プロバスケで地元に若き力を 長野大に公認サークル

「地域と共に」を理念に掲げている長野大学に2023年5月12日、「信州ブレイブウォリアーズ応援サークル」が産声を上げた。いったい誰が、なぜ立ち上げたのか。ブースターのサークル活動を通じ、どんなケミストリーが期待できるのか。立ち上げに携わった2人の学生に話を聞くと、スポーツを通じた地域創生のヒントが隠されていた。

文:芋川 史貴/編集:大枝 令

アリーナMCの投稿がきっかけ
大学生2人から活動がスタート

2022年5月10日。
信州ブレイブウォリアーズのアリーナMC・三井順さんのSNS投稿が、一人の大学1年生をたき付けた。

「きっかけは三井(順)さんの投稿です。勝手に使命感を感じて…(笑)」

やや恥ずかしげに話すのは、「長野大学 信州ブレイブウォリアーズ応援サークル」の部長・小林凛さん。入学直後の時期、この投稿を目にして心が動いた。自身は須坂市出身。高校時代に吹奏楽部の一員として、試合会場で演奏を行ったのが信州との出合いだった。そこでジョシュ・ホーキンソン(現サンロッカーズ渋谷)に目を奪われたという。

「三井さんの投稿がある前から観に行っていてバスケが好き。もっといろんな仲間、いろんな人たちと大規模に観戦ができたらいいと思っていた。大学に入学して、一緒に行きたいと思える友だちもできたので、どうせ個人的にやるのだったら、サークルの活動にしちゃおうと思ったのも一つのきっかけだった」

「使命感を感じて」と言いつつも、当初は漠然と思い描いていただけ。それを確固たる目標に変えたきっかけが、後輩のブースター仲間が同じ大学に入学してきたことだ。東御市出身で1学年下の武舎冴門さん。彼もまたチームをこよなく愛するブースターだった。

「1年生の冬ぐらいに入学してくることが分かって、『一緒に活動できる可能性がある』と思って書類とかの準備を始めた。彼が入学してきたタイミングで、小規模でも活動ができたらなと思って」。三井氏の何気ないつぶやきからわずか1年、信州の応援を目的としたサークルを設立した。

長野大学は「地域と共に」を理念に掲げ、「社会福祉学部」「環境ツーリズム学部」「企業情報学部」の3学部で構成されている。地域の中で実際に見て、触れて、感じる、現場体験・実践型学習。学部によって学びの角度、アプローチの方法は異なるものの、「地域密着型」をテーマに掲げる大学だ。

小林さんは、社会福祉士と精神保健福祉士の資格取得を目指して社会福祉学部に所属する。決して簡単ではない二足のわらじ。ただでさえ資格取得の道を歩んでいるにもかかわらず、大きな一歩を踏み出す「行動」まで至った理由は一体なんなのだろうか。

「正直2022年は焦っていた。本当に個人的な思いだけど、ジョシュが信州にいるうちにサークルを立ち上げて痕跡を残しておきたくて、後先考えずに突っ走った部分はあった」。もちろん、学業との両立を考えて悩みもしたという。有志2人で創設したとしても、広がりに欠けば続かない。

しかしこうした不安を上回るほど、信州――とりわけホーキンソンへの思いは強かった。 結果的にはサークル設立の約1カ月後、ホーキンソンの退団が発表。しかし信州のカルチャーに身を浸し、日本国籍も取得した推し選手”大鷹”が、大きな一歩を踏み出す原動力となった。

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覚悟して臨んだ1年目
「初観戦」に至る難しさも痛感

大学の規定により、1年目は「非公認サークル」としての活動。公認と非公認では活動費に差があり、部室やロッカーも貸し出されない。そして「公認」という後ろ盾もない。それでも黄色と紺の情熱を前にすれば、なんの障壁にもならない。

上田市の市民祭「上田わっしょい」でブースター連に参加。会場ですれ違う人たちに開幕戦のチラシを配布するなどして、サークルやチームの普及活動を行った。その努力も実り、シーズン開幕を前に10人のメンバーに恵まれた。

「一番重きを置いていたのは観戦に行くこと。サークルメンバーはもちろん、QRコードや、大学内の学生だけが見られるサイトで広報して、サークル外の人も集めて観戦に行った。他にも大学祭の出店や、SNSを使って広報活動もしている」

メインの活動となる試合観戦は、2023-24シーズン開幕戦からサークル外の学生も取り込んで観戦できた。23年12月18日には後援会の支援もあり、約30人規模のパブリックビューイング(PV)を開催。来場者全員で応援したり、ハーフタイムでは抽選会を行ったりと「反省点は多々あったけど、1回目として実りのあるイベントだった」と振り返る。

試行錯誤しながら怒涛の初年度を走り抜け、確かな手応えも感じていた。

「やり始めたら忙しくて大変だったけど、一番は充実感がすごくあった。自分たちで企画した団体観戦やPVがちゃんと形に残って。一緒に観戦に行ってくれたサークルのメンバーや、PVに来てくださった方々の楽しそうな顔とかを見ると『本当にやって良かった』と思う。このサークル活動を通して得た経験は絶対に今後も生きてくると思う」と笑みを浮かべる。

武舎さんも「自分の場合は入学したら凛さんが全部の準備をしてくれていて、あとは書類を出すだけという段階。『後戻りはできないんだな』と思ったけど、期待の方が強くて。『この長野大学というフィールドを生かして、いかにウォリアーズを上に押し上げるか』に重きを置いた1年間だった」と充実感を口にする。

もちろん全てが順調に進んだわけではなく、団体観戦の人集めに苦戦することもあった。「シーズン開幕が10月の頭ということもあり、観戦を呼びかけている時期に帰省中の学生もいて、サークルメンバーを集めるのも難しい状態だった。結局は見込んだ枚数に全然届かず、だいぶ見積もりが甘かった」。

だが、そこで気付く。「私たちみたいにすでにバスケが好きな人たちからしたら、観戦に行くハードルはすごく低い。だけど初めて行く人たちや、団体観戦というとハードルが高いことが分かった」。未経験者をアリーナやスタジアムに連れていくのは、決して簡単ではなかった。

では長野大学の学生にとって、何が行動変容の障壁となるのか。2人は「アクセス面」と分析。例えば上田市内在住の学生を想定すると、試合会場のホワイトリングまでは一般道で約1時間、上信越道で約45分。在来線だと大学最寄りの上田別所鉄道「大学前駅」からJR上田駅で乗り換え、JR長野駅まで約1時間半。そこからもまだ遠い。

時間だけでなく、付随する移動コストもある。在来線だと往復で2,220円、車だと上田菅平IC-長野IC間(普通車/割引なし)で往復1,840円。ガソリンも高騰している。チケット代だけでも約3,000円。さらにグッズ代や食事代、実際の空気感が分からないことを考慮すると、大学生が初観戦に二の足を踏んだとしても不思議はない。

そして一歩目が踏み出せたとしても、コストの問題は常に付きまとう。2回目、3回目と継続的に足を運んでもらうためにはどうすれば良いか。その問題をサークルだけで解決するのは難しいことも浮き彫りになった1年目だった。

一方で2年目、公認サークルとなったことで潮目が変わった。「相手方に企画を持ち込む際に、”大学公認”を全面に押し出すことができるようになった」と小林さんは変化を感じ取る。武舎さんも「使える手段が増えたと思う。最近、木戸(康行)社長にもX(旧ツイッター)のアカウントをフォローしていただいて、ウォリアーズ側にも認知してもらえていると感じる」と手応えを口にする。

“地域密着”が大学とBWの共通点
「連携した時の可能性は無限大」

長野大学に通うからこそできている活動も多いという。武舎さんは長野大学と信州の共通点を見い出し、シナジーに期待を寄せる。

「一番は”地域密着”という部分。長野大学もブレイブウォリアーズも共通してそれを一つのスローガンに掲げている。いろんな人にこれを言っているけど、長野大学とウォリアーズが連携した時の可能性は本当に無限大だと思う」

「社会福祉学部の観点で言えば、音に敏感など、なんらかの事情で観戦ができない方がいた場合、ボックス席を作るといった取り組みもできると思う。クライアントの悩みに応じて個別最適な支援をする。子どもたちであれば夢を持てるとか、高齢者であれば生きる希望になるとか。そういう支援が社会福祉学部の分野だと思う」

こうした分野に関しては、他競技の先行事例もある。サッカーJ3松本山雅FC。信州大医学部と連携し、2023年からホームゲーム時に感覚過敏の人と家族を対象とした「センサリールーム」の設置を始めた。同じJ3のカターレ富山も、サントリーウエルネスとの共同プロジェクトで、高齢者福祉施設でPVを実施。最高年齢で98歳のサポーターが誕生したという。

J3松本山雅FCが設置するセンサリールーム(写真提供:松本山雅FC)

武舎さんはさらに、他学部の実践につながるアイデアも口にする。「環境ツーリズム学部だったら(アウェイブースターを対象とした)観光関連もそうだし、企業情報学部の分野であれば、グッズのデザインを学生が考えても面白いと思う。なんとかして大学とウォリアーズをくっつけたい。それを目標として頑張っている」

後輩の熱意ある言葉に目を細めながら、小林さんはこう付け加える。

「大学が“地域密着”を掲げているからこそ、そういう部分に惹かれて来ている学生は多い。地域と関わる何かがしたいとか、地域に貢献したいという気持ちを持っている学生が多いのが特色だと思う」 「(プロバスケットは)何か一つきっかけがあればいろんな人が興味を持つ分野だと思うし、スポーツを頑張っているサークルも多い。バスケというくくりだけではなく、スポーツと大学の関わりという部分で盛り上がる可能性はすごくあると思う」

「長野大×信州BW」をフックに
若者の県内定住・定着を見据える

公認サークルに昇格し、メンバーも顧問を含めて総勢14人に増加。学外からのメンバーも加入した。小諸市の専門学校に通う東信地方出身の学生と、千葉県の大学に通う学生だ。小林さんは「まさかこの活動を始めたときに、他大学にまで広がるとは思っていなかった。(大学内でも)サークルに参加してくれる人がいるとも思わなくて。スポーツって本当に人を繋ぐんだな…と実感している」と話す。

そして、この活動を通じて育まれたものがある。
生まれ育ったふるさとへの郷土愛だ。

「大学の先輩にも当たる古参ブースターの方が『ウォリアーズがあったから長野に残った』と言ってくれたことがあった。僕も同じで、高校から進学する際も『長野県以外で暮らすビジョンが見えないから残るのではなく、ウォリアーズがあるから残りたい』と思っていた」(武舎さん)

「私も進学先が最終的に長野県に落ち着いたのは、応援したいチームが地元にあるのがすごく大きな理由だった。3年生で就活も近づいてきているけど、バスケを観られる環境だったらどこでもいいわけではない。やっぱり愛着もあるし、『この先もずっと応援していきたい』という思いが根本にあるので、就職は長野で考えている」(小林さん)

「今は地域全体とまではいかないかもしれないけど、確かに地域と人を繋ぐ役割をウォリアーズは持っている。『どうすれば信州のバスケや選手を好きになってくれるのか』なんて、サークルを運営していなければ考えていない。誰かに伝える外向きの力はサークルをやることで初めて気が付いた」

この活動を通じて、2人が得たものはすでに計り知れないほど大きいだろう。そして、「長野大学×信州ブレイブウォリアーズ」の組み合わせは、県外から熱意ある若者を引き込む窓口にもなり得る。

武舎さんは力を込める。

「正しい表現かは分からないけど、ウォリアーズは人口減少の食い止めにもなっていると思う。サークルにも県外出身者が多いけど、『長野県がもっと好きになった』と言ってくれた人もいる。そういう人は大学内外に限らず絶対いると思うし、実際に僕がそう」

長野大学の資料によると、2023年度の学生数は1,474人。このうち63.6%の938人が県外出身者となっている。アスリートに限らず進路の選択は常に、さまざまな要素を複合して慎重に決断するものだ。その中で「しかるべき就職先」と「愛すべきチーム」などのプラス因子が重なれば、県内定住も選択肢に上りやすいだろう。

「僕の願いは、県外から来た人や学生に信州ブレイブウォリアーズというチームを知ってもらって、それをきっかけに長野県の良さにも気づいてもらうこと。あわよくば長野県に残ってほしい。もしそれが難しくても数年に一回遊びに来たり、離れた地にいても『信州のことが好きなんだよね』みたいな話をしてくれたり。チームの様子を通じて”信州”という地域に愛着を持ってくれたらうれしい」

思いのたけを語る武舎さん。言葉を紡ぎながら目頭を熱くするほど、その思いは強く育った。地元長野県を愛し、信州ブレイブウォリアーズを愛する学生が創った応援サークル。地域とともに育ち、チームとともに日々成長しながら、地域の未来を切り拓く。

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