「バレーのまち須坂」を夢見て “臥竜”から“昇竜”に変わるシーズンの最終戦へ

「須坂と言えば長野GaRons」。そう思い浮かべる日を目指して、クラブのスタッフは日々汗を流してきた。練習に打ち込む現場の選手たちも、ホームゲームを企画運営するスタッフも。今季から取り組みのスピード感を高め、徐々に効果が表れ始めた。ラストゲームとなる2025年3月22-23日のホーム・東京ヴェルディ戦を前に、歯車を動かした裏方2人のストーリーを紹介する。

文:原田 寛子/編集:大枝 令

子どもたちにVリーグ観戦体験を
須坂市の小学生は無料招待に

「いけいけ!ガロンズ!もう1本!!」

元気な小学生の声が須坂市市民体育館に響く。

長野GaRonsは今年1月から須坂市内13校の小学生が無料観戦できる企画をスタート。活気あふれる小学生の来場者が増えている。

試合後には少年が「楽しかった」と目を輝かせて会場を後にする姿も見られた。

「子どもたちの声が聞こえてくるのはうれしいし、自分たちの姿を見てバレーをやりたいと思ってもらえたら本望。もっと広げていきたい」

声援を受け、アウトサイドヒッター(OH)小林哲也は顔をほころばせた。

一人でも多くの子どもたちに試合を見てもらいたいのはもちろん、「須坂市にVリーグのチームがある」という認知度の向上も狙う。

それは同時に、かつて一人のバレーボール少年が抱いていた「憧れ」を具現化した取り組みでもある。

長野GRの運営会社・信州スポーツプロモーションの韮崎昌彦社長。須坂市出身の元バレーボール選手だ。 「自分の小さい頃の思いを乗せた感じがある」と話す。

新旧トップ選手が巣立った須坂
“バレーの息吹”をさらに広げる

長野県で「バレーボールのまち」と言えば、まず岡谷市が想起されやすい。

全国的に有名な強豪校の岡谷工業高は春高バレー3連覇などの経験があり、2008年北京五輪代表にも選ばれた松本慶彦(日鉄堺BZ)や越川優(元セリエA2・パッラヴォーロ・パドヴァ)などを輩出した実績もある。

しかし、振り返れば須坂市もバレーボールの歴史は浅くない。

長野GRが日々練習をしている須坂市立墨坂中は、インドアとビーチで合計4回の五輪に出場した高橋有紀子さん(日立、富士通長野など)の出身校。在籍中の1981年には全国中学大会を制した。

今季限りでの引退を発表した元日本代表リベロ山岸あかね(埼玉上尾)も須坂市の出身。裾花中から東海大三高(現東海大諏訪高)、東海大を経て長年トップリーグで活躍してきた。

©︎NAGANO GaRons

「岡谷も有名だが、須高地域(須坂市・小布施町・高山村・長野市若穂地区)にも小布施ジュニアや若穂ジュニアなどの強豪チームはあるし、オリンピック選手も輩出している」

県北部にも古くからバレー文化が根付いている――と、韮崎社長は話す。

自身や市内の相森中時代からバレー部に所属し、高校は岡谷工業へ。そこから専修大、富士通川崎と選手としてプレーしてきた。

「須坂市は高橋さんという有名人の出身地なのに、バレーボールチームはなかった。だから僕が子どもの頃は親に東京まで連れて行ってもらわなければ、生でバレーボールの試合は見られない。簡単に観戦できる環境ではなかった」

「子どもの頃に強いチームで活躍しても、須坂市にプロチームがなければ市外でプレーするしか選択肢がなくなる」

その頃の記憶が甦る。
当時の自分を今の子どもたちに重ねた。

「地元にプロチームがあるのだから、もっと子どもたちに見てほしい。気軽に自転車で試合を見に来られる環境を作りたい。市外に進学した子どもたちが『須坂に戻れば長野GRがある』と知ってほしい」

その思いが韮崎社長を動かした。

芋煮会が繋いだ2人の情熱を形に
バレーボールで地域への恩返し

運命の歯車が回り始めたのは、2023年の夏。

韮崎社長がチームのGMに就任して2年。新Vリーグ構想が発表され、ライセンス取得に向けた課題を前に四苦八苦していた時だった。

「チームの存続にも関わるほど崖っぷちに立たされていた。藁にもすがる思いで、地域おこし協力隊が開催する開催する芋煮会に参加した」

©︎NAGANO GaRons

須坂市在住在勤など、須坂市に関わるさまざまな人が集まる芋煮会。存在こそ知っていたが、参加したことはなかった。糸口を探すために足を運び、地域おこし協力隊の北直樹氏と出会う。現在はクラブのスタッフとしてマーケティングなどを担当する人物だ。

(以前の記事 https://shinshu-sports.jp/articles/9737

韮崎社長は「運命の出会いだったと言っても過言ではない」と振り返る。北氏も同様に「韮崎さんとは価値観や熱量が合う。一番大事な部分だと思う」という。

韮崎社長が持つのは、故郷・須坂とバレーボールに対する愛情。

「すごく地元が好き。住みやすい街にしたいし、もっと須坂を知ってほしい。自分がやってきたバレーボールで地域貢献ができるのなら、何よりうれしいと思う。バレーボールに対しても恩返しができる」

北氏が触れたのは、須坂の人たちの魅力。

「外から来た僕に対しても、温かいし優しい人ばかり。信頼していろいろと任せてくれる。何かしら恩返しがしたいと、自然に思う」

開幕戦のフードイベントから始まって現在に至るまで、二人三脚の改革がスピードアップ。SNS発信やサイトの再構築、来場者へのアンケート。そしてアンケートを基に、セット間のステージイベントも新たに打ち出す。

地道にできることを少しずつ、それでも着実に形にしてきた。

その効果が見えたのは2月16日、R栃木戦だった。ホーム開幕戦から1月までは200人程度だった来場者数が、424人まで増加。会場の声援は一段と大きくなった。

原動力は須坂とバレーボールに対する情熱のみ。2人が現状で得ているのは、勝利後の選手たちや来場者の笑顔“だけ”と言っても過言ではない。

「バレーボールで須坂を盛り上げたいという情熱だけで、何の見返りがなくても動いている韮崎さんに動かされた。このままでは絶対に終わらせない」

集客力を高め、事業としての継続性を見込める次のフェーズへ――。北氏の目に力が宿る。

今季ラストゲームでも新たな挑戦
子どもたち対象のイベントを企画

3月22-23日。会場を須坂市北部体育館に移し、ホームで今季ラストゲームを行う。もちろん、須坂市内の小学校に通う生徒は全員無料だ。

さらに北氏はこの日に合わせ、子どもが楽しめるイベントを企画した。

「隣にある芝グラウンドでは、バブルロワイヤル(風船相撲)やパン食い競争(小学3年生まで)など、子どもたちが遊べるような体験型アクティビティをいくつも用意している。1人でも多くの人に足を運んでもらえたらうれしい」

パン食い競争は市内の温泉施設「湯っ蔵んど」の全面協力により、人気の「くらワッサン」を使う。

さらに体育館前ではキッチンカーも出店。最後のホームゲームを盛り上げるため、運営も一丸で取り組む。ホームゲーム情報を集約した特設ウェブページも作成するなど、力の入れようがにじむ。

長野GRは現在8勝16敗で東地区6位となっており、最終戦は東京ヴェルディを迎える。昨年11月のアウェイでは連日フルセットの末に勝ち切った相手。下位にいながらも、高さのある攻撃は決して侮ることはできない。

長野GRも現在は8連敗中と苦境にあるものの、ラストゲームはやはり笑顔で終えたい。加入内定選手のOH小林慧悟は「最終戦をいいムードで迎えたい」と力を込める。

©︎NAGANO GaRons

年明けとともに、新スローガン「昇竜」を掲げ突き進んできた。「バレーのまち須坂」への営みを加速したシーズンのラスト・ダンス。コートに地域に爪痕を残しながら、力強く昇っていく。


Vリーグ男子東地区 東京ヴェルディ戦(3月22-23日)ホームゲーム情報
https://garons-match.net/
クラブ公式サイト
https://garons.jp/
Vリーグ チーム紹介ページ
https://www.svleague.jp/ja/v_men/team/detail/474

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