三叉の槍が天を衝く WD名古屋との死闘を制して“歴史的一勝”
膝をつきそうな局面は何度もあった。幾度となく絶望の淵に立たされた。それでも臆することなく立ち向かい、激戦の果てに大勝利をもぎ取った。SVリーグ男子第13節GAME1。後半戦スタートとなったVC長野トライデンツは4連勝中の2位・WD名古屋にフルセットで金星。心技体すべての要素が噛み合い、格上のホームで番狂わせに至った。
文:大枝 令
後半戦スタートの試合で劇的白星
確かな自信を得た意義深い一勝
身がすくむような死闘の中で、工藤有史は不敵に笑っていた。
25-24。
本来なら15点先取の最終セットで、実に10回目のマッチポイントを迎えた局面だ。
「ここで決めたらおいしいな」
サーバー工藤の脳裏にそんな考えがよぎり、思わず口角が上がった。そしてこの日何度も相手を崩してきたように、強烈なジャンプサーブでレシーブを大きく狂わせる。
ブレイクチャンス。セッター(S)早坂心之介が選んだのは左サイドのアウトサイドヒッター(OH)樋口裕希だった。「もう何も考えていなかった。ブロックは1枚だったし、思い切り打っただけ」という一撃が、鮮やかな弾道で相手コートに突き刺さった。
ベンチメンバーも次々とコートに飛び出し、歓喜の輪ができる。2時間53分に及ぶ激闘の末に、特大の果実をもぎ取った。
「フルセットで勝ち切るのは本当に難しいけれども、あの点数まで行って勝ち取れた。選手にとってはすごく自信に繋がる一戦だったと思う」
「すごくいい形で後半戦のスタートが切れた。これから後半戦が続いていく中で、今日の勝利は本当にいいステップになったのではないかと思う」
川村慎二監督も、大仕事をやってのけた選手たちを手放しで讃える。それほど意義深い、大きな一勝だった。
高精度のサーブで相手を崩し
ブロックディフェンスも機能
というのも今季、WD名古屋には4戦全敗。全てストレート負けで、とりわけ1月4-5日のアウェイ第11節はなす術なく一敗地に塗れていた。
「強いうえにノリノリで来る。個が強くて6人で殴ってくる感じで、久しぶりに心を折られた」。OH工藤が前回対戦をそう振り返っていた通り、一分の隙もない高い壁――かと思われた。
だが今節、同じ轍は踏まない。
黒と赤の絶対空間・エントリオを、番狂わせの舞台に一変させた。
まずサーブが絶大な効果を発揮する。
工藤とオポジット(OP)ウルリック・ダールが強打で攻めると、ミドルブロッカー(MB)山田航旗は狙いすましたフローターで崩す。樋口も巧打が光る。
チーム全体でサーブ効果率は11.5%と今季3番目に高い数字。特にウルリックはサービスエース5本を決め、効果率も23.1%と目を見張るパフォーマンスだった。
こうして相手のレシーブを狂わせると、ブロックディフェンスも機能する。MBトレント・オデイがブロック5本を決めるなど、チームとしても12本(1セット平均2.40)。シャットアウトし切れずともコースを限定し、切り返しにつなげた。
「ブロッカーがコースを限定してくれていたので、一人一人が役割を果たせたと思う」。リベロ(L)備一真はそう話し、すがすがしく汗をぬぐった。
相手のビッグサーバーに対抗
拾って粘って我慢比べを制す
執拗にサーブで攻め、蟻の一穴を穿つ。
そしてサイドアウトだ。
相手のビッグサーバーを、極力1回で終えさせる。
リーグNo.1プレーヤーのOPニミル・アブデルアジズ、OH水町泰杜らの強力無比なジャンプサーブを、備や工藤がきっちりレシーブ。第2セットこそ海千山千のS深津英臣が繰り出す変幻自在の左腕に苦しんだものの、総じて見ればダメージを最小限に抑えた。
シーズン当初からこだわってきたサーブで崩し、ブロックディフェンスからブレイクを狙う。高精度のサーブレシーブからきっちりサイドアウトを取る。強気に中央を通す早坂のトスワークも冴え、混戦に持ち込んだ。
そしてフルセットにもつれると、驚異的な粘り強さを発揮した。14-14のデュースから常に一歩リード。決め切れずとも、サイドアウトを取り続ける。樋口は振り返る。
「みんながあの場面で臆することなく楽しんでやっていたのが良かった。勝負強さが自分の売りでもあるけれど、5セット目は全員が本当に勝負強かった」
その言葉通り、誰もがヒーローだった。
15-15、ニミルの強烈なサーブを備が拾ってウルリックが決める。19-19からのOHティネ・ウルナウトのサーブも同様に1回で切る。神経がすり減るような、終わりなき激闘。最終盤は相手のミスも目立って我慢比べを制した。
「あまり(細かな展開を)覚えていないけれど、そのくらい、1点を取る、サイドアウトを取る、ブレイクを取る――という気持ちが入っていたからこそ、一本一本に集中できた」
備がそう話すように、土壇場でも気迫で引かず、集中も切らさず、目の前のワンプレーにフォーカスし続けた結果だった。これでフルセットに至った試合は広島TH戦、ヴォレアス戦に続いて3戦3勝の勝率100%。忍耐強さと遂行力が光り、選手層の厚いWD名古屋を撃破した。
最高峰カテゴリーで初の6勝目
地域を巻き込んでさらなる熱を
そしてこの日の勝利をもって、VC長野は新たな地平に立った。
旧V1リーグも含めた国内最高峰カテゴリーの戦いで、最多だった2021-22と22-23シーズンの5勝を早くも上回ったのだ。在籍3年目となる備は、これまでの歩みも振り返りながら実感を込める。
「1年でチームを変えることはできないけれど、2〜3年とやってきて、新しい移籍組もいるし、いい考えや技術を持ってきてくれる人たちも加わっている。3年目にして『戦える』という手応えはすごくある」
そして、力強く続けた。
「6勝だけではなくて10勝とか、もっともっと上を狙える。今日勝って、その気持ちが強くなった」
樋口も「この勝負強さを毎回終盤で出し切れれば、もっともっと戦えるしもっと勝てると思う」と確かな手応えを口にする。アウェイで2位WD名古屋に勝ち切ってみせたのは、その意味でも大きな成功体験と言えるだろう。
最終盤。驚異の粘りを発揮するVC長野の選手たちを後押しするように、会場の声援はひときわ大きくなっていった。そのパフォーマンスは見る者を釘付けにし、拳を握らせ、思わず声を発させる。
そうした光景がホーム・アウェイ関係なく見られるようになり、仲間を巻き込んで燕脂色のうねりを広げられるか――。「チーム、パートナー、地域」が一体となった三叉の槍“トライデンツ”はその時にこそ、真の存在価値を示すのだろう。
監督・選手コメント(クラブ公式サイト)
https://vcnagano.jp/match/2024-2025-sv-div13-1
SVリーグ 試合結果詳細
https://www.svleague.jp/ja/match/detail/32231