選手も動いて、街を動かす “パルセイロ”が紡ぐ共闘の日々

選手が活躍する場は、なにもピッチ上だけにはとどまらない。ピッチ外でもスタッフと手を取り合い、集客に向けて奔走。AC長野パルセイロは2023年、地域イベントの数が前年比200%に向上。今年も継続して地域に赴いている中、選手からの自主的な参加も増えてきた。“Parceiro”(仲間)という言葉にふさわしい共闘で、苦境の中でも浸透を図っている。

文:田中 紘夢

“朝活”からオレンジ色の明日を
「97年組」軸に自主参加が広がる

「朝活!」

2024年10月1日。
宿敵・松本山雅FCとの“信州ダービー”に向けた告知活動。朝7時半から行われた長野駅前でのチラシ配りに、安藤一哉の姿があった。

チームにとっては、週に1回しかないオフの日。安藤はその貴重な時間を割いて、ただ一人で参加。そこにはスタッフへの敬意が込められている。

「チラシ一枚を作ることにどんな苦労があるかは分からないし、チラシ配りは平日の朝にやっている。僕たちは休みだけど、スタッフの方々は就業時間外に活動されている。そういう方々の苦労を知りたかった」

以前にも平日夕方から行われるサッカースクールに参加。子どもたちとともにプレーしたり、サインや写真撮影に応じたりと、サービス精神旺盛だ。「選手が来るだけで全然反応が変わるし、スタジアムで応援してもらうきっかけにもなる」。noteでの積極的な発信も含め、行動力に満ちている。

それがほかの選手たちにも伝播した。2回目の参加となったチラシ配りでは、藤森亮志と田中康介も仲間入り。「絶対に来ないと思ったけど、誘ったら来てくれた。そういうマインドの選手が増えていけば、このチームはもっと愛されると思う」。安藤は笑みを浮かべる。

とりわけ安藤と同い年の“97年組”は、こうしたクラブの活動に意欲的な選手も多い。11月3日には安藤と浮田健誠が篠ノ井駅前、藤森と忽那喬司が長野駅前と、二手に分かれてイベントに参加。アウェイでの試合翌日にもかかわらず、リカバリー練習の後に足を運んだ。

「レディースチームも含めて、パルセイロの選手たちはみんなが前向きに協力してくれる。小さなクラブをどうしていけばいいのか、一人ひとりが考えてくれていると思う」と小池光利営業・地域コミュニティ推進副部長。選手とスタッフが手を取り合い、クラブを盛り上げようと汗を流している。

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お膝元から改めて浸透を図る
最高の舞台を整えるために

11月11日には、篠ノ井東小であいさつ運動を実施。田中と石井光輝の2人が、登校中の生徒に笑顔を振りまいた。

石井は昨季まで7年間、ガイナーレ鳥取に在籍。当時も「復活!公園遊び」と題した活動に参加し、子どもたちと外遊びを楽しんでいたという。

今季は4月に右外側半月板損傷の大ケガを負い、戦列から離れていた。「もちろんプロサッカー選手なので、ピッチに立って活躍することが大事」と前置きしつつ、「こうやって地元の子どもたちとふれ合うことで夢を与えられると思う」。一昨年には1児の父となり、「子どもが生まれてそういうこともよく考えるようになった」という。

あいさつ運動を行った篠ノ井東小は、長野Uスタジアムのお膝元。徒歩約10分の距離にあるものの、子どもたちの言葉に耳を傾ける限り、観戦経験者はさほど多くなかった。

今季は「小学生 夢パスポート」を実施し、年間1,000人の小学生を無料招待。石井が言うように、子どもたちに夢を与えるためにも、まずはスタジアムに足を運んでもらうことが必要だ。そのきっかけづくりとして、選手たちが自ら足を運んでいる。

そもそもクラブとしてイベントが増えなければ、選手の露出も増えてはいかない。昨年の活動実績は前年比で200%で、今年も継続している案件は多いという。強化部や監督が選手の露出に理解を示していることも、その一つの要因となっている。

小池営業・地域コミュニティ推進副部長が掲げるのは、「共闘」の2文字。「フロントスタッフがやるべきは、選手たちが戦うための最善の環境を作ること。彼らに任せるのではなくて、一緒に作り上げることが大事だと思う」。ピッチ内外で共に闘い、最高の舞台を整えるのが理想だ。

11月9日のヴァンラーレ八戸戦では、ホームに7,010人の観衆が駆けつけた。これは信州ダービーの11,965人に次ぐ数字。当日は長野市ホームタウンデーに加え、音楽×フットボールをテーマにした「パルセイロフェス」を実施し、地元のアイドルやパフォーマーがステージを賑わせた。結果こそ0-1と惜敗に終わったが、新たな試みは大盛況に終わった。

筆者もフリースタイルフットボールのパフォーマーとして参加

今季のホームゲームの平均入場者数は、最終節の1試合を残して4,135人。昨季の3,528人を上回っている。チームは17位と苦しい状況だが、クラブの努力が数字として表れている。それを選手も感じながら行動しているのは、安藤の言葉からも浮き彫りになる。

「地域の方々を巻き込んでいかないとチームは強くならないし、応援されるようにもならない。負けている状況だとどんどん離れていってしまうので、もっと積極的に行動していきたい」

チーム名の「パルセイロ」は、ポルトガル語で「パートナー」を意味する。選手、スタッフ、サポーターが手を取り合い、地域とともに歩む。チームが苦境に立たされる今こそ、原点に立ち返る時なのかもしれない。


クラブ公式サイト
https://parceiro.co.jp/
長野県フットボールマガジン Nマガ
https://www6.targma.jp/n-maga/

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