“圧倒的な準備”が生んだ自信と成長 男子SC軽井沢クラブが世界最終予選へ

“圧倒的な準備”が、ミラノへの道を照らす一条の光となっている。2025年9月11〜12日、北海道・稚内市で行われたカーリング日本代表決定戦。男子SC軽井沢クラブはコンサドーレ(北海道)に3勝1敗として優勝し、日本代表として12月6〜12日にカナダで行われる世界最終予選への切符を手にした。勝利の背景には、これまでにない徹底した準備と、チームとしての確かな成長があった。

文:大枝 令

異例の50試合でつかんだ確信
最高の状態で代表決定戦に入る

「良い準備ができていた。自信を持って、チームを信じられる状態だった」

サード(第3投者)を務める山口剛史は、大会を振り返ってこう語る。その自信の源となったのは、5月から始めた異例の準備期間だった。

通常なら6月頃から徐々にチーム練習を増やすところを、今シーズンは5月の韓国遠征からスタート。7月上旬には北海道遠征も敢行し、9月の日本代表決定戦までに約50試合という、かつてない量の実戦をこなした。

山口は「練習試合をして、実践で課題を見つけて、また練習に取りかかって、次の試合で確認するという繰り返しは好きなタイプ」と話すが、それでも「5〜8月で50試合というのはかなり多い」と認める。

リードの小泉聡も、この準備の意味を強調する。

「世界選手権での敗戦を踏まえて見えた課題に取り組んだ。投げの技術はもちろん、スイーパーとしてのジャッジ力やスイープ力、ハウスに立つ側のコールなども含め、試合の中で成長していくことを目的とした」

3月の世界選手権で浮き彫りになった課題は明確だった。個々のショット精度は上がっているものの、チームとして相手にプレッシャーをかけるための「置く場所」のコントロールができていなかった。

わずかな差が勝敗を分ける世界。その微妙な差を埋めるには、個人練習よりも実戦の中でコミュニケーションを高める必要があった。

勝負を分けた2つの場面
あえて「取らせる」選択が奏功

この徹底した準備は、本番で確かな成果として現れた。

小泉は大会を通じて安定したパフォーマンスを見せ、特に第3戦は「カーリング人生の中で一番安定してできた」というほどの出来栄えだった。ショット成功率はほぼ100%に近く、エンドの序盤では常に相手より良い形を作ることができていた。

しかし、カーリングの醍醐味は最後まで何が起こるかわからないところにある。

小泉が最高のパフォーマンスを見せた第3戦も、最終エンドで清水徹郎(コンサドーレ)のラストショットによる大逆転で敗れた。「2点リードでほとんど勝ちを確信していたところで、3点を取られて負けた」と山口は振り返る。

この敗戦後、チームの真価が問われたのが第4戦だ。

第9エンド。山口の作戦選択ミスで、有利な後攻でありながら2〜3失点の危機に陥った。ここで栁澤が冷静な判断を下す。「1点を相手に与えて、後攻で最終エンドに2点を取って逆転する」という選択だった。

山口は当初反対派だったが、栁澤の「第3試合も最終エンドを相手が後攻で逆転勝ちしている。相手はそのいいイメージを持っているだろうから、同じ形にしない方がいい」というロジックに納得した。

そして実際、フォース栁澤が難度の高いドローショットを決めて1失点にとどめる。もくろみ通り最終第10エンドを後攻とし、最後の8投目を投げることなく逆転勝利を収めた。

「その7投の組み立てというか、ショットの精度はもう全部100点だった」と山口。特に山口自身がヒットアンドロール(相手のストーンを弾いて自分が横に転がる技)を2回成功させたことは、プレッシャーの中で練習の成果を発揮できた証だった。

ぶつかり合いから生まれた絆
チームショットの精度が向上

大舞台でパフォーマンスを発揮できた土台。短期間で積み重ねた50試合の道のりは、決して平坦ではなかった。

5月の韓国遠征。 練習試合で“事件”が起きた。ラストエンドで強気の作戦を選択したが、小泉の2投が思うようにいかず、山口の思い通りの展開にならなかった。

「リンク上でほかのメンバーもいたし、女子のチームも同じ場にいた中で、そんなことを気にする余裕がないくらい『いやいや』と言い合いになった。珍しく2人で声を荒らげて、若手2人は『どうしよう』という雰囲気だった」

小泉は当時をそう振り返る。

「強くなるためには4人全員が意見をしっかり持って、それをぶつけ合った方が必ずいいチームになる」という信念を持つ山口。実際このシーンのように忌憚なく意見を衝突させながら相互理解を深めていった。

「一瞬雰囲気が悪くなったりもするけれど、みんなオリンピックに行きたいし、チームが強くなりたいという気持ちの方が強い」

山口はそう話す。

技術面では特に、世界との差を埋めるために重視してきた「チームショット」の精度が向上。スイープのジャッジ力やコミュニケーション能力の向上により、以前なら簡単に2点を取らせていた場面でも、より難しいショットを選択して相手を1点に抑える力がついた。

小泉が分析する。

「スキルが上がったり、コミュニケーション能力が上がったり、スイープのジャッジ力やスイープの曲げる・曲げないのスイッチのスピードなども上がってきたことで、チームショットの精度もかなり上がってきた」

PCCCでも銅メダルに輝く躍進
細部を突き詰めていざ最終予選へ

日本代表決定戦での勝利は、単なる通過点に過ぎない。しかし、50試合という膨大な準備期間を経て、チームは確実に成長した。

山口は「練習の成果もみんな出せた。プレッシャーのかかる場面でパフォーマンスが落ちることが今までもあったけれど、今回はほぼなかった」と手応えを語る。

男子SC軽井沢クラブのスタイルも確立されつつある。山口いわく「前半は守備型で耐え、後半に攻撃型に変えて逆転する」パターン。前半はアイスリーディングに時間を費やすが、読み切れたら強い。この特性を理解した上で、後半に勝負をかける。

日本代表として出場した10月のパンコンチネンタル選手権(PCCC)では銅メダル。カナダでさらに2大会に出場してから、再び日本代表として12月の最終予選を迎える。課題も明確で、「ヒットアンドロール」の精度向上、先攻時の守備の作戦選択と成功率の改善――。細部を突き詰める。

日本代表として出場したPCCCで銅メダルを獲得。日本代表チームにはフィフスに臼井槙吾選手(前列右、KiT Curling Club)が参加

「このチームだからこそ、次のオリンピックで本当に勝っていける」。山口の言葉には単なる希望ではなく、確かな裏付けがある。

技術面の向上はもちろん、タフさを増した精神力。そして何より、4人全員が自分の意見を持ち、ぶつけ合いながら一つの目標に向かっていく姿勢――。

それらを土台に12月の世界最終予選、そしてその先のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪へ。男子SC軽井沢クラブの挑戦が、新たなステージへと進む。


クラブ公式サイト
https://karuizawaclub-curling.com/

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