SVリーグ元年のキャプテン藤原奨太 一体感を保つ“潤滑油”に
バレーボールの大同生命SVリーグが10月11日、男子のサントリーサンバーズ大阪-大阪ブルテオンの開幕戦で新たにスタートする。男子のVC長野トライデンツは12-13日、アウェイでジェイテクトSTINGS愛知と対戦。格上に挑み続けるシーズンを戦い抜く上で、チーム内のコミュニケーターは大きなカギを握る。新リーグ元年のキャプテン・藤原奨太に、一体感を保ち続けるための気配りなどをたずねた。
文:大枝 令
長野県内にバレー人気を再び
旗手となるVC長野のキャプテン
2024年9月30日、東京都内。
SVリーグの開幕記者会見が行われた華やかな場に、VC長野の新キャプテン・藤原奨太も登壇していた。向かって右隣に宮浦健人(ジェイテクト)、左隣には柳田将洋(東京グレートベアーズ)。ともに新旧日本代表で鳴らした名プレーヤーだ。
開幕カードごとに前に出て、マイクの前で意気込みを語る。藤原も今シーズンのVC長野について紹介しながら、ジェイテクトとの開幕戦に向けた意欲を口にした。
「自分たちVC長野は選手がガラッと替わり、昨年より攻撃力と守備力が上がった自信がある」「ジェイテクトさんも穴のないチームだと思うので、自分たちがやってきたことを存分に発揮できるように頑張ります」
新生・SVリーグ。スター集団がひしめく華やかな舞台となった。
外国籍選手はFIVB世界ランキング1位・ポーランドのアレクサンデル・シリフカ(サントリー)を筆頭に、世界トップクラスの面々がずらり。日本人選手も髙橋藍(サントリー)をはじめ、パリ五輪に前後して人気が沸騰した日本代表が居並ぶ。
PROFILE
藤原 奨太(ふじわら・しょうた) 1998年7月14日生まれ、北海道出身。駿台学園中(東京)3年時に全国中学大会を制し、駿台学園高でも3年時は全日本高校選手権(春高バレー)の初優勝に貢献。インターハイ、国民体育大会(国体)と合わせた3冠も達成した。日本体育大を経て、2021-23年は旧V1の大分三好ヴァイセアドラーでプレー。23-24シーズンからVC長野に在籍し、2年目の今シーズンはキャプテンを務める。190cm、86kg。
ただでさえ、VC長野は前身のV1から黒星が続いていた。どの相手も格上となるし、憧れの対象だった選手とネットを挟んで対峙することもある。ファンの期待と応援を背に受けて、スター集団に挑む。
開幕会見を振り返って、藤原は話す。
「自分が体験したことがない数の人たちが目の前にいる中で、選手の一人として立たせてもらった。メディアの注目度も高いと感じたし、どのチームもSVリーグ初年度に対する気持ちが強かった。VC長野もそれに負けないように――と思った」
「テレビで見た選手や有名な外国人選手ばかりで、憧れていた部分もある。そういう相手とネットを挟んで戦うのは楽しみだと、(VC長野の)どの選手も言っていた。 熱い試合をして盛り上げつつ、それプラス学ぶことも増えてくると思う」
同じ選手でさえも憧れを抱くような水準のパフォーマンスが、定期的に県内で観戦できる。日本代表の人気も空前の高まりを見せる中で、追い風に乗って認知度と人気を高めたい局面。もちろん藤原もその状況は十分に理解している。
「代表選手がたくさんいるチームとホームで対戦した時に自分たちがいい試合や勝ちを見せられたら、ファンが増えると思う。バレーボールが盛り上がってきている中で、自分たちもそこに乗っかってSVリーグ、バレーボールを盛り上げていきたい」
もともとVC長野は、コロナ禍以前は比較的多くのファンが観戦に訪れていた。
旧V1に参戦していたのは2018-19から23-24までの6シーズン。このうち19-20シーズンの平均観客数は2,522人まで押し上げたが、それ以降は苦戦が続く。23-24シーズンは平均1,280人。パナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)との2試合で3,000人以上が訪れたものの、14試合中9試合は1,000人未満にとどまった。
リーグ全体では過去最多を大きく更新する40万人以上を記録。それとは対照的に、物足りない数字に終わった。
格上の相手に挑み続けるため
意見を集約・伝達する“調整役”
もちろん勝てれば、必然的にファンは増えやすい。しかし過去のシーズンに照らしても、競技としての特性を踏まえても、一気にSVリーグの勢力図を塗り替えて勝ち続けるのは至難だろう。
その中で、パフォーマンスを通じてどんな価値を提供するのか。もちろんコートの周辺やアリーナの外での満足度を高める取り組みはクラブとして手段を講じているが、価値の源泉となるコートの中で示したいものは、V1時代から変わらない。
目の前のボールに食らい付く。
粘り強く拾って、繋ぐ。
全員が一体感を失わずに戦う。
立ちはだかる難敵からわずかな勝ち筋を見つけ出し、蜘蛛の糸を手繰り寄せる営み。それを実現して勝利に至るには、まずは従来から大切にしてきた「ファイティングスピリット」を示すことが大前提となる。
ただ、黒星が続いた状況でもそれを“持ち続ける”こともまた、難しい。実際に昨シーズンはコミュニケーションロスが発生したり、意見が食い違ったりして難しいシチュエーションに立たされた。藤原も「勝ちが少なかったぶんだけ落ち込む部分も多くみられて、雰囲気が多少悪くなることもあった」と明かす。
そこでキャプテンを務める今シーズンは、コミュニケーターとしての役割も自任する。同じ轍は踏みたくない。
「練習の質や雰囲気があまりよくない時に集めて声を掛けることは、(川村慎二)監督からも言われている。若い選手は悩むことも多いと思うので、自分から声を掛けたりコミュニケーションを取るようにしている」
「選手一人一人に声を掛けて、『今日はどうだったか』と聞くようにしている。暗い部分や悩んでいることがあっても、チームの雰囲気を変えられるような選手になりたい」
「どこを改善したらいいか…とか、選手が思っているけれど監督やコーチには言えないことを聞いて、それを伝えていくのも役割だと思う」
発する言葉からは、組織が円滑に回るための“調整役”としての色が濃くにじむ。プレーで力強く牽引するよりは、潤滑油となるタイプのキャプテン。実際に練習中、藤原はチームメイトと積極的にコミュニケーションを取る。
そして今シーズンは顔ぶれも違う。日本製鉄堺ブレイザーズから加入した樋口裕希は明るい雰囲気を作り出し、経験を基に若い選手へ助言を送る。新加入のデンマーク人ウルリック・ボ・ダールも言語の壁を超えて意思疎通を図り、コート外では備一真らとフランクに掛け合う。
そうやってプレシーズンを過ごしてきた。
だからこそ、開幕を直前に控えた現在は自信を持って「うまくまとまっていて、いい雰囲気でできている」と口にできる。
それでも長いシーズン、幾多の試練にぶつかって苦しい時期も訪れるだろう。むしろそんな逆境こそ、自身の真価が試される時だ。「一つになることが大事。選手、監督・コーチの思っていることをしっかり聞いていきたい」と藤原は力を込める。
たとえ外からは見えずとも――。
荒海に漕ぎ出したチームを、コミュニケーション能力でつなぎ止めていく。
SVリーグ チーム紹介ページ
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