小中学生5,000人を無料招待 “ピュア・ブースト”が揺り起こす初心
子どもたちの裏表ないリアクションが勝利を呼び、そして初心を思い起こさせた。2024年11月26日、バンビシャス奈良との第2戦。信州ブレイブウォリアーズは「KIDS DREAM DAY」と題して長野市内の小中学生約5,000人を無料招待した。試合も82-63で快勝。プロスポーツが地元に存在する意義が改めて浮き彫りになる、「非日常」のアリーナ空間だった。
文:芋川 史貴/編集:大枝 令
まっすぐで純粋な応援で後押し
期待に応えてバウンスバック
そこはあたかもライブ会場だった。
選手入場の時には黄色のペンライトが普段よりも大きく揺れる。アップの“ダンク祭り”では大歓声が巻き起こる。タオル回しは「これでもか」というほど豪快に。
試合前、子どもたちに話を聞いた。
大興奮の口ぶりで「すごく楽しみ」「タオル回しとか会場の雰囲気が最高」。もちろんバスケットとは別の競技に取り組んでいる子どもたちも多く、「サッカーを見に行きたかった」という素直な声もあった。それでも「見るのが楽しみ」と、これから始まる新しい体験に心を躍らせていた。
KEYWORD
KIDS DREAM DAY 長野市内の小中学生を平日デーゲームに無料招待する企画。プロバスケットボールの観戦と選手との交流などを体験することで、将来につながる考え方や生き方につながる場を提供する。クラブとパートナー協賛企業、長野市が連携して実施。課外授業の一環として位置付けており、今回は小学校25校、中学校5校の約5,000人を無料招待した。Bリーグの規約だと平日開催は18時以降とされているが、趣旨の賛同を得て2023-24シーズンに初めて実現。今季第2回は25年2月18日(火)の山形ワイヴァンズ戦を予定している。
11月26日、バンビシャス奈良との第2戦。25日の第1戦は第1クォーター(Q)で11-25と出鼻をくじかれ、後半に一時は逆転したものの66-68で敗れていた。4戦連続で第1戦を落とした信州。第2戦ではブースターのため、そして会場に訪れた約5,000人の子どもたちのためにも、バウンスバックをする必要があった。
13時5分、試合開始。子どたちの応援を受けながら、選手たちは第1戦よりも高いエネルギーでプレーを遂行する。会場の雰囲気はいつもとは一味違う。一つひとつのプレーに、子どもたちは素直な反応を見せる。良いプレーには歓声があがり、失点には大きなため息が溢れる。
フリースローもリアクションが違う。普段であれば相手のフリースローの時にはブーイングを起こし、味方の時は静かに見つめるブースターだが、この日は味方のフリースローでも大きな声で「頑張れー!」などの声が響いていた。
「子供たちは純粋にバスケを楽しんでくれる。僕らはそれを見せるのも大事だし、今日来てくれた大人の方たちも含めた5,500人ほどの中から、『ウォリアーズでプレーしたい』という選手が出てくることを僕たちも目指している」
キャプテンの石川海斗はそう話す。代表活動を終えてチームに合流した渡邉飛勇は試合には出場しなかったが「エネルギーがすごく高かった。本当に素晴らしかった」と笑顔を見せた。
子どもたちの声援を受け、序盤以降はリードを譲らず82-63で白星。その勝利の瞬間も、大一番の試合で勝ったかのような歓声がホワイトリングを包み込んだ。
”本物”を見せることの大切さ
「刺激になってもらえれば」
「初めて観たプロの試合を覚えているか」
この第2戦を前に、勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)が選手たちに投げかけた言葉だ。子どもたちにとっては、アリーナは非日常の空間。そこで見せるパフォーマンスは記憶に残る。大事な試合だ。
「みんなそれぞれ、初めての試合を覚えている。それがどのような影響を自分たちに与えたのかも」
この日、持ち前のディフェンスに加えて10得点を挙げるなど活躍した生原秀将。徳島県で生まれ育った30歳も、当時の体験は忘れていない。
「自分が子どもの頃を思い出すと、地元は当時プロチームがない地域。大阪だったり関西の方に行かないと本物を見られない環境で育った。県外の人たちとのギャップだったり悔しさだったり、そういう劣等感みたいなものがあった」
「その意味ではこうして長野市内の小中学生の皆さんにプロスポーツを、第一線でやっているものを見ていただいた。バスケットじゃなくてもいいし、何か刺激を感じてもらえればすごくうれしい。それが今日のような試合の一番の意味になる」
試合後、子どもたちに感想を聞くと「楽しかった」「初めて観にきたけどまた見に行きたい」といった声であふれていた。
初めて観たプロの試合を、皆さんも覚えているだろうか。会場の周辺からあふれる祝祭的な雰囲気。コンコースからアリーナに入る時の高揚感。そして選手たちのパフォーマンス。胸を躍らせた瞬間が、おそらくはあったはずだ。
バスケットボールはシーズンで60試合を戦う。長く観戦を続ければ続けるほど、良くも悪くも「非日常」が「日常」に溶けていく。例えばダンク一つに対しても、初めて見たかのような歓声はあげられなくなってくる。
しかし今回のKIDS DREAM DAYで改めて、遠き日の引き出しにしまわれた「初心」を揺り動かされた人も多いのではないだろうか。身近で「本物」を観られることの意義も、それを示すことの大切さも。ピュアなリアクションは、そうした全てを思い起こさせてくれる。
次回の試合は11月30日と12月1日、再びホームで神戸ストークスを迎える。昨季まで信州に所属していた山本楓己が在籍するチーム。初めてを体験して「もう一度観たい」と思ってもらうにはやはり、戦う姿勢を示して結果を出すことが重要でもあるだろう。
思い出した「初心」を胸に、まずは鬼門の第1戦を突破したい。
Bリーグ チーム紹介ページ
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