のために必要な要素は何か――。今季の戦いぶりを振り返りながら検証していく。
文:田中 紘夢
ウインターブレイクの調整不足
後半戦開幕から低調なスタート
就任2シーズン目を迎えた廣瀬龍監督のもと、攻守にインテンシティ全開のスタイルを継続。ハイプレスからのカウンターが最大の武器で、自陣での守備も粘り強さが光る。

前半戦は4勝2分5敗の8位で折り返したが、敗れた5試合のうち4試合は1点差。上位相手にも食らいつき、廣瀬監督は「選手たちは何かしらの手応えを得ていると思う」と話していた。
このまま強度と精度をブラッシュアップし、勝負の後半戦に向かいたいところ――。そんな意図で約3カ月のウインターブレイクを過ごしたが、思うように調整が進まなかった。

1カ月強のオフを経て、1月27日に全体練習を再開。2月上旬には静岡県御前崎市で2泊3日のミニキャンプを張った。ここまでは滞りなく調整が進んだが、問題が起きたのはその後だ。
「長野に戻ってきて、雪かきをしながら20mコートで練習しなければいけなくなった。まさかここまでの状況になるとは考えていなかったので、始動を1週間早めていれば、順調に調整できたかもしれない」
廣瀬監督が言うように、今季は寒波が長く居座った影響で、積雪の影響を大いに受けた。

十分なトレーニング強度を確保できなければ、新卒選手たちの合流も遅れる。全員がそろったのは3月1日で、再開戦の前日だった。
調整不足のまま開幕を迎え、5試合で1分4敗と低調なスタート。キャプテンのMF伊藤めぐみをはじめ、毎試合のようにケガ人も出てしまった。

戦術がハマらず“原点回帰”
若手の台頭もあって復調
調整不足だけでなく、戦術的な要因もあった。
前半戦から4-2-3-1あるいは4-3-3の基本形は変わらないが、新たにサイドハーフがワイドレーンの高い位置に張る形を採用した。

それによって中盤にスペースを作り、ダブルボランチや内側に絞ったサイドバックが有効活用しながら、高い位置で待つサイドハーフに運んでいくのが狙いだった。
ただ、実際にはビルドアップが停滞し、サイドハーフにボールが入ることさえ少ない。その間、選手たちが口にしていたのは「距離感」という課題だ。
例えば第14節のノジマステラ神奈川相模原戦。4-3-3の布陣を敷く中で、ウイングもシャドーも高い位置を取るあまり、アンカーの三谷沙也加は「ビルドアップしたくても前線との距離が遠い。相手も構えて跳ね返すだけという感じになっていた」と明かす。

そのN相模原戦から2試合連続で0-3と大敗すると、続く第16節のサンフレッチェ広島レジーナ戦でテコ入れ。サイドハーフが内側を取ってビルドアップに関与し、サイドバックが外側で高い位置を取る形に変えた。
「前期もそうしていたけど、そっちのほうが崩しやすさはあった」とDF安倍乃花は振り返る。スピードを生かした攻撃参加と、171cmの長身を生かしたキック力が武器の右サイドバック。その特徴を披露する。

第18節の三菱重工浦和レッズレディース戦から、4試合で3アシスト。攻撃となれば右肩上がりにサイドを駆け抜け、味方が合わせるだけの素早いクロスを送り込む。チームとしてもクロスに重点を置き、入り方も含めて共通認識が高まった。

後半戦スタートから5試合はわずか2得点にとどまったが、その後の6試合で8得点。安倍と同じく21歳のFW川船暁海も、チーム最多の7ゴールと牽引した。大卒ルーキーのGK清水美紅を含め、ケガ人が多い中でも若手が台頭を示したのは大きい。
結果に左右されない雰囲気づくり
中心を担った“大宮3人衆”の貢献
前半戦の4勝2分5敗に対し、後半戦は2勝2分7敗。勝率は「0.36」から「0.18」に落ち込んだ。昨季もウインターブレイク明けから勝てない時期が続いただけに、今季も同じ轍を踏んだと言わざるを得ない。
降雪地という環境も踏まえ、クラブとしていかに対策を講じられるか。「人工芝でもなんでもいいので、選手たちにはフルピッチでできる環境を作ってあげたい」と廣瀬監督は吐露する。

ただ、昨季と変わった面もある。
シーズンを通してチームの雰囲気が崩れなかったことだ。
キャプテンの伊藤はこう話す。
「昨シーズンは勝てない時期が続いて、チームとして必要な団結力も欠けてしまった部分はあった。でも、今シーズンはそれが一切なくて、出ている選手も出ていない選手も一生懸命取り組んでいた」

その背景には、“精神的支柱”の存在があった。
23歳の若きキャプテンとともにチームを牽引したのは、最年長のDF坂井優紀。大宮アルディージャVENTUSから加わった36歳は、後半戦で主力の座を奪われながらも、練習からチームを鼓舞し続けた。
「普通だったら中堅の選手が上と下を繋げる役割もできる中で、上の選手が下も真ん中も繋げてくれた。最年長として、自分ができないところまでみんなを引っ張ってくれた」

最古参7シーズン目の30歳・三谷沙也加は、同じベテランとして坂井に敬意を払う。
坂井だけではない。同じく大宮Vから加わったMF源間葉月とMF村上真帆も、中堅としてチームを支え続けた。
「ズバッと言うところと、天然なところと…。同じボランチをやっている中ではライバルでもあり、いろいろと意見を交わせる仲だった。メンバーに入れなくても前向きに、ひたむきに盛り上げ続けてくれた」

大宮Vに所属していた彼女らは鮫島彩、阪口夢穂らワールドカップ優勝戦士たちとも苦楽をともにしてきた。今季は出場機会こそ限られたものの、その経験を長野に還元した。
坂井と源間は1年で契約満了となったが、「大宮から3人が来てくれて変わった」という声もあるように、功績は大きい。
「もっと言い合うのが大事」
上位進出に向けて一層の厳しさを
戦術面で言えば、終盤戦にかけて攻撃の距離感は改善できた。ただ、このチームはあくまで守備から主導権を握るのがスタイル。ハイプレスをいかに機能させるかが生命線だ。
「勝てたゲームは前線からのプレスがある程度できていて、そういう形の中で得点も取れた。安定したプレスを継続しながら、行くときと行かないときを分けられれば、もう一つよくなると思う」

そう指揮官が言えば、海外移籍による退団が決まった岡本祐花も「ハイプレスがハマれば良い攻撃にも繋がる。そこはパルセイロの強みとしてもっと出してほしい」と願う。
相手がハイプレスを無効化してくる中でも、試合中に修正してボールを奪いにかかれるか。柔軟な戦い方も求められる。

格上のチームが多いWEリーグだけに、ある程度は押し込まれることも想定せざるを得ない。今季はリーグ2番目に多い40失点。この数字を減らすためには、戦術面はもちろん、練習から厳しく要求し合うことも必要だ。
「みんながもっと意見を言い合うのは大事だと思う。それを行動で見せられたかは分からないけど…」。坂井は「もっと伝えたかった」と打ち明けつつ、上位を目指すための“カギ”を置いて去った。

チームはWEリーグ参入から4シーズンが経った。小笠原唯志監督、田代久美子監督、廣瀬龍監督とバトンを繋いできた中で、ハイプレスからのカウンターというベースは脈々と受け継がれている。
そのベースをもとに技術や戦術を上塗りしつつ、同じ方向を向いて高め合えるか。節目の5シーズン目、来季こそは上位進出を遂げたい。

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