サトタクNavigates バスケット・ラビリンス(1)「新戦力のポテンシャルとチームの現在地」

バスケットボールは豪快で派手なプレーが目を引く一方、コート上の戦術面に目を向けると非常に繊細で難解でもある。信州ブレイブウォリアーズはどんなバスケットを目指していて、現在地はどこなのか。どんな部分が具体的にスペシャルなのか――。2018年から3シーズン、勝久マイケルHCの元でプレーした佐藤託矢がナビゲートする。初回はまず、4試合を終えて判明した「ポテンシャル」をテーマに据えた。

構成:芋川 史貴、大枝 令

リーグ屈指の豪華なロスター
新戦力の具体的な「すごさ」とは

信州ブレイブウォリアーズの2024-25シーズンが始まった。B2に戻って1年目、再び最高峰の舞台で戦うことを目指してリスタート。ブースターの皆さんもご存知の通り、今季はリーグ屈指の豪華なロスターとなった。

2年連続B1得点王のペリン・ビュフォード、B2歴代最多得点のテレンス・ウッドベリー、そしてパリ五輪で脚光を浴びた渡邉飛勇。とんでもないチームに化けても不思議ではないだけのタレントがそろった。

僕自身も見守る立場の一人として、期待に胸を膨らませながら開幕を待っていた。その中で4試合を消化して2勝2敗。新加入のタレントがどのように信州のバスケットに適応していくのか――が、今季の大きなカギとなる。そのことを改めて痛感した。

そもそも勝久マイケル・ヘッドコーチ(HC)の戦術は、新旧さまざまな選手が証言しているように緻密で難解だ。僕自身も信州で初めて一緒になった時、映像を振り返りながら何度も厳しく指摘されてきた。初めて聞く戦術用語がいくつもあったし、ベテランになってなお成長できる余地に気付かせてもくれた。

体得に時間を要するのは間違いなく、勝久HCが常日頃から口にするように、「日々成長」するしかない。その中で初回は注目の新加入選手であるビュフォード、ウッドベリー、渡邉飛勇の可能性を展望していく。

3人は間違いなくスペシャルだ。

まずはビュフォード。福井ブローウィンズ戦でいきなりトリプルダブルを達成した。1対1のセンスが飛び抜けており、ウイングからの得点能力は非常に強力な武器になる。

そして1対1で仕掛けて得点できるのはもちろん、素晴らしいのはパスだ。この4試合でも特に渡邉飛勇へのパスが冴えた印象。自分が中まで切れ込んでディフェンスを引きつけ、スペースを作ってイージーなシュートを打たせていた。

ウッドベリーも、歳を重ねてイメージが変わった。B2時代に対戦歴があるが、当時はセルフィッシュな印象が強かったと記憶している。確かに得点は取っていたものの、チームとして対応すれば守るのに特段の苦労を強いられることはなかった。

しかし信州に来てからは一変。必ずしも無理せず、シチュエーションに応じて最適なプレーを選択する。ビュフォードが出ていない時間帯には特にウッドベリーの存在は大きいだろう。

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まだまだ進化するビュフォード
パスを駆使して「無双」に期待

大きな役割を果たしてくれるであろう2人。今後も活躍に期待がかかる半面、特にオフェンス面ではチーム戦術にアジャストする余地を感じさせた。

例えば第2節・愛媛オレンジバイキングス戦GAME1、第1クオーター残り1:25の付近。ディフェンスリバウンドを取ってからの攻撃でビュフォードがフロントコートまで持ち運ぶ。だがコールがなく、4人は彼がどうするのかを見て止まっている。

勝久HCはおそらく、持ってただ1対1を仕掛けるだけ――という戦術は採らない。それでも決めるのがビュフォードであり「すごい」「さすが」となるけれども、毎回必ず決まるわけではない。結局このシーンも、自分でそのまま打ったシュートはリングに嫌われた。

アシストも4試合で22回を記録しているが、基本的には「自分で決められない時の消極的な選択肢」としてのパスがほとんどだ。突出してスペシャルな選手はえてして自分で決めたいし、ハングリー精神も強いから不利な体勢でも打ちたいもの。そこで周囲を効果的に使えるようになれば、誰にも止められない“無双状態”になれるだろう。

今回ピックアップしたのは一例。ビュフォードに限った話ではないが、やはり新加入の選手が信州のバスケットを体得していくには時間を要する。ディフェンス面も同様で、ピックアンドロールの守り方で一歩や半歩ズレている場面なども散見された。

唯一無二の大黒柱マーシャル
若き2人が学びたい「技術」とは

そして最後に、日本人ビッグマン・渡邉飛勇についても記しておきたい。僕自身も現役時代に同じセンターだったこともあり、勝久HCの戦術において重要な役割を果たすポジションであることは承知している。

その中でもポジティブな驚きだったのは、リムプロテクターとして想像以上に機能したことだ。「ゴールを守る」という肝心かなめの仕事に関してはその能力を十分に発揮しており、ウェイン・マーシャルが不在でもカバーできるのが最大の魅力だと感じた。

一方でやはり、戦術の体得には時間を要する。ルールに則したカバレージのコールなどが徹底できていなかったり、ポジショニングが中途半端で相手にスペースを与えてしまっていたり。細かく突き詰める必要があるだろうが、映像を見ながら少しずつ改善していくしかない。

その点、マーシャルはスタッツに表れない部分も含めて貢献度が非常に高い。カバレージを毎回コールして相手を嫌な方向に攻めさせ、確率が低い位置や体勢に追い込む。そうした細かな技術が211cmの身体に詰まっており、実際にマーシャルがコート上にいる状況での相手のシュート確率はかなり落ちる。

38歳とベテランの域に入って久しい。しかしB1を含めてリーグ全体を見渡しても、同水準の繊細な技術を備えるビッグマンは見当たらないように感じる。それだけ唯一無二のプレーヤー。狩野富成も含め才気あふれる若いビッグマンたちが間近でその技術を学べば、大きく飛躍できるだろう。

勝久HCは、特にディフェンスに関して求める水準が高い。映像を入念にリプレイしながら徹底的に遂行力を要求するし、そこに妥協はしない。実際に僕も現役時代は「自分は24時間バスケットのことを考えている。私にできて君たちにできないはずはない」と説かれ続けてきた。

その情熱と頭脳で描き出すバスケットをこのメンバーで体現できれば、手のつけられないチームになるだろう。ビュフォードをはじめ豪華なタレントをアジャストさせ、チームとして機能させることができるか。そのワクワク感を胸に、まずはホーム開幕戦を心待ちにしたい。

PROFILE
佐藤 託矢(さとう・たくや) 1983年8月25日生まれ、大阪府出身。東住吉工高(現・東住吉総合高)時代はウインターカップ、インターハイともに4強を経験し、青山学院大ではインカレ準優勝。当時JBLの三菱電機からスタートし、千葉ジェッツ、京都ハンナリーズなどを経て2018〜21年に信州でプレーした。引退後はクラブの「信州ふるさと大使」となり、今季からはアカデミースーパーバイザーも兼任。「ど素人バスケ」と出張型パーソナルトレーナーを自主事業とするほか、養護学校などでのボランティア活動も実施している。好きなおつまみは梅水晶。


ホームゲーム情報(10月19-20日、青森ワッツ戦)
https://www.b-warriors.net/lp/game_20241019_20241020/
クラブ公式サイト
https://www.b-warriors.net/

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