リーグ6位の入場者数をマーク 若き“集客グループ”のチャレンジ
「4,158人」。今年のAC長野パルセイロが記録した、J3リーグのホームゲーム平均入場者数だ。これは過去7年で最多となり、2017年以来となる4,000人超。チームとしては目標とするJ2昇格に届かなかったものの、クラブとしては集客目標数値4,000人を達成した。その裏側にはどのような努力があったのか――。新入社員3人が所属する「集客グループ」を取材し、取り組みなどをたずねた。
文:田中 紘夢
過去最多となるシーズン45試合
平均25歳「集客グループ」が奮闘
「最初は右も左も分からない中で、大変さもあった」
レディースチーム運営担当の堀尾柾行さんは、そう今季を振り返る。
堀尾さんが属する「集客グループ」は、平均年齢25歳。トップチーム運営担当の荒木亮輔さん、集客/チケット担当の鐙(あぶみ)翔星さんを含め、3人とも新入社員だ。
今季はJ3クラブにもルヴァンカップへの参加権が付与され、アウェイも含めて過去最多となる45試合をこなした。
前半戦はルヴァンカップやゴールデンウィークの影響によって、連戦が多々あった。Jリーグと連携して大型招待企画を打ち、集客に注力する。
ゴールデンウィークのJ3リーグ第12節・FC岐阜戦では4,423人が来場。ルヴァンカップ3回戦の北海道コンサドーレ北海道戦では、水曜夜にもかかわらず4,800人が集う。チームとしてもリーグ戦で一時は4位につけるなど、結果も後押しして順調に進んだ。
後半戦も招待企画を継続しつつ、若手社員たちがアイデアを練る。これまでになかったイベントを催し、新規層の開拓に尽力。「試合を楽しんでいただくことはもちろん、試合前から楽しんでいただきたい思いがあった」と鐙さんは言う。チームが残留争いに巻き込まれる中でも、集客に大きな影響は及ばせなかった。
リーグ戦のホーム19試合で総入場者数は79,010人。2015年の94,665人(20試合)に次ぐ数字だ。16年は平均入場者数が5,018人と過去最多だが、ホームゲーム数が15試合のため総入場者数にすると75,274人だった。
今季の平均入場者数は4,158人。昨季の3,528人を大幅に超え、過去7年で最多となった。
「今までやらなかったことを」
ダービーに次ぐ7,010人の裏側
とりわけ集客に注力した3試合がある。第25節の大宮アルディージャ戦、第31節の松本山雅FC戦、そして第36節のヴァンラーレ八戸戦だ。
大宮と松本は近隣にあるチームで、なおかつサポーターの数も多い。アウェイチームの集客が見込めるわけだ。
それに加えてイベントも実施。大宮戦は「夏のオレンジ祭」と題し、夏祭りさながらの縁日を用意する。松本戦ではベースボールシャツを先着8,000人に配布した。前者は6,430人、後者は11,965人と、多くの観客が集った。
一方、八戸戦はアウェイサポーターの集客が見込めない。「6,000人から7,000人くらいは長野のサポーターで埋める必要があった」と鐙さん。長野市ホームタウンデーと題し、同市在住の2,000人を無料招待する。
それでも集客目標には遠い中で、さらなるアイデアが求められた。
「今までパルセイロでやってこなかったことをやろう」
集客グループで話し合い、自分たちと同じ「若者」をターゲットに据える。
先着8,000人にホッケーシャツを配布し、シンガーソングライターChayの出演も決まった。堀尾さんからすれば「あとはそれをどう膨らませるか」。そこで参考にしたのは、自らの地元にあるガンバ大阪だった。
同クラブは年に1回、「GAMBA SONIC」と題したイベントを開催。サッカーと音楽を融合した“フェス”のようなもので、今年は小柳ゆきが出演した。
それにインスピレーションを受け、「パルセイロフェス」と銘打つ。佐久長聖高校から誕生したアイドルグループ「7限目のフルール」をはじめ、地元のアーティストやパフォーマーを招へい。キービジュアルにはスタジアムの外観を用い、「今まで来たことがない方でもピンと来るようにした」。
さまざまな施策を打ち出した結果、松本との信州ダービーに次ぐ7,010人が集った。パルセイロフェスを発案した堀尾さんは「これを恒例にしていくことも考えられる。今年の反省点を踏まえて、より良いものにしていきたい」と先を見据えた。
「ソフト」と「ハード」を整備し
ポテンシャルを最大化できるか
「期待以上の結果を示せたと思う」
堀尾さんが好感触を口にする一方、チャレンジしたことによって課題も見つかった。
若者をターゲットに据えたパルセイロフェスだったが、「統計を見ると普段の入場者層とあまり変わらなかった」と鐙さん。新規層を獲得するためにも、「よりターゲットに合った施策が必要だと思う」と話す。
さらに荒木さんは「入場者数は伸びたけど、入場把握率はまだまだ取り切れていない」と付け加える。男女比や年齢層を把握すべく、招待時にはJリーグIDの取得をマストとしているが、それがユーザーのハードルとなる側面もあった。
JリーグIDを活用すれば客層把握のほか、メールマガジンの配信も可能となる。試合告知や新たな招待企画の周知に繋がる上、メールの開封率は約7割にも及ぶという。リピーター獲得にはうってつけのツール。来季以降も招待企画を継続しつつ、登録者数を増やしていきたいところだ。
ソフト面の充実に加え、ハード面も強化しなければならない。「試合に無料招待したとしても、駐車場が空いていなくて帰ってしまう方もいた」と堀尾さん。駐車場確保を含めたアクセスの拡充は容易ではないが、「県内の他クラブを見ても、まだまだできることはあると思う」。新規層に優しい環境づくりを進めていきたい。
今後に向けて、さまざまな種も蒔いた。
ベースボールシャツ、ホッケーシャツを短期間で配布。前者は夏に適した薄手の半袖で、後者は冬に適した厚手の長袖だ。観戦時のマストアイテムとして、年間を通して重宝されるだろう。また、今季は企画が後半戦に固まってしまう側面もあったが、来季はより計画性を持って進められるはずだ。
チームとしてはリーグ18位に終わったが、クラブとしては6位の入場者数。勝率と入場者数が必ずしも相関しないことは示せた。あとは今季蒔いた種を、いかに入場料収入に繋げていくか。試合数の増加によって収入は増えたものの、まだまだ信州ダービーが頼みの綱である側面も否めない。
長野が持つポテンシャルを最大化し、南長野に集う仲間を増やし、より地域に根差したクラブとなれるか――。若手社員たちのチャレンジは続く。