譲れない文武両道のプライド “青備えの六文銭集団”上田が「百難に試みる」

青きイレブンがピッチで躍動した。東信地方屈指の公立進学校・上田。全国高校サッカー選手権県大会4回戦で長野吉田を2-0と破り、2018年以来7年ぶりのベスト8に到達した。3年生12人は受験勉強と両立しながらサッカーに打ち込んで準々決勝へ。扉をこじ開けた一戦を振り返りつつ、「文武両道」を追求する彼らの“日常”をたずねた。
文:大枝 令
KINGDOM パートナー
県総体準優勝・長野吉田との一戦
2-0の会心ゲームで7年ぶりの8強
盤石の展開で、試合終了のホイッスルを迎えた。
2025年10月18日、筑北村サッカー場。上田は2点を先行し、長野吉田をシュート5本の無得点に封じた。
「自分たちでめげずにいろんなことにトライしてくれて、今日もタフに戦ってくれた。彼らは本当に成長したと思う」。清水友輔監督は、選手の頑張りを手放しで称えた。

もどかしい展開にも焦れず、自分たちの力で扉をこじ開けた。序盤からほぼ一方的に攻め立てるものの、あと一歩のところでゴールを破れない。長野吉田のGK川手康輔が好セーブを連発していた。
「一回乗っちゃうと、その日は全部止める――みたいな感じだった」と明かすのは、上田のキャプテン鷹野珀。自身も前線で存在感を示していたものの、守護神に阻まれていた。

膠着しそうなゲームを動かしたのは、前半終了間際だった。38分、左サイドからのFK。MF日置光河が入れたボールをDF丸山浩平が折り返すと、DF吾妻銀平が右足で豪快に蹴り込んだ。
「攻めていても取れないと逆に相手に流れが行ってしまう。ちょうど点が欲しいところで取れて、先制したまま前半を終われたのは大きかった」。殊勲の180cmは白い歯を見せる。

長野吉田は県総体準優勝メンバーの3年生がほとんど引退。唯一残ったMF横川真翔が気を吐こうとするものの、上田が素早く寄せて前を向かせない。局面の1対1に加え、コンパクトフィールドの勝負でも優位に立っていた。

その流れで後半も上田が主導権を握る。75分、MF西岡麟太朗の右クロスに合わせたMF田原翼が貴重な追加点。大外からファーサイドに走り込み、両足がつりながらも飛び込んだ。
「上げてくれると信じて走り込んでいった。跳んだ時につったけど、そのまま決めた」。この一撃で勝利が大きく近付く。そして試合終了を迎え、青色の歓喜がピッチに充満した。

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「文武両道」実現のための工夫
それぞれが凝らして3年生が躍動
打ち破った相手が長野吉田だったことも、上田にとっては大きかった。ともに県内有数の進学校。5〜6月の県総体で決勝まで進んだ長野吉田に対し、上田の選手たちは当時から心中穏やかではなかった。
「公立で文武両道と言えば上田が長野県で一番になりたい。負けたくなかった。それは新チームが発足した時からみんなで言っていた」。鷹野キャプテンはそう明かす。

文武両道――。
それは上田がこだわるアイデンティティの一つだ。
3年生は基本的に、総体を終えても選手権まで現役を続行する。今季も15人中12人が残り、受験勉強と両立しながらスタイルを磨いてきた。

その実現には、限られた時間を徹底的に有効活用する姿勢が不可欠だ。練習は1時間半。グループ分けを工夫するなどしてレストの時間を短くするなど、トレーニングメニューは効率を追求する。
選手たちも雑念を排して打ち込み、終わればすぐモードチェンジ。鷹野キャプテンは「一番は切り替えだと思っている。グラウンドではサッカーだけだけれど、練習が終わった後にダラダラする時間をみんなで少なくしたりしている」と言う。

「スキマ時間を大切にしている。『やる気が出たからやる』ではなく、『やるからやる気が出る』という思考にしている。ペンを持って座ればどうせできるから、やる気の有無は関係ない」
ハキハキとした口調でそう話すのは田原。一方で吾妻は「(勉強とサッカーの)どちらかをおろそかにすると、もう片方もおろそかになってしまう気がしている。勉強を頑張ることで自分に負けない心も育つと思うし、それはサッカーにも影響する」と口にする。

両立するための工夫は十人十色。しかしいずれにせよ、それぞれのスタンスで24時間をデザインしながら文武を突き詰めている。
そうした選手たちの姿勢に対し、OBでもある清水監督は「高校でしかできない経験をさせたい。彼らの目標は全国だけれど、こういう良い活動を通じて、人としても成長してもらいたい」と目を細める。

目指すは37年ぶりの選手権出場
「至剛の誇」胸に百難に試みる
8強入りを果たしはしたが、目指すのは1988年以来37年ぶりの優勝。「まだまだ先を目指しているので、気持ちを切らさないようにやっていきたい」と田原が力を込めるように、上田にとっては通過点にすぎない。

「自分たちが選手権(県大会)で優勝したら、文武両道で頑張っている他の人たちを勇気づけることができると思う。その意味でも、自分たちが勝つことに意味がある」と鷹野キャプテン。自身は南佐久郡小海町から2時間弱かけて通学しており、その時間も有効活用しているという。

もちろん文武両道を可能な限り突き詰めはするが、その先に「願掛け」もある。鷹野キャプテンが手にするのは、「勝」と書かれた絵馬。上田城跡に鎮座する眞田神社のものだ。
上田城は戦国時代、2度にわたって徳川の大軍を退けた不落城とされる。4回戦の上田はその堅牢ささながらのコンパクトな守備を披露。攻めても鷹野と金井仁汰の2トップを軸に、真田幸村が得意とした槍のような鋭さも示した。

準々決勝の相手は、元日本代表DF田中隼磨氏の子息・鈴磨を擁して初優勝を狙う松本第一だ。「我に至剛の誇あり、いざ百難に試みむ」。校歌の結びにも歌われる気概を胸に、“青備え”のイレブンが立ち向かう。
