持ち味の声はコート内で発す “ど根性リベロ”古藤宏規が臨む勝負のシーズン

VC長野トライデンツに入団して3年目を迎えるリベロ(L)古藤宏規。昨季まで絶対的な守護神として君臨していたL備一真の後を継ぎ、先発の座を目指す今シーズン。今まで大事にしてきた「感覚」に加えて「思考」を融合させるなど、進化を期している。これまではコート外からの声で貢献してきた25歳。今季はコート内で輝きを放つために、虎視眈々と牙を研ぐ。

文:大枝 史 /編集:大枝 令

コート外で終わった昨シーズン
リベロ備一真から学んだ3年間

「やる。とことんやってやる。その気持ちしかない」

古藤は力強く言い切った。VC長野に入団して3年目。内定シーズンを含めると4シーズン目となる中で、受けたサーブレシーブ数はわずかに8本。

リベロとして試合に出るには、備一真が高い壁として存在していた。古藤はその中で、コート外から盛んに声を出してチームを盛り立てる役割を自任。「正直キツいっす」と明かしながら、試合中にそんなそぶりは見せなかった。

「壁は高かった。でも今シーズン僕が活躍して、『なんで古藤を使っていなかったんだ』って思わせるぐらいのプレーをしたい」

昨シーズンのLは備がチームで唯一、全44試合160セットに出場。その背中を追いながら、学び、自分の持ち味を模索してきた3年間だった。

「学ぶことは多かった。かといって『あれになれ』と言われても自分は絶対になれない。自分の良さを出しつつ(備)一真さんの良さもつかめたらいい」

トスでオーバーを積極的に使うようにしたのも変化の一つ。それに加えて、考え方も変わった。

「以前はパスを完璧に返さないといけないという気持ちが強すぎた」と振り返る。どちらかと言えばサーブレシーブよりもディグに強みを持つ古藤にとって、それは課題であると同時に重圧にもなっていた。

「自分のプレーが100%いかなくてもチームを勝たせられればいい。そういう考え方をしたら前より気持ちも楽になって、できるようになってきた」

世界バレーに出ている選手だってミスをする。自分たちもミスをする。その「当たり前」を受け入れることで、プレーに余裕が生まれた。

古田博幸コーチからは「サーブレシーブはメンタルだ」と声を掛けられる。

その言葉の意味を、古藤は実感している。

PROFILE
古藤宏規(ことう・ひろき) 2000年4月14生まれ、大阪府出身。清風高校3年時にはキャプテンとして出場した春高バレーで準優勝、ベストリベロに輝いた。中京大4年時の2022年、VC長野トラデンツの内定選手となる。2023-24シーズンに正式入団。170cm、71kg。ポジションはリベロ(L)。

「感覚」と「思考」の融合
映像で研究して成果じわり

今季は、今まで大事にしてきた感覚に思考が加わった。

「今まで感覚でやってきた部分が多かったし、今も感覚は大事にしている。でも相手一人一人を見て、昔より考えるようになった」

毎日帰宅後に映像を見て、相手の特徴を研究する。「あの選手がこう入ってきたらこう打つとか、自分の感覚プラス相手の特徴を見てやっているから、最近は結構ハマっている部分は多いと思う」

ブロックとの連係を深め、トータルディフェンスの改善にも積極的に取り組む。特にミドルブロッカー(MB)松本慶彦との関係は良好だ。

「マツさん(松本)はすごくありがたいブロックをしてくれる。『ここ止めるからここ拾って』とか、『僕ここ拾うのでそこだけは頼みます』とか。やはり上でやってきている人なので、やりやすい」

そこで得た学びを参考にしながら、他のミドルブロッカーにも積極的に声をかける。

可能な限り自分の方にボールが来るように考える。うまくいかない時もあるが、コミュニケーションを重ねることでチームのディフェンス力が上がっている感触を得ている。

大きな課題になっているのは、外国籍選手との連係。特にアウトサイドヒッター(OH)オスカーとのレセプションだ。

「いきなりボールが飛んできて、その瞬間にコミュニケーション取れと言われても難しい。どこまで自分が取るのか、その感覚がわかってなかった」

9月にオスカー選手が合流した直後は乱れた時期もあったが、オスカーから「お前がレシーブ専門なんだから」と言われたことをきっかけに、具体的な指示を出せるようになったという。

言語の壁はある。「英語を話せないからなんて伝えたらいいかわからない。『OK』と言われても本当にOKなのかと思ってしまう」と笑いながらも、試行錯誤を続けている。

一通のDMが呼んださらなる奮起
「気合」と「根性」で挑む新章

さらにモチベーションが上がる出来事もあった。古藤のもとに、ある日InstagramのDMが届いたという。

「病気を持ちながらスポーツをやっている方から『元気をもらえます』みたいなDMが来て、ウルッときた」

自身と同じネフローゼ症候群の人、違う病気を持っていて運動を制限されている人。古藤の頑張りを見て、「僕も頑張ろうと思います」というメッセージだった。

「顔も見たこともないし、しゃべったこともない。どんな人かもわからない。でも『古藤さんを見て勇気を、感動をもらえます。頑張ってください』と言われた時、生きていて良かったと思った。やっていて良かった。諦めなくて良かったと思った」

「病気で頑張っている人はいる。でも僕みたいに表に出て、頑張っている姿をいろんな人に見せて『勇気をもらえました』と言われることはあまりないと思う。そのためにも今シーズンはいっぱい見てもらって、病気でも夢を持っていればやれると思ってほしい」

気合と根性。古藤はその言葉が好きだという。今いる場所にたどり着いたのも、まさしく意志の力がもたらした賜物だ。

もうじき始まる開幕戦の相手は日鉄堺BZ。昨季ともにプレーしたOPウルリック・ダールとの対決も見込まれ、「ウルリックもスイッチが入るとすごく速いサーブを打ってくる」と警戒を強める。

加えて、今シーズンはアメリカ代表のOH/OPマシュー・アンダーソン、イタリアのOHトンマーゾ・リナルディも日鉄堺BZに加入。ワールドクラスのサーブ、スパイクと真っ向から勝負する。

ようやく巡ろうとしているチャンス。逃したくはない。

サーブもスパイクも、病気でさえも――。古藤宏規は気合と根性で受け止めてみせる。


SVリーグ第1節 日本製鉄堺ブレイザーズ戦 試合情報
https://vcnagano.jp/match/2025-2026-sv-div1-1
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461

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