ラーナー新監督が照らす道標 トライデンツに現れた変化とは

一つ一つの指示には明確な意図が通っている――。SVリーグ男子の信州松本トライデンツを新たに率いるトーマス・ラーナー監督がチームに合流して1週間が経過した。熱量に満ちたチーム練習は質も高まり、昨季からの変化が見え始めている。2026年8月10日、11日の練習試合を取材し、SVリーグでの3シーズン目の戦いに向けて新指揮官が示す道標を探った。
文:大枝 史
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練習を止めて意図を伝える
きめ細やかで具体的な指導
トーマス・ラーナー新監督は8月4日にチームに合流。初日のトレーニングでは何度もプレーを止めて選手全員に話しかける姿が印象的だった。指示した練習にどのような意図があるのか、どのような意識が必要なのか。選手に問いかける場面もあった。

ラーナー監督の下で2年間、プレーした経験があるリベロ(L)松尾敬介は「(ラーナー監督は)大事なポイントがあれば毎回伝える」と明かす。
「僕たちが意識できていなかったり何の意味を持った練習か分からなかったりしたら、意識の確認や意思疎通ができるように伝えてくれる」。印象的に映った姿勢は“初回の練習だから”ではなく、ラーナー監督の日常的な指導方法というわけだ。

その指導はきめ細やかで、具体的だ。
例えば、相手のスパイクをレシーブでやや後方に高く上げ、その後トスで相手に返す実戦的なメニューに取り組んだ場面。ラーナー監督が指示をするためにプレーが頻繁に止まった。
大卒3年目のシーズンを迎えるアウトサイドヒッター(OH)佐藤隆哉は、対人練習のレシーブ時にラーナー監督から指示を受け、「『しっかりと構えてレシーブする準備をしよう』と、言われなかったらおろそかになりがちなことを逐一言ってくれるので、(意識するべきプレーに)よりフォーカスできる」と受け止める。

90秒間だけ集中するトレーニングなど短い時間の中で強度を高くする工夫や、練習前後に密集して円陣を組んだり練習後には全員でハイタッチしたりとチームの結束力を高める意図も散りばめる。
単調な反復練習を繰り返すだけでなく、より実戦を意識した対人練習の中で質と熱量を追い求めようとする仕掛けで、練習に取り組む選手たちがエナジーを注げるように促している。

セッター(S)星名勇佑は「自分がどう思っているか、どう考えてそのプレーをしたかを言わなれけばいけないから、コミュニケーションが普段から増えている。今シーズンはチームとしてまとまってきている。すごく良いチームになっていると思う」と数日間での変化を口にする。

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戦術の前段階にある個の課題
ラーナー監督が求める像は
8月10日以降は立教大学、VC山梨、天理大学と練習試合を行った。
本格的にボールを扱う練習を開始してからわずか1週間の期間ながら、クイックやパイプといったコンビ攻撃も多く決めて快勝。選手たちがバレーボールを楽しめるような試合内容だった。

そうした練習試合の中でもラーナー監督は選手たちに積極的に声を掛け、具体的な指示を出し続けた。そこにはチーム戦術の前段階、個人としての課題が多く含まれていた。
例えば大卒1年目のミドルブロッカー(MB)千葉貫世には「速く打つことと、コースを打ち分けるためにネットから離れて打つこと」。スパイクが決まったとしてもそれが徹底されていないと容赦なくダメ出しが来る。
千葉は「SVリーグは日本人だけではないので、身長がない人は速さやコースの打ち分けで勝負していかなければいけない。理にかなっていると思う」とうなずく。

「クイックパイプを速くする、トスを上げた時に最後まで手を出す、まず(ボールの)下に入る」
星名が受けた指導は基礎的な内容ばかりだ。

セッター陣にはトスを落とす位置も指示。アンテナ手前でトスを落とし、そこにスパイカーが入り込む形だ。
「スパイカーがトスの文句を言うのであれば長い時だけ」
そうしたラーナー監督の指示には「誰が出てもいいように」という明確な意図がある。

明確なシステムとビジョン
選手たちが受け止めた要求の質
練習試合に先立つ8月8日、MBデイビッド・スミスがチームに合流した。
2008-09シーズンはドイツ・ブンデスリーガのTV Rottenburgでラーナー監督とチームメイトで、共にプレーした間柄だ。

「ボブがコーチになってからもつながりがあった」と明かすスミスは、ラーナー監督について「すごく明確なビジョンとシステムを持っている。やることがすごくクリアになって良い方向を向いていける」と話す。
目線をそろえてチーム戦術を浸透させる前段階として、まずはやるべきことを徹底させる。それは個別の課題であったり、アスリートとして求められることであったりとさまざまだが、選手たちへ具体的な目的と目標を提示する。

OH工藤有史は「練習内容は大きくは変わっていないけれど、ワンプレーに対する要求がいろいろとあるので質は上がっていると思う。1球に対する熱量をすごく求めているように感じている」と受け止める。
1球に対する執着は、昨シーズン終盤に監督代行を務めた古田博幸コーチが意識していたことと同じ。それを「またか」と受け流すのではなく、自分ごととして正面から受け止める姿勢がチーム内に生まれているのは、指揮官が外国人に交代したという側面もありそうだ。

千葉は「監督が外国人になった以上、どんなやり方でもついていくしかない。監督の言うことは絶対だから、それに従っていく」と決意を口にする。
練習の変化が、「新鮮だから」「外国人監督だから」という単純な理由だけなら一過性で終わり、昨季までの低迷から脱する成長は期待できない。
ラーナー監督が示す道標を頼りに、選手たちが本気で汗を流し続けることができるか。
この先の変化に注目していきたい。
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