アルクマ“応援団長”にエール 個性豊かすぎるマスコットの生態

生誕15周年を迎えた長野県のPRキャラクター「アルクマ」が、新たなチャレンジをしているらしい――。2024年9月20日、編集部にそんな情報が寄せられた。調べてみると、何やら各クラブのマスコットキャラクターたちが膝詰めで会議をしているではないか。さらには応援団を結成し、クラウドファンディングにも挑戦しているという。実態を探るため、長野県観光スポーツ部などに突撃取材した。

文:大枝 令

生誕15周年でスポーツコラボ
クラウドファンディング挑戦中

信州に出没する、大変珍しいクマ。
クマなのに寒がりで、いつも頭にかぶりもの。
クマなのに旅好きで、いつも背中にリュックサック。
信州をクマなく歩きまくり、信州の魅力を世の中にクマなく広めるのが生きがい。

アルクマ公式サイトのプロフィール紹介にはそうある。

信州をクマなく歩く。長所は「行動的なこと」。実際にこれまでも、バスケットボール・信州ブレイブウォリアーズやフットサル・ボアルース長野、野球・信濃グランセローズなどの試合を応援しに行ったことがあるという。今季はJ3リーグの信州ダービーをサンプロ アルウィンで観戦。10月5日の長野Uスタジアムも参じる予定だという。

なるほど、アクティブである。

AC長野パルセイロのライオー(左)、松本山雅FCのガンズくん(中央)と並ぶアルクマ。“禁断”の組み合わせも、イノセントなマスコットたちはノープロブレム(©︎松本山雅FC)

今回のマスコットキャラクターたちとのコラボ。まず4月に長野県が部局を「観光スポーツ部」と再編したことに端を発する。スポーツをプレーする側だけでなく「見る側、支える側」にも焦点を当て、誘客などさまざまな施策につなげていく目的だという。

折よく、アルクマも生誕15周年。このタイミングで各クラブのマスコットたちとタッグを組んだ。6月20日はまず全員が集合して「長野県の『スポーツ』を考える会」を発足。“三人寄れば文珠の知恵”である。何を話し合ったのか。真実は闇の中――もとい、マシュマロの中。定かではないが、9体(?)による叡智を結集した。

県内8クラブの“叡智”が長野県庁に集結した6月20日の顔合わせ。アルクマ応援団長のもとで企画を熟考していく。ちなみに会話は無言でも成立するらしい(©︎長野県観光スポーツ部)

そして7月23日、活動内容を記者会見で発表した。
公式サイトにもあるように、活動は以下の通り。

①「長野県の『スポーツ』を盛り上げる応援団(仮)」を結成!応援団名を募集します。
②長野県の各プロスポーツチームのアルクマ用ユニフォームを作るため、クラウドファンディングに挑戦します。

アルクマにとっては初のクラウドファンディング。支援も順調に集まってはいるものの、もうひと伸びがあれば理想的。8チームのユニフォームを作り、皆さんと一緒に応援したいのだそう。総じて「温かい」のが信州プロスポーツの特徴だが、競技やクラブによってカラーは異なる。アルクマにはそれぞれの魅力をぜひ味わってもらいたいと願う。

©︎長野県観光スポーツ部

応援団はアルクマが団長を務める。名称は150件以上の応募が寄せられており、その中から各クラブの意向も踏まえて選定する。現状では「アルクマ」の名前を取り入れた候補が多いというが、それはよく考えたら書くまでもない当然の成り行きだった。

いずれにしても、カッコ良くてかわいい感じになるのだろう。クラウドファンディングも名称応募も、9月30日が期限となっている。

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アフロ&ヒゲの男性がなぜ参加?
直撃して判明した「深イイ」思い

さて、ここで気になることがある。
7月23日の記者会見。集合写真がこれだ。

©︎長野県観光スポーツ部

――人間がいる。
一人だけリアルに“受肉”しているではないか。

気になったので、さっそく問い合わせを入れた。フットサル・ボアルース長野だ。クラブ担当者によると、まず「マスコットではありません。人間です」という回答。それはそう。ちなみに何かしらの“本職マスコット”を置くつもりも、今のところはあまりないという。

ではなんだろうか。
ビジュアルは確かに、マスコット然とはしている。“アフロ&仙人ヒゲ”のスキルセットを備えている長野県民は200万人のうち1桁だろう。おそらく。

その正体は、田中智基さん。
れっきとした選手だった。

絶大なインパクトと毛量を誇る田中智基さん。長野県のサッカー好きには「“静学”で安藤淳さん(元松本山雅)の1学年後輩」と言えばわかりやすいだろうか

しかも経歴も実績もチーム屈指。サッカーの名門・静岡学園高を卒業した後はフットサルに転向してF1クラブなどでプレーしてきた。チーム最年長39歳で、地域の保育園などに出向いて巡回指導もしているという。「子どもたちの人気者なんですよ」とクラブ担当者が教えてくれた。

すかさずアポを取り、県庁での取材を終えた後でボアルース長野の練習会場に急行。本人を直撃した。

「巡回指導をしていても、周りに子どもたちが集まってくるような状況でした。そういうこともあってクラブから話が来て行ったんです」

なるほど、わかる。

「他のみんなはちゃんとしたマスコットじゃないですか。僕だけ人間なのにいいのかな…って思ったんです。しかも県の事業ですよね。逆に『これで通るんだ…』って驚きました」

「これで通るんだ…」と田中さんも驚いた第1回の会議。マジメにアイデアを考え、意見を出していったという。脳内で(©︎長野県観光スポーツ部)

その通りだ。

ものすごく物腰柔らかに、ものすごくストレートな正論。ちなみにクラブの担当者は「なんならサングラスもかけよう」と、ギリギリのラインを攻める強気なスタンスだったという。田中さんは「怒られるのは僕なんですけど」と苦笑交じりに振り返りつつ、まんざらでもない様子だった。

「僕、子どものために何かをすることが好きなんです。だから、なんのスポーツでも一緒になって活動できたらありがたいと思っていました。だから今回はこういう応援団が結成されてすごくうれしかったし、楽しみでもあると感じました。アルクマが応援団長になってくれて、みんな心強いと思います」

「アルクマはマスコットとしてすごく活躍されていますし、僕が生身で行ってどうしたらいいのか分からなかった時に、すごく親切にしてくれたので助かりました。一緒に助けたり助けてもらったりしながら、長野県を盛り上げていきましょう!」

アルクマにエールを送る田中智基さん。記事公開の9月25日はちょうど39歳の誕生日を迎える

とても、とてもちゃんとしていた。

ちなみにボアルース長野はF2リーグを9戦全勝の首位でターンしており、中断期間を経て後半戦が10月6日から再開する。

F1復帰に向け、田中マスコット担当は「最低でも優勝、最高で全勝優勝。手応えもあるし、その目標に向かって一丸となって進んでいます。優勝報告の喜びをみんなで分かち合えたらうれしいです」と話してくれた。

1体だけ“次元が違う” ニクいヤツ
微笑みのドラゴンは県庁を彷徨う

謎は一つ解けた。
しかしまだ、不可解なことがある。

(©︎長野県観光スポーツ部)

右端、1体だけ“次元が違う”――。

立っているステージが違う…ということなのだろうか。そもそも、田中さんに支えられているようだ。見た目はファンシーだが、いったい何者か。調査すると、その正体は男子バレーボール・長野GaRonsの「ガロゴン」だということが判明した。

「思ったよりヤバいのが出てきたな…」

そんな心の声を押し殺し、おそるおそるクラブに問い合わせを敢行。すると、「普段は臥竜公園の池に棲んでいる竜なんですよ」と教えてくれた。そもそもGaRonsの名前も、須坂市民に馴染みの深い臥竜公園からとっている。特に桜の時期はライトアップが美しい名所だ。

臥竜の里からやってきたガロゴン。辰年の2024年は昇竜のごとく飛躍するに違いない

このガロゴン。クラブの担当者によると、できれば“3次元化計画”も進めはしたいのだという。

それはそうだろう。2022年の信州ダービーでは、長野Uスタジアムで1体だけ非常にシュールな姿でダンスしていたのを個人的には知っている。Jリーグの取材を10年以上してきて、トップ5に入る衝撃だった。

ただ、今は2次元で場所を取らないメリットを最大限に生かしている。というのも7月23日に全員集合して以降、県庁本館棟2階の観光スポーツ部が気に入って棲み着いているのだ。

いいのか?いろいろな意味で。

「今は県庁にいてもらっているので、どうぞー」

いいらしい。

電話口のクラブ担当者が軽やかにそう言うので、言葉に甘えてガロゴンの“日常”を激写した。通路で穏やかな笑みをたたえていたかと思えば、職員の仕事ぶりをじっと見守ることも。

ちなみに職員が「すごい圧を感じます…」と笑っていたのはここだけの話だ。これには偉い人も思わずニッコリ。

つぶらな瞳で県職員の仕事ぶりを入念にチェックするガロゴン。バレーボールも仕事も、チームワークが大事なのだ

そんなガロゴンも、アルクマとともにスポーツを盛り上げていくのだという。

「ガロンズのユニフォームを着たアルクマ団長、楽しみだなぁ!スポーツに熱い想いを持っている皆さんと一緒に、もっともっと、『クマなく』盛り上げていきたいです!」

意外と流暢に話すガロゴンだった。

チームはリーグ再編の中でVリーグに参戦する。前身の富士通長野時代から指揮を執る篠崎寛監督が、日夜を問わず手続きに奔走してライセンスを取得。10月19日に北海道イエロースターズを迎えた開幕戦からシーズンが始まる。

記者会見に不在だったガンズくん
「夏バテ」で欠席の埋め合わせを

あと一つだけ、問題が残っている。
あるマスコットが不在なのだ。
「ウフフフフ♪」という笑いが特徴のライチョウ。松本山雅FCのガンズくんだ。

普段なら躍動感たっぷりのガンズくんが不在。何があったのだろうか…?(©︎長野県観光スポーツ部)

実はこの日、「夏バテ」ということだった。
しかし、だ。

アルプスから下山してきた雪男のブレアーも、羊毛でモッコモコのルートンも出席している。今回は、信州スポーツのマスコット界における、いち大事の会見。いないとはこれいかに。頂を目指す雷鳥の名が泣くのではないだろうか。

クラブ担当者に詰め寄ると「なんでもします」と平身低頭。せっかくなので、信州のプロスポーツを牽引してきたトップランナーとして、アルクマへの応援メッセージを特別にもらうことにした。

「この前は夏バテで行けなくてごめんね!本当はアルクマにもみんなにも会いたかったんだよ〜。今度また一緒にお話しようね!クラウドファンディングも、達成できるとうれしいな〜!本当にぼくたちみんなの力を合わせて、もっともっとスポーツを盛り上げていこうね!ウフフフフ♪」

表情からも反省がひしひしと伝わってくるのではなかろうか(©︎松本山雅FC)

これにて一件落着、である。

マスコットを前にすると、悔しい試合結果でも不思議とマイナスの感情がほぐれていく。周囲が勝敗をコントロールできないスポーツというコンテンツにおいて、その存在は唯一無二。彼らの癒しによって、幾多のささくれた魂が救われてきたはずだ。

今回、生誕15周年のタイミングで応援団長となったアルクマ。各クラブのマスコットとともに観戦に赴けば、癒しの効果はさらに高まるのではないだろうか――。これもまた、スポーツ文化の醸成には欠かせない一つの要素だ。


アルクマ 15周年企画ページ
https://arukuma.jp/anniversary15th
アルクマカンパニー 公式サイト
https://arukuma.jp/

一言も発さずに乗り切ったアルクマ。周りが自発的に動くのも、応援団長の人(?)徳だろう(©︎長野県観光スポーツ部)

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