日本選手権で男女制覇&ジュニア男子3位 SC軽井沢クラブを駆動させる“青き炎”

2026年6月、横浜BUNTAI。日本カーリング選手権で、SC軽井沢クラブが男女そろって頂点に立った。さらにはトップチームに交じって、ジュニア男子も3位に食い込む快挙。25-26シーズンの最大目標に据えたミラノ・コルティナ冬季五輪の切符にこそ届かなかったものの、組織そのものがカテゴリーを超えて大きく成長。なぜクラブ全体として右肩上がりの成長曲線を描けているのか――。取材を進めると、いくつかの“熱源”に行き当たった。

文:大枝 令

なお「学ぶ人」であるベテラン
41歳・山口剛史が熱を発する

1つ目の熱源は、男子のスキップ山口剛史だ。世界トップ60人が招かれて始まったプロリーグ「ロック・リーグ」にも、唯一の日本人選手として名を連ねた。押しも押されもせぬ、ワールドクラスのスキップと言えるだろう。

だが、その立ち位置にいながら、山口はひたすら「学ぶ人」であり続ける。ロック・リーグでは、冬季五輪メダリストを含むトップカーラーに臆さず技術を尋ねた。惜しみなく教えてもらい、「すごく学ぶ大会だった」と充実感をにじませる。

このほかベテランの域にありながらも、英会話の学習を本格化。カナダ人コーチとのコミュニケーションなどを円滑化させる狙いだ。「チャレンジを恐れず行くしかない」と笑う。この突破力がおそらく、クラブを力強く牽引してきたのだろう。

特筆すべきは、その謙虚さが年下にも向くことだ。

17歳差でミックスダブルス(MD)を組む上野美優が明かす。「私の意見に対して、年齢差があるからという目で受け入れない…ということが全くない」。ジュニアの声も年上の声も等しく聞き、自分に吸収していく。「まだまだ貪欲に成長しようとしているのがすごいと思う」と上野美優。その背中が、彼女自身の向上心にも点火する。

後進を指導するに際しても、山口が何より大切にするのは熱量。「最初からうまいかどうかより、一番大切にしたいのは選手の熱量。カーリングが好きで、もっとうまくなりたいという熱量」。技術よりも、熱。意欲。その価値観がブルドーザーのように未開の沃野で道をなし、クラブの土壌を耕している。

「練習しないと不安」という純度
上野美優が自然に示す“夢中力”

2つ目の熱源は、女子の上野美優だ。

カーリングへの向き合い方は、ほとんど純粋な衝動に近い。

「練習しないと不安で、落ち着かなくて、すごくたくさん練習してしまう」。ただただ、やらずにはいられない。その姿勢が、シートの予約表に刻まれていく。山口が「女子はめちゃくちゃ練習している。一日中シートを押さえている」と舌を巻くほどだ。

上野美優が見ているのは、相手ではない。

「自分たちとアイスの勝負。矢印が自分たちのチームに向く」

対戦相手の出方ではなく、目の前の氷をどれだけ早く読めるか。意識はつねに自分へ向かう。だからこそ練習は終わらない。ただ最近は「量」だけでなく「質」へと目を向け、その難しさと向き合い始めた。熱源は、燃え方そのものを進化させている。

そして上野美優は、自分が放つ熱にはどこか無自覚でもある。「クラブのチームの刺激になっているのであれば、うれしいけれど」と苦笑するばかり。誇示するのではなく、ただ夢中でいる。その「夢中」が、いつのまにか周囲を巻き込んでいく。

2つの炎を原動力に生態系を形成
若き才気にも点火して相乗効果に

2つの熱源は決して、独立して燃えているわけではない。

山口と上野が組むミックスダブルス(MD)は、17歳の差を越えて意見をぶつけ合う、「融合」の縮図。ベテランの謙虚さと、若手のひたむきさ。二つの火が重なるところから、クラブ全体へ熱が伝わっていく。

伝播は、すでに目に見える形になっている。

かつては「このぐらいでいいかな」と練習を切り上げていたエリートアカデミーの子どもたちが、今は自主トレーニングを始めるように変わった。

ジュニア男子は力をつけ、クラブ内の練習試合では女子トップチームを上回り、時には男子トップチームを負かすこともあるという。「みんな熱量がすごく伝染している。炎が大きくなっている感じがする」と山口は白い歯を見せる。

その熱を、誰よりも近くで浴びている世代がいる。今季の日本選手権でジュニア男子を3位に導いた大学1年生・藤井海斗だ。世界ジュニアのミックスダブルス選手権で金メダルを手にした実力者は「男子トップチームとは練習試合を10回もやらせてもらっている。通用するのかしないのかを、一つ一つ試せる。世界のトップに一番近いチームと練習できるのは、ものすごくありがたい」。クラブの構造が、そのまま強化のサイクルになっている。

女子からも無上の刺激を受けている。「女子チームがたくさん練習しているのを見て、ジュニアの選手たちも刺激を受けてたくさん練習するようになった。日本の中では一番の環境だと思う」。点火された若き才気は、すでに自分の力で燃え方を選び始めている。 そうした熱が、やがて競技の力に変わる。

男女がそろって日本選手権を制し、ジュニアが同じ舞台で3位に入った。「クラブの中で『1軍』『2軍』のような仕組みが、もう少ししたら作れるのかもしれない」。山口が描くのは、一つのクラブで全カテゴリーの頂点を狙う未来だ。横浜での男女同時制覇は、その宣言が絵空事ではないことを証明している。

軽井沢は、長野県の中でも特異なスポット。独特の文化が息づく避暑地であると同時に、日本のカーリングが世界とつながるゲートにもなりつつある。

近隣から、そして日本全国から、世界を志す若き才能が集結。実際に今回の日本選手権で女子のメンバーに入った17歳の川田亜依も、カーリングの門を叩くために熊本県から移り住んだ。男子トップチームの山本遵、エリートアカデミーの髙橋晄之介らも同様だ。

男女・MDともミラノ・コルティナ冬季五輪を最大の目標とした今シーズン。切符には惜しくも手が届かなかったものの、未来への確かなロードマップを描いた。カーリングへの尽きせぬ情熱を源泉とするクラブの好循環は不変。2030年のフランスへ、青き炎が道筋を照らす。


クラブ公式サイト
https://karuizawaclub-curling.com/

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