主力の大半が去る衝撃のシーズンオフ序盤 VC長野の未来図は

2024-25シーズンのリーグ戦が終了しても、悲喜の波は去らない。アウトサイドヒッター(OH)工藤有史が日本代表の登録メンバーに選ばれた半面、主力のほとんどを含む10人が退団することも発表された。過去最多の勝利数を挙げるなど鮮烈な印象を残したチームは解体され、「ゼロベースのリスタート」になってしまうのか――。バレーボール取材班の責任者・大枝令が、取材を基に未来図を展望する。
文:大枝 令
育成のインセンティブなき構造
マネーゲームでは後手を踏む
大切な時間を惜しんでいたかのようだった。
コートで組まれた最後の円陣。試合終了の笛が鳴り止んでも、ほどかれることはない。その間、およそ15秒。永遠よりも長く感じられるような、惜別のひとときだった。

あえて、前回のコラムと同じ書き出しを持ち出した。
この時点でおそらく、選手たちは去就を互いに知っていただろう。それを踏まえると、この光景の見え方はより重みを増してくる。
契約形態はどうであれ、彼らはプロフェッショナル。腕前一本で自らの価値を問い、コートでそれを表現する。その営みを通じて、より良い環境を選び取る自由がある。
だからと言って、全てがドライなわけでもないだろう。ここで過ごした時間が充実していたからこそ、次のステップに進む権利を得た――とも言える。思わぬ“栄転”が待っている選手もいるかもしれない。
では、「VC長野トライデンツ」というクラブを地縛霊のように愛する者たちは、シーズンが終わるたびに無力感にさいなまれ続けなければいけないのだろうか――。
例えばサッカーなら、契約年数が残っていれば「移籍金」という形で設定額が払われる。欧州になればその桁も一気に跳ね上がるが、国内リーグでさえ8桁の移籍金が移動することは珍しくない。
広告
「選ばれる理由」をさらに増やし
価値をより高めてサバイバルへ
ただ、バレーボールにはそうしたルールも文化も今のところ存在していない。ただ強者が資本力とブランドを武器に引っ張り上げ、資本なき者がそれに抗う術はあまりない。非力だ。
例えば今回退団が発表された10人のうち、ステップアップする選手も複数いる。取材によるとそのうちの一人は、報酬が今季の倍近くになるという。
では、そこで積み合って戦うのが上策か――と言えば、一概にそうとは言い切れない。争うリソースを他に振り分けてプロ契約の数を増やしたほうがいいかもしれないし、環境整備に投資したほうがいいかもしれない。
若手育成にも外国籍選手のリクルートにも定評はあるかもしれないが、それで潤う仕組みは現状のSVリーグには存在していない。
であれば、「選手が残りたくなる理由」を増やす必要がある。
当サイトはそのファクターの一つになる可能性がある手段として、「現行のバレーボール界にはあり得ない量と質のコンテンツ展開」が今のVC長野に必要だと判断し、実行してきた。
ファンを増やす。熱量を高める。
臙脂色のアリーナを唯一無二の存在とする。
大勢のファンが集まれば、アリーナ空間の価値は高まる。スポンサー営業はしやすくなるだろうし、シンプルにファンの方々のお財布の紐も“GOGOトライデンツ”するかもしれない。
そうした少しずつの力を結集することでしか、抗えない構造なのが現状だ。
破壊と再生の輪廻から抜け出し
共有したい「右肩上がりの物語」
確かに、あらゆる意味で格上の相手を破る喜びは何物にも代えがたい。
例えばアウェイのWD名古屋戦、第5セットが26-24までもつれた死闘。記者生活20年、メモを取るべき手が自然と祈りのそれになったのは初めての経験だった。
願わくば、そこから先の物語を紡ぎたい。試行錯誤しながら七転八起しながら、それでもVC長野は前に進んでいる――という手がかりを感じたいのではないだろうか。
幸い、残る選手はいる。ゼロベースからの再構築とは少し異なる。それだけでなく、早期から来季に向けてのスカッドはほぼ整えてある様子で、中には有名な選手も含まれているかもしれない。
来季には来季のチームの魅力があり、今季打ち立てた記録をさらに更新するかもしれない。だが、スクラップ・アンド・ビルドにも似た不幸な円環を繰り返しながら痩せ細っていくのは避けたい。
そのために何ができるか――は、信州スポーツキングダムのコンセプトに重なる。
引き続きニュースやコラム、その他特別企画などを予定している。とはいえ今はまだ、SVリーグの総括をしながら別れを惜しむフェーズ。三叉の槍をより強靭なものとするために、引き続きコンテンツを展開していく。