“憧れ”を“現実”に変える飯田孝雅 左腕で射止めるターゲット

SVリーグの荒波に挑むVC長野トライデンツが、いきなり試練に直面した。第4節GAME1、絶大な存在感を示していたデンマーク人オポジット(OP)ウルリック・ボ・ダールが故障。急きょ出場した大卒ルーキー飯田孝雅がコートで奮戦した。“憧れ”を何度も現実に変えてきたバレーボール人生。今回もまた、そのスタートラインに立った。

文:大枝 令

ウルリックの負傷で交代出場
示した存在感と実感した課題

「その時」は唐突に訪れた。

WD名古屋戦GAME1の第1セット、18-20の局面。ウルリック・ボ・ダールがジャンプサーブを打った後、着地とともに倒れ込んだ。アクシデント。呼ばれたのは、同じ左利きのオポジット(OP)飯田孝雅だった。

「絶対にいつかは出番が回ってくると思っていたので、準備していたつもりだった」

相手がセットポイントとなり緊張感が漂う中、バックアタックを決める。これが自身のSVリーグ初得点となった。

以降はのびのびとプレー。「2セット目は緊張することなく、思い切ってやることができた感触がある」と話すように、その後もバックアタックがさえた。チームは敗れたものの、GAME1のアタック決定率は66.7%。一定の存在感を示した。

そのパフォーマンスの陰には、コート内の選手たちによる声がけが大きかったという。 迫田郭志、備一真ら上の世代のみならず、同世代の工藤有史と安原大も気遣って声をかけた。樋口裕希と迫田を中心に、選手たちが開幕前から大事にしている”雰囲気”が飯田をゲームに入り込ませた。

PROFILE
飯田 孝雅(いいだ こうが) 2002年1月19日生まれ、千葉県出身。市立船橋高から東海大に進学。4年時には左肩の手術を乗り越え、キャプテンとしてチームをけん引。同期入団の佐藤隆哉(OH)とともに全日本インカレを3位へと導いた。2023年12月5日にVC長野の内定選手となり、今シーズンに正式入団。オポジットで、左腕から繰り出す高精度のサーブなどを武器とする。183cm、78kg、最高到達点340cm。

しかし、翌日11月3日のGAME2。今季初めてのスタメン出場で打数こそ35と打ちまくったが、相手のブロックに阻まれるなどで苦しみ、決定率は34.3%にとどまった。

「思い切りやりたかったけれど直接のミスがすごく多かった。相手のオポジットとの差もすごくあったと思う」

身長183cm。決して高い方ではない。
その中で生き残っていくため、シーズン前から自身の課題は明確だった。

「身長がない分、細かいプレーの精度を上げたい。例えばレシーブもそうだし、高いブロックに対して打って勝負するだけではなくて、うまいプレー。ブロックを利用したり、かわしていくプレーを頑張りたい」

GAME2はまさにその課題が表面化し、壁に跳ね返された。

負傷したウルリックはGAME2の会場にも顔を出しており、第2セットが終わった後に励まされたという。「まず楽しむことを忘れないで」「思い切ってプレーをして」と。

「ケガをして一番悔しいのはウルリックのはずなのに、僕が暗い顔をしていたみたいで、わざわざ(スマートフォンの)翻訳機能を使って励ましてくれた。ウルリックの分まで頑張らないといけないと思った」

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左肩手術から復帰してVC長野へ
成長を遂げての恩返しも期す

以前からワンポイントでコートに立ちはしていたが、これだけの時間プレーするのは初めて。憧れていた舞台のスタートラインに立った。

トップリーグを明確に志すようになったのは市立船橋高時代。高校選抜のタイ遠征メンバーには高橋藍(サントリー)や水町泰杜(WD名古屋)らがおり、タイの実業団チームにも勝つ強さだったという。

強いチームに自分がいる――。その中でプレーすることで成長への道筋が明確に見え、おのずとトップリーグへの思いが芽生えた。

大学は東海大に進学。中学時代に試合を見て憧れ、目標にしてきたチームだ。4年時にはキャプテンに就任。しかし酷使してきた左肩の痛みが限界を越え、2023年4月に手術へと踏み切った。

4〜5月の関東大学春季リーグ、6月の東日本インカレはともに不出場。進路の選択肢はおのずと限られてしまった。

だが、最終的にはVC長野から内定を得た。目指していた舞台への切符。「シーズン中に結果を出して、目標をかなえてくれた川村(慎二)監督とかに『良い選手を取れた』と思ってもらえれば一番いい」と、恩返しも胸に秘める。

何度も“憧れ”を現実のものに
ウルリックの思いも受け止めて

自身を含めて大卒1年目が5人。工藤と安原大はスタメン出場を続けている。「同級生が多いのは自分としてもやりやすいし、頼もしい」。励まし合いながら日々を送った先に、見据えるものがある。

「伸びしろの面では一番あるチームだと思う。すごい外国籍選手や代表選手のプレーを吸収して、どんどん強くなっていけるシーズンにしたい」

振り返れば何度も、“憧れ”を現実に変えてきた。
中学時代、強い東海大に衝撃を受けて奮起した。
高校時代、チームメイトに感銘を受けてトップリーグに思いを馳せた。

そして今度も、また――。

「僕が画面で見て『参考にしたい』と思っていた選手たちとコートで対峙するチャンスがあるかもしれない」

「ずっと宮浦健人(STINGS愛知)選手に一番憧れてきて、参考にしている。対戦する機会が楽しみだし、うれしい」

日本代表で、同じ左利きのOP。開幕節のSTINGS愛知戦で同じコートに立ったのは、GAME2のマッチポイントからのワンプレーだけだった。次の対戦機会は2025年4月5-6日。その時までに地道に力を蓄え、ネットを挟んで対峙できるか。

もちろん、ウルリックの“代役”ではない。たとえ高さや強さはなくても、自分だけの武器がある。回転を生かした左腕のサーブも磨きながら、成長を示すシーズン。まずは11月8-9日の次節・広島サンダーズ戦を、その一里塚とする。

憧れを、ただの憧れで終わらせはしない。


SVリーグ第5節 広島サンダーズ戦 試合情報
https://vcnagano.jp/information/15791
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461

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