“ビッグ・ダディ”テレンス ウッドベリー 学び、勝ち、悲願のB1へ
来日して足掛け12年目となるテレンス・ウッドベリーは、37歳を迎えてなお貪欲に学びを止めない。新たな環境に身を投じ、勝久マイケル・ヘッドコーチの戦術習得に心血を注ぐ日々。B2得点ランキング歴代1位のスコアラーとして期待がかかるだけでなく、ベテランとしてチームの柱にもなりそうだ。日々を積み重ねた先に、悲願のB1へ――。あくなき向上心の根源に触れた。
文:大枝 令/編集:芋川 史貴
オープンに学ぶ姿勢を重要視
滞在歴長く 日本語習得にも力
「すみません、少しだけゆっくり話してもらっていいですか」
申し訳なさそうに、通訳に質問をさえぎられた。ウッドベリーが、日本語を懸命に聞き取ろうとしていたのだ。文字どおり耳を傾け、異国の言葉を学ぶ。平易な表現を選んで心持ちスローに話すと、英語に変換するまでもなく答えが返ってきた。
37歳。
ベテランの域に入って久しいが、学びを止めない。
バスケットボールも、それ以外も。
昨季まで2シーズン在籍した熊本ヴォルターズから自由公示リストに載り、ウッドベリーの元にはさまざまなオファーが舞い込んだという。その中で次なる針路に選んだのは信州。勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)からの電話が鳴った。
「詳細にこだわるコーチで、結果も出している。『B1にもう一回戻りたい』という気持ちも伝わってきたので、このチームに来た」
bjリーグ時代から数えると、日本の6クラブでプレーしてきた。個人成績も十分に積み上げた。だが、まだ学ぶべきことは多い。琉球ゴールデンキングスでともにプレーしたアンソニー・マクヘンリー氏からも「信州のバスケはタフで難しい」という助言を受けていたという。
「今も他の人に教えるとか還元するというよりは、学んでいる状況。例えばディフェンスの部分でどうやってスクリーンをかけるのか、正しいポジショニングはどこか――。オフェンスの動きも覚えるべきことが多い」
「学ぶために、オープンな姿勢を大事にして今シーズンを過ごしたい」
オフェンスのクオリティ示し
ビュフォードとの連携に破壊力
とはいえ、すでに実戦では大きな存在感を放っている。
9月14日、蔚山現代モービスフィバス(韓国)とのプレシーズンゲーム。3ポイントシュート5本を含むチーム最多の20点をマークした。B2歴代1位の通算7,702得点の記録を持ち、今季なお数字を上積みしていくシューター。持てる力の一端を示した。
とりわけ、2季連続B1得点王ペリン・ビュフォードとのコンビは圧巻だった。互いにスペーシング(距離感)を意識してのプレー。第3クオーターには残り7秒でビュフォードからのパスを受け、ブザービーターを決めた。
PROFILE
テレンス ウッドベリー(Terrance WOODBURY)1987年6月16日生まれ、アメリカ合衆国出身。ジョージア大学を卒業後は欧州2カ国を経て2012年に琉球ゴールデンキングス加入。14-15シーズンに再来日して滋賀レイクスターズ(現滋賀レイクス)でプレーした。以降は日本の4クラブを渡り歩いた。香川ファイブアローズ、熊本ヴォルターズではB2プレーオフを経験した。B2通算7702得点は歴代1位、FG数2680本と3ポイント成功数624本はともに歴代2位。得点力を最大の武器とするSF/PF。203cm、103kg。
「ペリンのスキルセットはすごく高いレベルにある。たくさんペリンと話して、自分たちが持っているスキルセットを合わせてこのチームで何ができるかを考えている」。合流早期からビュフォードともフランクにコミュニケーションを取り、アジャストしながら最適解を模索する。
ビュフォードに対してだけでなく、チーム全体を見ながら年長者らしく振る舞う。実際、勝久HCも得点力に信頼を寄せつつ「ベテランとしてチーム内で良いコミュニケーションを取ってほしい」と期待する。
トレーニング中も小さなディフェンスの動作をきっちり遂行。手を抜かない。「シーズン中には悪いシチュエーションもあると思うけど、その時の自分に何ができるか。それはハードにプレーすることだ」。その言葉は頼もしさを帯びる。
プレーオフに跳ね返された過去
歓喜を上書きするシーズンへ
全ては、勝つために。
学んで、学んで、勝つ。勝ち続ける。
そして自身初のB1へ――。
それが、ウッドベリーの描く青写真だ。
2021-22シーズン。
香川ファイブアローズでB2西地区の初優勝を経験。しかしB2プレーオフ準決勝で敗れ、B1昇格はかなわなかった。
2022-23シーズン。
5季ぶりに復帰した熊本でプレーオフに駒を進めたものの、初戦の準々決勝で長崎ヴェルカに敗れて涙をのんだ。
2023-24シーズン。
“3度目の正直”もならず、またしてもプレーオフ準々決勝で敗退。昇格した越谷アルファーズに苦杯を喫した。
3シーズン連続でプレーオフに泣いてきた。Bリーグに再編されて以降、B1が近いようで遠かったキャリア。B1へのこだわりはひときわ強い。
「ここに来た理由はチャンピオンシップを取ること。Bリーグでプレーする以上はそういう気持ちがあるけれど、そのためにはコーチマイクのもとでプレーする必要があった。人生のステージの中で、このチームでチャンピオンシップを狙いに行くことはすごく大切」
B2開幕も刻一刻と迫ってきた。
チームは21〜23日の天皇杯2次ラウンドを経ていよいよリーグ開幕へ向かう。
「すごくいいチームになると思う。新しい選手もだんだん自分たちの役割をわかってきた。でも、コーチがやりたいことをもっと学ばなければいけないし、去年からいる選手たちとどうコンビネーションを合わせていくかも大事。自分たちはいいチームになると思うけれど、まだやらなければいけないことがたくさんある」
コート内外で頼もしさがにじむ。
「ビッグ・ダディみたいだ」
チーム内からはそんな声も聞かれる。
キャリアで最も印象的だった出来事を問うと、返ってきたのはbjリーグの2014-15シーズン。滋賀レイクスターズ(現滋賀レイクス)時代、bjリーグのオールスターでMVPを獲得した時のことだった。「すごくビッグな時間だった」
それを今季、紺と黄色の歓喜で上書きできるか。
学びを続けた日々の先に、追い求めてやまないB1の頂がある。
Bリーグ 選手紹介 テレンス・ウッドベリー
https://www.bleague.jp/roster_detail/?PlayerID=10831
Bリーグ チーム紹介ページ
https://www.bleague.jp/roster/?year=2024&club=716&p=&c=&o=random&tab=2
クラブ公式サイト
https://www.b-warriors.net/