【信州ダービー直前企画】重みを知る小川大貴 かつての後輩を前に「結果が全て」

松本山雅FCは2025年7月19日、アウェイ・長野UスタジアムでAC長野パルセイロとの“信州ダービー”を迎える。負けられない戦いに向けて、闘志をむき出しにするのはDF小川大貴だ。今季ジュビロ磐田から加わった33歳は、清水エスパルスとの「静岡ダービー」を幾度となく経験してきた。サックスブルーから緑に衣替えをしても、特別な一戦に懸ける思いは揺るがない。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
サックスブルーの磐田で育ち
オレンジを徹底的に遠ざける生活
“その色”を避ける。徹底的に。
もはやDNAに刻まれてさえいるかのようでもある。
松本山雅FCのDF小川大貴。
静岡県富士市に生まれ、中学生年代のジュニアユースからジュビロ磐田でプレーした。つまり、オレンジ色の清水エスパルスは「静岡ダービー」の相手だった。

「僕はもう生粋のサックスブルーに血が染まっていた選手」。幼少期がちょうど、黄金時代の終盤と重なる。幼稚園の卒業文集には「ジュビロ磐田の選手になる」と書いた。
磐田U-18と明大を経て2014年、念願のトップチーム選手となった。
2016年、第1子が生まれた。
ニューボーンフォトを撮るべく並べられた花々の中から、きっちりオレンジ色を取り除いた。
後年、車を新調した。
ブレーキキャリパーを替えようとしたが、ラインナップがオレンジしかなく断念した。

それくらい徹底して、身の回りから遠ざけてきた小川。そのスタンスは、松本山雅でもそのまま続けることができる。ホームと県選手権決勝の長野戦を通じ、その熱量と意味合いを肌で痛感してもきた。
「僕も静岡ダービーを何度も経験してきたけれど、信州ダービーもすごくサポーターの方々の熱量が高い。本当に負けられないんだなとこの2試合で僕も感じることができた」

「信州ダービー用のチャントがあるのにすごく驚いた。本当に自分たちの誇りをかける、まさしくダービーだなと。だからこそ、ダービーに関して言えば内容どうこうよりも結果が全て」
そう語る口ぶりは、自然と熱を帯びる。
KINGDOM パートナー
どんな逆境でも自らにベクトル
チームの潤滑油としても機能
右サイドで、クレバーに振る舞う。決してマイナスの発信をせず、とことん自分に矢印を向ける。
例えば第10節・栃木シティ戦。0-1で敗れてジャッジに口を尖らせる選手が多い中、ミックスゾーンで取材に応じた小川はただ一人のみ込んだ。深呼吸して一呼吸置いてから、言葉を紡いだ。

「言いたいことはいろいろあるけれど、そう、力不足。僕たちの。技術的なところ、メンタル的なところも含めて修正していくのみ」
「ジャッジに不満を抱いている選手もいたけれど、変えられないところにエネルギーを使うのではなく、自分たちが変えられるところにベクトルを向けるべき。失点を防ごうと思えば防げたわけだから、矢印を自分に向けて反省していきたい」

アンテナを高く張り巡らせ、プレーでも言葉でもチームに活力を与える存在。信州ダービーを前にした7月16日のトレーニングでも、微妙な変化を敏感に感じ取っていた。
「ミスが出る中で誰か他人のせいにしたり受け手のせいにしたり…というのが垣間見えるシーンは多々ある。まだまだストレスが溜まってきたときにベクトルを他人に向けてしまっていて、個々の成長がまだまだ必要だと改めて思った」

それは「緩さ」に対して指摘するスタンスとも両立する。自分にベクトルを向けることと、指摘せずなれ合うのとは違う。
「自分にベクトルを向けるのは個の問題であって、厳しくするところはチームの問題。そこをみんなが切り離して、割り切って考えるようになればすごくいい」
こうしたパーソナリティで、唯一無二の潤滑油にもなっている。
後輩・藤川との再会も楽しみに
「何がなんでも勝つ」と決意示す
そして迎える信州ダービー。今回は磐田時代の後輩・藤川虎太朗とピッチ上で再会する可能性もある。2017〜21年途中、23〜24年途中と足掛け6年間ともにサックスブルーの血を分けた後輩だ。
その名を挙げて水を向けると、苦笑交じりに振り返った。

「虎太朗のプロ1年目から見てきたけど、最初はボールを受けたらやみくもに全部ターンして全部取られていた。呆れるくらいみんなが指摘していた」
ただし、すぐにフォローすることを忘れない。
「彼の中でもトライをし続けて、狭いエリアでもターンしてシュートを打てる技術が身についたのかなとは思う。すごく我慢の期間だったけど、あれがあったからこその今なのかな」

「走れて戦えて、苦しくなった時に頼れる後輩だったのをすごく覚えている。 あとは大事なところで点を決めてくれるイメージもすごくあった」
――美談にするつもりはないけれど。
最後にそう付け加え、もう一度苦笑いした。

再会の舞台となるであろう7月19日の長野Uスタジアムも、決して「美しい」場ではない。体面をかなぐり捨て、泥にまみれながら、ただ勝利だけを希求する90分間となる。
ダービーを知り、オレンジを遠ざける小川。チームの潤滑油となり、勝ち方を知る存在でもある。
「何がなんでも勝たなければいけない」
短い言葉に決意を込め、決戦の舞台に向かう。