サトタクNavigates バスケット・ラビリンス(8)「基礎の欠落 プレーオフで命取りに」

バスケットボールは豪快で派手なプレーが目を引く一方、コート上の戦術面に目を向けると非常に繊細で難解でもある。信州ブレイブウォリアーズはどんなバスケットを目指していて、現在地はどこなのか――。2018年から3シーズン、勝久マイケルHCの元でプレーした佐藤託矢がナビゲートする。8回目は、プレーオフで命取りになりかねないディフェンス面などの課題を論じる。
構成:芋川 史貴、大枝 令
払拭できないディフェンスの課題
プレーオフに向けて修正はマスト
レギュラーシーズンは60試合中49試合を消化し、3月16日に行われた山形ワイヴァンズ戦に勝利した信州ブレイブウォリアーズは、プレーオフ進出を決めた。
しかしチームの状況を外から見ると、このままではプレーオフのトーナメントを勝ち上がることは難しい――と僕は思っている。

その理由はいくつかある。特にディフェンス面やルーズボールへの意識など、基礎的な要素のクオリティが勝ち試合と負け試合でかなりの差があることがどうしても気がかりだ。
2月22-23日のベルテックス静岡戦から、福井ブローウィンズ、熊本ヴォルターズ、山形ワイヴァンズとの対戦成績はいずれも1勝1敗。負け試合は全て得点を取られすぎてしまっている。

静岡戦のGAME2は第1クォーター(Q)から31失点、福井とのGAME2も第1Qに27失点。熊本戦のGAME1は前半だけで53失点。山形とのGAME1も前半だけで50失点を喫している。
信州の特徴でもあるディフェンスの強度が試合ごとにムラが出ており、安定した試合運びに繋がらない。

それは戦術的な問題ではない。
いずれの試合もヘルプポジションのカバーやルーズボールやリバウンドの初速の遅さが目立つ。ピックアンドロールに対するディフェンスでセパレーションを作られすぎているシーンもある。
基本的な部分であるヘルプの意識やディナイなどのプレッシャーが全くできていない。
図表を用いてそれらのシーンを見てみよう。
まず山形戦GAME1の第1Q、残り1分30秒の場面だ。

山形のレオナルド・デメトリオのドライブに対して狩野富成の反応が遅れているが、ヘルプポジションにいなければならないペリン・ビュフォードがボールから目を離しており、適切なカバーができていなかった。
2つ目も山形戦GAME1で、第3Qの残り8分17秒。
アキ・チェンバースのシュートが外れてから山形の速攻に対し、信州の選手たちが戻り切れていない。その結果、オフェンスリバウンドを奪われる。

その後、渡邉飛勇とテレンス・ウッドベリーのところでディフェンスのエラーが発生し、結果的にはファウルからフリースローを与えた。
これはあくまで一例。このような単純な部分で失点に繋がっており、それが繰り返されれば個人としてもチームとしてもディフェンスの覇気がないようにも見えてしまう。

やるべきことをやれないメンタルの弱さもあるだろうし、コーチ陣から配られるスカウティングレポートを理解し切れていないことも十分に考えられる。
これらの問題に関しては、シーズン序盤から変わらず課題として引きずっている。
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リーグとは全く異なるプレーオフ
先勝のためにも「基礎の徹底」を
B2優勝、B1昇格を目標に掲げる信州。プレーオフの出場決定はあくまで最低ラインだろう。
対戦相手やホーム開催などの問題はひとまず置いておいて、何より皆さんにお伝えしたいことは「レギュラーシーズンとプレーオフは全く別モノ」ということだ。

プレーオフは2戦先勝。先手を取ることが必要になってくるし、そのためにどのチームも強度を高めてくる。果たして今の信州には、そこに対抗できる勢いや力強さはあるのだろうか。
先述したディフェンスの問題や立ち上がりの悪さはチームでも対応しようとする動きがあり、熊本戦のGAME1では従来のスタメンを大幅に変更した。しかし結果は変わらず。初めての試みだったとはいえ、ディフェンスでの改善が見られなかった。

メンバーを代えても結果が変わらなかったということは、チーム全体としてそれらの問題を抱えているということだ。再三強調するが、戦術面ではなく基本的な部分だ。
しっかりとプレッシャーを与えたり、ルーズボールやリバウンドで競り勝ったり。誰が出てもその意識や強度は落としてはいけないし、できていないのならチーム内でそこを指摘し合い、改善させていく必要がある。

幸いにも信州には、かつてプレーオフを経験した選手や大舞台を経験した選手もいる。ウェイン・マーシャルや三ツ井利也、石川海斗、栗原ルイスなど勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)のバスケットを熟知した選手も残っている。
その選手たちが中心となり、目標を達成できるチームへと引っ張ってほしい。このまま波に乗れず終わるのか、トーナメントを勝ち進められるか。明暗を分かつのは、残り少ないレギュラーシーズンで改善できるかに懸かる。

難敵との試合ばかり残る終盤戦
「2勝する」気概で成長の加速を
この終盤戦がそのままプレーオフに繋がっていく。
残りの試合を確認しよう。アルティーリ千葉(A千葉)、福井、福島ファイヤーボンズ、富山グラウジーズ、青森ワッツ、A千葉。プレーオフでも戦う可能性のあるチームとの対戦が残る。

この残り11試合で見せたいのは今までと違う姿。チーム全体でまず基本的なディフェンスの強度を高めていくこと。そしてチームルールの徹底や、スカウティングレポートに則った遂行力を見せることだ。
「勢い」という観点でも大切な残りの試合。それに信州はまだ順位も確定していない。ホームだろうがアウェイだろうがやることは変わらないが、やはりホーム開催が望ましいのは言うまでもない。

そのためには自地区で2位になることが絶対条件。現在の信州は32勝17敗で東地区2位に位置しているが、同じ勝率で富山が3位に迫る。ここの争いも、残りのレギュラーシーズンでの注目ポイントになるだろう。
とにかく勝たねばならない。1勝1敗ではなく「2勝する」気迫を持ち、勝利にこだわってほしい。もちろん選手たちは「負けたい」と思って試合に臨んでいるわけではない。そもそも勝久HCのバスケットを1年で体得するのは正直難しい部分もある。

それでもトーナメントのプレーオフで勝つために大事なのは、基本的な部分を相手より徹底してやれるかどうか。それを自分たちの武器として信じ続けられるかどうかだ。
残りの11試合で簡単な試合は一つもない。自分たちの姿をもう一度見つめ直し、プレーオフを戦い抜けるチームへと変貌を遂げてほしい。

PROFILE
佐藤 託矢(さとう・たくや) 1983年8月25日生まれ、大阪府出身。東住吉工高(現・東住吉総合高)時代はウインターカップ、インターハイともに4強を経験し、青山学院大ではインカレ準優勝。卒業後は当時JBLの三菱電機からスタートし、千葉ジェッツ、京都ハンナリーズなどを経て2018〜21年に信州でプレーした。引退後はクラブの「信州ふるさと大使」となり、今季からはアカデミースーパーバイザーも兼任。「ど素人バスケ」と出張型パーソナルトレーナーを自主事業とするほか、養護学校などでのボランティア活動も実施している。好きなおつまみは梅水晶。
ホームゲーム情報(3月22-23日、アルティーリ千葉戦)
https://www.b-warriors.net/lp/game_20250301_20250302/
クラブ公式サイト
https://www.b-warriors.net/