【Farewell-column】闘志を吹き込んだブロックの達人 VC長野・樋口裕希

バレーボールの季節は、桜吹雪とともに去っていく。長野県内のSVリーグ男子/Vリーグ男女の計3チームからも、今季限りでの退団者が発表され始めた。本企画はチームを去る選手・スタッフに敬意を表し、その働きぶりやチームに遺した財産などを改めて記録するもの。第1回は、VC長野トライデンツのアウトサイドヒッター(OH)樋口裕希にスポットを当てる。
文:大枝 史/編集:大枝 令
輝きを放ったWD名古屋戦
死闘の末に引き寄せた大金星
2025年1月18日、エントリオ。
第13節GAME1でフルセットに及んだ激闘の末、最後の1点をもぎ取ったのは樋口のスパイクだった。

「なんとか一矢報いられるように頑張る」
試合前にそう話していた樋口だが、相手コートに突き刺さったものは一矢どころではなかった。第5セットのスコアは実に26-24、上位の相手に歴史的な1勝を挙げた立役者となった。

振り返れば第11節のWD名古屋戦GAME2でも、第2セットから出場。相手オポジット(OP)ニミル・アブデルアジズのスパイクを1枚ブロックでシャットするなど存在感を見せつけていた
次節の東レ静岡戦でも、持ち前のブロックを効果的に機能させて勝利に貢献。直接的に自身のブロックポイントには結びつかなくても、毎回考えて他の選手に指示を出してきた。

「実際にその通りになって得点になることは多いので、僕が入っていてブロックが機能することは多いと思っている」
自身の強みはブロックとサーブにある――と、つねづね公言していた樋口。数字だけで見ればセット平均0.26ではあるが、その数字だけでは計り知れない活躍を見せた。

広告
キャプテン藤原も頼る兄貴分
同じOHの工藤にも刺激与える
存在感を放つのは、決してコート内だけではなかった。迫田郭志とともに日鉄堺BZから移籍加入した28歳。若いチームに対して積極的に働きかけ、意思疎通を円滑にした。
「コミュニケーションをすごく多く取ってくれて、みんなにアドバイスをしてくれていた」「上で経験してきているので、指示やチームをまとめるところで、今季は助けられた気持ちでいっぱい」

キャプテンの藤原奨太はそう振り返る。コミュニケーションの量が増えて活気を生み出す。練習でも試合でも、コートの中で大きな声を出している姿を何度も見せてチームを牽引した。
加えて、尽きせぬ闘志の発信源ともなった。

第11節WD名古屋戦の敗戦後には「丸くまとまろうとしている感がある」とチームの現状に対して厳しく言及。勝ちに貪欲にこだわる姿勢を見せた。
第17節サントリー戦の後には「ふわふわしているというか、勝ちにも負けにも慣れてきてしまった感じがある」と警鐘を鳴らしていた。

多くの経験があるからこそ、そして常にプロとして勝利を希求するからこその提言でもあっただろう。そのマインドを若い選手たちに伝え、気を引き締め、「勝ち方」を教えてきた。
そのスピリットは、確実に受け継がれている。
今季、主力として多くの時間をコートで過ごした工藤有史。同じポジションを争うライバルでもあったが、若手の有望株に惜しみなく成長の材料を与えてきた。

「プレー面に関しては全部教えてくれたし、どういう心構えで試合に臨んでいるか、試合中に何を考えているかを参考にしていた」
「(迫田と二人で)僕の成長を助けてくれた」
工藤はそう振り返り、感謝の念を口にする。在籍は1年と短かったものの、多くの言葉と行動を残した樋口。それに刺激を受けた若き俊才たちが必ずや、VC長野を次のステージに引き上げる。

PROFILE
樋口 裕希(ひぐち・ゆうき)1996年4月27日生まれ、群馬県出身。高崎高から筑波大を経て2018年、V1堺ブレイザーズに入団内定。18-19シーズンから内定選手として試合に出場した。2019、20、22年には日本代表登録メンバーに選ばれ、22年はアジアカップ準優勝に貢献した。24-25シーズンはSVリーグ初年度のVC長野でプレーし、若手が多いチームで精神的な支柱にもなっていた。ブロックに定評があるアウトサイドヒッター(OH)。192cm、85kg。最高到達点344cm。
樋口裕希 2024-25 SVリーグ男子 個人成績
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/player/detail/3542