【Farewell-column】バックゾーンの小さな巨人 VC長野・備一真

バレーボールの季節は、新緑とともに遠い記憶となっていく。長野県内のSVリーグ男子/Vリーグ男女の計3チームからも、今季限りでの退団者が発表された。本企画はチームを去る選手・スタッフに敬意を表し、その働きぶりやチームに遺した財産などを改めて記録するもの。第3回は、VC長野トライデンツのリベロ(L)備一真にスポットを当てる。
文:大枝 史/編集:大枝 令
チーム唯一の全試合フル出場
揺るがぬレシーブが支えた10勝
全44試合、セット数にすると160セット。V
C長野でフル出場したのは備一真、ただ一人だ。

シーズン終盤に話を聞いた際には「始まる前は試合数が多いと感じていたが、やってみたら『もう終わりなのか』という感じが強い」と実感を口にしていた。この時、すでに去就の意志を固めていたのかもしれない。
試合後にはケアをしてコンディションを維持。オフもしっかりリフレッシュして「疲労が溜まっている感じはない」と話す。
「アスリートとして一番大事にしているのは安定感」

本人が意識しているように、全ての試合で安定したパスを供給してきた。
サーブレシーブ成功率52.6%でリーグ2位。この数字自体は在籍3年間で最も低いが、世界トップレベルのビッグサーバーがひしめく新SVリーグであることを考慮すれば堂々たる数字だろう。
受数630本は在籍3年目にして最多。「シーズンが進むにつれて、いい意味で速さにも慣れてきた」と振り返る。

まずは良いパスを返すことが、サイドアウトを取る第一歩。アウトサイドヒッター(OH)の樋口裕希も「彼がいないと成り立たないサーブレシーブが絶対にある」と信頼を寄せる。
シーズン終盤には組織的なブロックディフェンスが機能することも多く、ブロックの間を抜けてきた強烈なスパイクを上げるシーンがいくつも見られた。
記録には残っていないが、POMに選ばれた第7節のヴォレアス戦GAME2では備のディグが直接相手コートに落ちる得点もあった。
ディフェンスの要として、VC長野が挙げた10勝を縁の下で支え続けた。

言葉で生み出すチームワーク
打開策を見つける力の源泉とは
頻繁にコート内の仲間に声をかけ、雰囲気作りも担う。
「僕は点数を取るポジションではないので、オフェンス面は頑張ってもらうしかない」

自身が攻撃に参加できない以上は、ミスがあっても切り替えてもらうしかない。ラリーが終わったあとには「リスタートはこうやっていこう」と、一人ずつに声をかける。
オポジット(OP)のウルリック・ダールにも「トスが集まるから頑張って」「ここはゴーで、考えずに攻めていい」などと、こまめに声をかけるようにしていたという。

コミュニケーションを密にすることによって、「コート内で打開策を見つけられる力がついてきた」。チームで同じベクトルを向く大切さを教えてくれた。
それはおそらく、日々の取り組みを実直にやり続けてきたからこそ。自然と輪が生まれ、その声がすんなり胸に落ちるのだろう。

2022-23シーズンから3年間在籍。1年目は5勝を挙げたものの、2年目は2勝に終わる。そして3年目は、10勝に到達した。
「1年でチームを変えることはできないけれど、2〜3年とやってきて、いい考えや技術を持ってきてくれている人たちも加わっている。3年目にして『戦える』という手応えはすごくある」

WD名古屋を撃破した第13節GAME1の試合後会見で、備は3年間の積み上げについてそう語った。
勝ちグセをつける大切さ、勝負どころの見極め。それを実現するコミュニケーション――。
コートの最後尾で存在感を放った“小さな巨人”備一真。背中で見せた模範も、残してくれた多くの言葉も、来季以降のチームに必ずや繋がっていくだろう。

PROFILE
備 一真(そなえ・かずま) 1998年1月6日生まれ、鹿児島県出身。坂元中を経て名門・鹿児島商高へ進学。しかし公式戦の出場はほとんどなく、東海大学1部の大同大で頭角を現した。卒業後はV2大同特殊鋼レッドスターに入団。V1の大分三好ヴァイセアドラーを経て、2022-23シーズンからVC長野でプレーする。同年はV1男子のサーブレシーブ賞(72.2%)に輝いたほか、日本代表にも初選出された。ポジションはリベロでサーブレシーブ成功率はリーグ2位の52.6%。168cm、67kg。
備一真 2024-25 SVリーグ男子 個人成績
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/player/detail/3879
備一真 プレイヤーズヒストリー「努力する限り、迷う」
https://shinshu-sports.jp/articles/5179