長野がオレンジに染まった7.19 進昂平&大野佑哉のヒーロー2人にまつわる秘話

AC長野パルセイロは2025年7月19日、J3リーグ第21節でホームに松本山雅FCを迎えて1-0。長野Uスタジアムにつどった観衆10,677人の前で“ダービー”を制した。街の誇りを懸けて戦った獅子たちの獰猛なプレーの一つ一つが、百獣の王の名にふさわしいものだった。試合を決めた2人のヒーロー・FW進昂平とDF大野佑哉にフォーカスしながら熱戦を振り返る。
文:田中 紘夢
KINGDOM パートナー
幾多の困難を乗り越えた進昂平
完全復活を印象付ける鮮烈ヘッド
誰もがヒーローの出現を待ち望んでいた中で、FW進昂平がその責務を果たした。
3試合連続の無得点で迎えたダービー、開始早々の5分。右サイドの安藤一哉がドリブルで仕掛けると、進がゴール前で相手と駆け引きしながらクロスを待つ。絶妙な左足のキックを頭で仕留め、これが決勝点となった。

「チームのみんなに迷惑をかけて悔しい思いをしてきた。こうしてゴールを決めることができて本当によかった」
前節。3年間在籍したザスパ群馬に0-0と引き分けたが、自らヒーローになるチャンスを手放してしまった。自身が獲得したPKを味方に譲り、結果的に失敗。「俺の責任」と背負い込んで古巣を後にした。

藤本主税監督からは「9番(ストライカー)がボールを渡すな」と叱りも受けた。ミックスゾーンでの表情は悲壮感が漂い、「責任」という2文字を何度も口にする。
守備が2試合連続の無失点と奮闘していただけに、なおさら重責がのしかかった。
ただ、そこで膝を折る男ではない。

長野に加入してから2年間は、ケガとの戦いの連続。初年度のダービーでは涙の負傷交代もあった。3年目の今季もプレシーズンから別メニュー調整で出遅れ、ここまで1ゴールにとどまっていた。
6月4日には30歳の誕生日を迎え、ベテランと呼ばれる領域に。パーソナルトレーニングやピラティスで身体をメンテナンスし、遺伝子検査の結果に基づいて食事も改善してきた。

「データを見ても、長野に入ってきて1年目のケガをする前に近づいてきている」
幾多の困難を乗り越え、ダービーという大舞台で値千金の決勝点。得点後には感情を爆発させ、胸のエンブレムを2度叩いた。

「彼がどれだけの責任を背負っているか。9番の選手たちは点を取ることが仕事だと自負している中で、それを背負いながらプレーしてくれた」
指揮官の叱咤にも応え、9番としての責務を全う。完全復活に向けた大きな一歩を踏みしめた。

KINGDOM パートナー
前回の悔しさを晴らした大野佑哉
クリーンシートで古巣を打ち砕く
「進くんがネットを揺らしてくれたので、骨が折れてでも無失点で終わろうという気持ちで守り切った」
ディフェンスリーダーを担う28歳のDF大野佑哉。松本から長野への“禁断の移籍”から3年、今季はゲームキャプテンという重責を託された。

5月には敵地でのダービー2連戦があった。大野は“前哨戦”とも言える天皇杯県予選決勝にフル出場も、“本番”のリーグ戦ではベンチスタートで出番なし。ケガから復帰して間もなかったとはいえ、悔しさがこみ上げた。
試合後にはロッカールームで物を床に叩きつけたようだ。ゲームキャプテンとしてあるまじき行為に対し、チーム最年長の加藤弘堅から叱咤も。メンタルコントロールは松本時代からの課題だが、ダービーという一戦に懸ける思いの表れでもある。

あれから定位置を奪い返し、結果で存在を証明してきた。先発復帰後の8試合のうち、5試合で無失点。前節も終盤に絶体絶命のカウンターを阻止し、スコアレスドローに持ち込んだ。
盤石の守備を築き、いざホームでのダービーへ。前回対戦で欠場した悔しさを糧に、「楽しんで勝ちたい」と意気込んでいた。

松本U-18出身のFW田中想来と対峙。大野が同僚だった際、田中はまだ高校3年生だった。20歳となった今季はここまでチーム最多の9ゴールを挙げており、それを親のような気持ちで見守ってきたという。
だからこそ、負けるわけにはいかなかった。

自慢の快足を飛ばしてラインブレイクを許さず、エースのシュートを1本に抑える。チームとしても進昂平のゴールを守り抜き、3試合連続の無失点。大野は試合後に満面の笑みを浮かべ、藤本監督や進と抱擁を交わした。

ゲームキャプテンという肩書きも、ディフェンスリーダーという二つ名も、松本山雅のサポーターには「似合わない」と一笑に伏されるかもしれない。しかし、長野にとっては誇り高きキャプテンだ。
4年間在籍した古巣に成長ぶりを示し、「この勝利をきっかけにビッグウェーブに乗っていきたい」と声を弾ませた。
ダービーで体現したインテグラル
“KING of 長野”の称号を手中に
チームとしても勝ち点3以上の価値がある。スコアレスドローが2試合続いた中で、分水嶺となり得た一戦。4試合ぶりのゴールを決め、3試合連続の無失点で1-0と勝利した。

「本当に一皮むけた感じはある。(前々節)FC大阪戦、(前節)群馬戦と同じように、セカンドボールに対しての反応もそうだし、もう一回自分たちの攻撃に持っていけるところが増えてきた」

球際やセカンドボールの争いなど、藤本監督が強調してきたインテグラル(必要不可欠)な要素を体現。戦術うんぬん以前に気持ちで上回り、前半からゲームを掌握した。今季ホームゲーム最多となる10,677人の観衆を前に、獅子たるゆえんを見せつけた。

「2引き分けから来た勝ち点3はすごく大きい。自分たちのやっていること、やってきたことが『よし』と思える。今日は本当に良い勝ちっぷりで勝てたので、とにかく続けること。それをしっかりサポーターに見せていければ、もっと高みに行けると思っている」

かつて掲げられていた“One Team”を確立し、“One Soul”を打ち砕いた。
“KING Of 長野”の称号を手中に収め、威風堂々とオレンジの街を往く。

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