正解のない世界で探す最適解 中島健斗がアップデートする“セッター観”

半年にもおよぶケガから復帰し、少しずつプレータイムを伸ばしているVC長野トライデンツのセッター(S)中島健斗。SVリーグ第20節サントリーサンバーズ大阪戦のGAME2(2025年3月23日)で、復帰後初めてのフル出場を果たした。東山高(京都)時代は髙橋藍(サントリー)と共闘して名を馳せ、今シーズン正式加入した司令塔。苦悩と迷いを乗り越え、新たな地平へと足を踏み入れようとしている。
文:大枝 史/編集:大枝 令
ケガから復帰して初のフル出場
パイプ攻撃で見せた存在感
凱旋の舞台で存在感を示した。
サントリーサンバーズ大阪とのアウェイ2連戦。GAME2では大阪府出身の中島健斗が初のフル出場を果たした。8月に右膝離断性骨軟骨炎で手術をしたセッターにとって、初めての先発でもあった。

2セットを連取されて3セット目は先にマッチポイントを握られたものの、デュースに持ち込んでからは丁寧にサイドアウトを繰り返して耐え続ける。
終わりのないかのように重なり続ける得点。ブレイクを挟み、最後はオポジット(OP)のウルリック・ダールが決め切る。39-37と48分に及ぶ大接戦を制して1セットを取り返した。
最終的に、1-3で敗れはした。しかしこの試合ではセンターからのバックアタック、いわゆるパイプ攻撃が目立っていた。

バックアタック決定率は樋口裕希が63.6%、工藤有史が57.1%と両アウトサイドヒッター(OH)がそれぞれ高い水準の数字を残した。
「パイプがしっかり通用していたところは自信にしていきたい」と中島は試合を振り返る。
高いブロックに苦しめられはしたものの、パスが返ったら真ん中を中心にコンビを展開。中島の構成力も光り、高いサイドアウト率で粘り強い戦いに持ち込んだ。
「中島選手はサイドアウトがしっかり取れる」。川村慎二監督の期待に応えるマエストロぶりだった。

PROFILE
中島健斗(なかしま・けんと)2001年10月15日生まれ、大阪府出身。昇陽中学時代と東山高校時代に全国制覇を達成。天理大学4年時にVC長野トライデンツの内定選手となる。24-25シーズンに正式入団。トスの技術、組み立てを武器とするセッター (S)。2024年8月に右膝離断性骨軟骨炎で離脱し、手術からリハビリを経て復帰した。172cm、70kg。最高到達点310cm。
入院生活で「置いていかれる焦り」
苦しく長かった“冬”にピリオド
「昨年2勝で終わっていたところが、今年は勝ち数を増やせている。チーム的には成長している中で、僕はケガがあった」
2024年10月の開幕節、STINGS愛知戦は現地で観戦。いきなり格上を撃破してみせたチームの姿を目の当たりにした。

チームが違いを見せていく中で、自身はボールに触ることもできない。3カ月にも及ぶ入院生活が終わってチームに合流しても、プレーできない苦しさがある。
東山高時代も右肩をケガして4カ月の離脱を経験したことがある。しかし今回は事情が異なる。チームにセッターが自身以外にも2人おり、取り残されていく焦燥感が募った。

「メンタル面は高校時代に離脱した時と比べるとシンドい」と振り返る。それでも復帰に向けて、体育館の隅で黙々と別メニューをこなしていた。
「中島選手のリハビリの頑張り、練習に対する取り組みは私たちも選手一人一人も見ている」
指揮官がそう話すように、その姿は誰の目にも映っていた。選手、スタッフはもちろん、学生時代の戦友たちも復帰を後押し。中島自身も、「チームから必要とされているのを感じたので、そこをモチベーションに頑張ってきた」という。

そして3月1日のサントリー戦で復帰を果たす。「入院生活もつらかったけど、ここまで踏ん張れてよかった。ケガ明けでも使ってもらえているというのは、評価してもらえているのかもしれない」とうなずく。
復帰戦の会見で手術、リハビリ生活を問われると何度も「シンドい」という言葉が出てきた。中島の長かった冬は、ようやく終わろうとしている。

戦術的思考の「深化」と「進化」
SVリーグで磨く新たな武器
中島にとってアウェイのサントリー戦は、故郷への凱旋だけでなく、恩師の前でのプレーでもあった。
東山高時代の松永理生コーチが2月からサントリーのアシスタントコーチに就任。「セッターとしてどうあるべきか。全然知識がなかった状態の僕に教えてくれて、変えてくれた存在」だという。

「全国大会に出られるような厳しい環境に身を置きたい」という思いで選んだ進学先。中学時代は「決めてほしいと思う人に上げていた」程度だったが、高校では絶対的エース・髙橋藍(サントリー)を中心とした戦術的思考を学んだ。
「エースをおとりにして他の選手を生かすのか、逆に他の選手をおとりにしてエースを生かすのか」

そうしたバレー観も、今はアップデートを遂げようとしている。
学生時代は「ここ一番というときはブロックが2枚つこうが3枚つこうが、託すところは託す」という考えがあった。しかしSVリーグで戦う今は、事情も異なる。
「この世界に入ると向こうも考えてブロックもしてくる。正直、『何か違う』という気も今はしている」

そう考えるようになったきっかけの一つも、サントリーとの試合だった。
復帰戦となった第17節のGAME2。第4セット、24-23からはOPのウルリックに連続でトスを上げた。しかし、決め切ることができなかった。結果、24-19から逆転されてセットカウント1-3で敗れた。
「あのときは『ここはエースに上げないと』と思ってはいたけど、あの試合でも『そうじゃないのかな』と思わせられる部分もあった」
「まだまだこれから考えてやっていかないとダメだなと考えさせられる試合だった」

「組み立て、上げ方、ブロックの振り方に正解はないと思っている」「自分なりのセットアップの仕方もあるので、自分のよさをもっともっと伸ばしていきたい」
熱を込めながら語る中島。正解のない世界で、自分だけの最適解を模索し続ける。
チームは節目の10勝を目前にして足踏みが続く。東レ静岡に挑む次節こそ、若き司令塔のタクトで白星にたどり着きたい。

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SVリーグ チーム紹介ページ
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