舞い戻ったマエストロ伊藤めぐみ “女獅子奮迅”の活躍で7試合ぶりの白星

頼れるキャプテンが復帰し、7試合ぶりの勝利をもたらした。AC長野パルセイロ・レディースは2025年4月12日、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに2-0。左大腿部裂傷を負っていた伊藤めぐみが先発復帰となり、84分に試合を決める2点目を奪った。攻守において“指揮者”として振る舞うなど、まさに獅子奮迅の活躍ぶりを見せた。

文:田中 紘夢

17針を縫うケガで4試合欠場
チームの苦境に外からアプローチ

「よかった…」

7試合ぶりの勝利を挙げた後、伊藤は開口一番に安堵感をにじませた。肩の荷がおりたようでもあった。

約2カ月半のウインターブレイクが明け、後半戦開幕となった第12節の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦。伊藤は左大腿部裂傷を負い、29分に途中交代となった。

ピンチをスライディングで止めに行った際、相手のスパイクの裏が左大腿部に接触。17針を縫う事態となり、涙も流した。

廣瀬龍監督に「お前、泣いてたらしいな」と聞かれた伊藤は、思わず「痛かったら泣きますよ」と言い返したという。

チームとしてもキャプテンを失う影響は大きかった。伊藤が不在の間、4試合を戦って1分3敗。最下位に引き分けて勝点を取りこぼせば、敗れた3試合はいずれも無得点だ。内容も振るわない試合が多かった。

「自分たちのやりたいサッカーが全然出せていないと感じた。それがなんで出せないのかも分からない状態で、何試合も負けが続いた」

「何を改善して、どこに立ち戻ったらいいのか…。一緒にプレーできない中で、みんなにどう伝えるかはすごく考えた」

伊藤はリハビリ中も新卒選手たちに発破をかけるなど、ピッチ外からできることを模索し続けていた。

練習試合を経てリーグで先発復帰
指揮官からの“金言”も後押しに

何よりもの薬は、自らがピッチに立つことだった。

4月5日。リーグ戦が1週間空いた中で、東京NBとのトレーニングマッチを行う。伊藤は1本目の45分のみ出場し、1カ月ぶりの実戦復帰。くしくも前回と同じ相手でもあった。

「中盤にメグ(伊藤)が帰ってきてタメができるようになったり、多少なりとも手応えはあった。プレーはもちろんだけど、指示を出せる選手が入ってきてくれた」

廣瀬龍監督が“指揮者”と称する22歳が帰還。リーグ戦で1-4と大敗した相手に対し、エースの川船暁海が先制点を奪う。その後に逆転こそ許したが、45分を2本戦った時点で1-2と奮闘した。

「守備をさせられているというよりは、自分たちで守れている感覚だった。攻撃も何回か練習してきた形が出せたので、気持ち的にもよかった」と伊藤。翌々日には23歳のバースデーも迎え、より一層の責任感も宿った。

その良い流れが翌週のリーグ戦にも繋がる。ホームにジェフユナイテッド市原・千葉レディースを迎え、苦しみながらも2-0と勝利。先発復帰した伊藤を中心にハードワークを貫いた結果、ポストやクロスバーも味方につけた。

「じわじわ伝わるプレッシャーもあった。自分が出ても負けたとなったら悔しいので、そうならないように…」

戦前には不安も口にしていた伊藤。ウォーミングアップを終えた後、廣瀬監督から「お前、張り切りすぎるなよ」とメッセージを受けたという。

「(廣瀬)龍さんからしたら、シュート練習も張り切っているように見えたのかな…。その一言があったおかげで、フラットな気持ちに立ち返って試合に臨めた。それで無事に勝てたことはホッとしている」

指揮官から“金言”を授かった伊藤は、84分に勝負を決定づける2点目。利き足ではない左足でのシュートだったが、落ち着いてゴール左隅へ。試合前にリラックスできた結果が表れたのかもしれない。

攻守において“指揮者”の振る舞い
味方を動かし自らもハードワーク

試合内容に目を向けると、まさに指揮者のように振る舞っていた。

4-2-3-1のトップ下に入り、守備では1トップを動かしながら相手のパスコースを誘導。サイドに追い込んでボールを奪う場面は多くあった。

試合中に1トップの選手が2回替わったものの、バランスが崩れることはなかった。「紅白戦からいろんな人を試していた。誰がどこをやっても、チームとしてのイメージが崩れなかったのは大きい」と伊藤。その裏にキャプテンの“指揮”があったことは、記者席からも見て取れた。

攻撃では中盤でボールをキープし、味方が前線に駆け上がる時間を作る。相手をドリブルでかわしてミドルシュートを放つなど、積極的にゴールも狙った。

33分には川船が先制点を奪取。本人いわく、伊藤のアドバイスも影響していたという。

「メグさん(伊藤)に打てるときに打たなかったことを言われて、その直後のプレーだった。カットインしてゴールが見えたので、打とうと思ったら良い感じに当たった」

川船が話していたのは、おそらく28分のプレーだろう。伊藤のパスから川船が抜け出し、相手ディフェンダーとの1対1。GKが前に出ている中で、早めにシュートを打つ選択肢もあったが、ドリブルで持ち運んだところで相手に囲まれてしまった。

それを受けて、得点シーンでは迷いを断ち切った。左サイドから得意のドリブルでカットインし、相手を振り切る前にミドルシュート。強烈な弾道がゴール右隅に突き刺さる。伊藤の“金言”も後押しした形だ。

味方を動かし、自分も動く――それが伊藤のキャプテンとしての強みだ。

「メグが若い選手を(ハイプレスに)行かせたり、行かせなかったり。チームとしての共通理解のもとにそういう指示が出て、コーチングをし合いながらゲームを進められた」

「押され気味のゲームでも耐えて、無理に外されることがない。リーダーが1人入ってきてくれたおかげで、守備のコンセプトが体現できた」

指揮官が評するように周囲を先導しつつ、自らもハードワーク。復帰戦ながら後半アディショナルタイムまで出場し、最後まで走り抜いた。

「勝つというのがシンプルにきっかけになる。勝つだけで気持ち的にもみんなポジティブになれるので、すごく嬉しい」

まさに獅子奮迅の活躍ぶりで、チームに7試合ぶりの勝利をもたらした。次なる相手は王者・三菱重工浦和レッズレディース。真っ赤に染まる敵地でも、オレンジの血を燃やして走り抜けるか。


WEリーグ第17節 ジェフ千葉レディース戦 試合詳細
https://weleague.jp/matches/2025041215/
クラブ公式サイト 選手一覧
https://parceiro.co.jp/ladies/player/
クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/ladies/

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