10.12 SVリーグ開幕戦のVC長野 “下克上”へのロードマップは
国内外のタレントが集うSVリーグ。VC長野トライデンツの開幕戦も10月12日に迫り、アウェイでジェイテクトSTINGS愛知と対戦する。就任3シーズン目の川村慎二監督が率いるチームは、強豪ひしめくリーグでどう戦うのか。クラブが掲げた目標は「10勝」。実績ある日本人選手らを加えた編成ポイントのほか、チームの強化方針などについて、指揮官に話を聞いた。
文:松元 麻希/編集:大枝 令
たとえサイズで劣っていても
泥くさく拾う路線を継続・強化
――今季でVC長野を率いて3シーズン目に入ります。今季のチーム編成のポイントについて教えてください。
色々な大学に声掛けさせていただき、アナリストを含めて6人の新人が加入しました。アクシデントで入院している選手(セッター中島健斗)もいますが、なんとか(同ポジションの)早坂(心之介)を補強できました。
開幕に全てをぶつけるというわけではなく、リーグを通して成長してチームの基盤をしっかり作りたいです。今季は他チームもかなり補強していますので、苦しい戦いになるのは間違いありません。そのなかで、どれだけこのチームが食らい付いていけるのか。必死になってボールを追いかける姿を、ファンに見てもらえればと思います。
PROFILE
川村 慎二(かわむら・しんじ) 1978年、滋賀県出身。大阪商業大学卒業後の2001年、パナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)に入団。07-08にVプレミア、08年には黒鷲旗大会を制して最高殊勲選手賞(黒鷲賞)を受賞。12年の黒鷲旗大会でも最高殊勲選手賞受賞とベスト6選出。14-15シーズンにパナソニックの監督に就任。Vプレミアで優勝2回、準優勝2回の実績を残す。22-23シーズンにVC長野の監督に就任し、今季で3シーズン目を迎える。
――今季戦っていくうえで、チーム全体として特に力を入れていることは?
VC長野の監督に就任してから意識しているのは、サーブとサイドアウトを重視すること。サーブについては、選手個人がパフォーマンスを上げてほしいですし、サイドアウトは徹底的にしっかり取れるようにしていきたいです。
決して大きな選手がそろっているわけではないので、もちろんブロックも必要なんですけど、抜けてきたボールをどれだけ拾うか、そこからどういう展開に持っていくか。泥くさく、全員で拾って繋いでいくことを重視しています。
たしかに、身長の差は戦力に大きな影響を与えるかもしれません。でも世界を見ると、小さな選手も頑張っています。例えば前チームの監督をしていたときに、ミハウ・クビアクという身長191㎝のOHを呼んだ経験があります。あれで日本のバレーは変わったと思います。
世界から見たらすごく小さな選手なんですが、ポーランド代表のキャプテンも務めていましたし、世界バレーでも優勝して“世界No.1のサイドプレーヤー”と言われたほどの人材でした。彼が入ってきてから、小さくても工夫すれば必ず決まっていたんです。
SVリーグで対戦するチームはタレントぞろい。コートに入る6人の連係やコミュニケーションを密にして、そこに打ち勝つチーム力を高めていく必要があります。
経験豊富な樋口&迫田が担うもの
ヴェールを脱ぐ新外国籍選手は
――日本製鉄堺ブレイザーズから移籍加入したプロ契約のOH・樋口裕希選手と迫田郭志選手に期待する部分は?
樋口は日本代表に入った経験もあるし、迫田も経験豊富。そういうところは積極的に若い選手に教えてほしいと話をしています。ただ2人とも技術はもっと上げられると思うので、その辺はどんどん言うとも伝えています。
ちなみに樋口は彼が大学生のときに取ろうとしていた選手のひとり。迫田も、そのときに似たようなタイプの選手が何人かいて取れなかったのですが、大学の先生にすごく勧められて注目していました。
――今季から始まるSVリーグでは、オンザコートの外国籍選手の数が増えます。継続のトレント・オデイ選手(MB)と新入団のウルリック・ボ・ダール選手(OP)、彼ら外国籍選手に期待する部分は?
トレントはVC長野2シーズン目で、しかもオーストラリア代表のキャプテンになったと聞いているので、リーダーシップを発揮してもらいたいです。バレーボール用語でのコミュニケーションというのは実はすごく簡単にできるので、もっともっとコートの中で選手たちと話してほしいと思っています。
ウルリックは昨シーズン、スペインリーグでサーブ賞を取っています。サーブが決まったらガッツポーズして吠えるような熱い選手でもあり、チームを鼓舞する役割も期待したいです。
“勝てる”チームに成長する手段
サーブ強化とサイドアウト率向上
――格上に粘って食らい付くチームをつくるために、日々の練習でこだわっている部分があれば教えてください。
練習中でもボールをポトポト落とす場面があるので、「そこをなぜ行かないのか」と追及することはあります。(SLAM DUNKの)安西先生ではないですけど、「諦めたらそこで終わり」。パナソニックパンサーズにいたときも選手には同じことを言っていましたが、今のチームにはなおさら、もっと必死になってやるよう伝えています。
あとはサーブの強化。常に数字が表示されるモニターを置き、選手のサーブの平均速度を測りながら数字を少しずつ伸ばす練習をしています。さらに平均より少し上のスピードで打ち、どれだけコート内に入れられるかを追求しています。
ボールを自分で上げて自分で打つのは、バレーの中でサーブだけ。つまり、自分のメンタルの問題だと思うんです。選手からしたら嫌だとは思いますが、そういうプレッシャーのかかる状況を練習から意図的に生み出しています。
ちなみにSVリーグのサーブ平均速度は110㎞/h前後。ネーションズリーグ2024に出場していたオランダ代表のニミル・アブデル=アジズ選手(ウルフドッグス名古屋)は、世界最速の134㎞/hを出していました。
選手たちも「さすがにこれは取れない」と言っていましたけれど、サーブも、セッターとスパイカーのコンビプレーも高速化しています。ただそこには絶対的な技術が必要なので、まずはそこをしっかりするように伝えています。
男子の場合は相手にAパスを返されたら、ほぼ7割は点を取られてしまう…というデータが出ています。ですから結局は「どれだけ相手にAパスを返させないようにサーブで攻めるか」が大事です。
昨シーズンはサイドアウト率が60%前後で、トップレベルのチームとは10%ほど差がありました。それではやはり負けてしまうので、そこをしっかり上げていかないといけません。
レセプションは(リベロの)備(一真)が中心にいてけっこう返っているので、あとはコンビの精度をもっと高めていければと思っています。
華やかなのは強烈に打ち込むスパイクですが、得点はそれだけではありません。思いきり打っても1点、フェイントして決まっても1点、ブロックアウトも1点。一番安全なのはブロックに当たって自チーム側に返ってきてアウトになることです。
県内唯一の男子トップカテゴリー
潜在的な“バレー熱”に火をつける
――VC長野の監督として3シーズン目を迎え、この地域やクラブに対して感じていることはありますか?
地域の方に応援してもらえることをこんなに肌で感じたのは初めてで、それはVC長野ならではの魅力だと思います。
またVC長野では、「こういうことをやりたい」と言えば、実現することが多いです。もちろん、不足している部分もまだまだあります。ただSVリーグでずっと戦い続けるのであれば、やはりもっと上を見る必要があるとも思います。
長野県内の男子のプロチームのなかで、トップカテゴリーにいるのはVC長野だけ。そのなかでさらに上位に食い込んで、知名度を上げていくのも一つの手でしょう。長野県は春高バレーで優勝する高校や全国に出る中学もあって、男女ともバレーが盛んな地域であることも大きいと思います。
――改めてVC長野というチームをどうしていきたいか、あるいはこのクラブをどういう存在にしていきたいか。何かビジョンはありますか?
もっと認知を広げるために、チームを強くしたい思いがあります。そして「対戦相手に有名選手がいるから行こう」「日本代表選手が入ったから見に行こう」ではなくて、「VC長野が好きだから見に行こう」としたい。そのうえで、チームから日本代表選手を出していきたいです。
SVリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/sv_men/team/detail/461
クラブ公式サイト
https://vcnagano.jp/